【学長メッセージ】令和元年度卒業生・修了生の皆様へ 

 新型コロナウイルス感染症が世界的に猛威を振るい、日本においても感染拡大が懸念されていることから、本年度の卒業式・学位記授与式を執り行うことができませんでしたが、本日3月24日(火)に卒業・修了する皆さんの新しい門出を祝し、小林淳一学長のメッセージを動画で配信しております。是非、ご覧ください。
【卒業生・修了生の皆さんへ 小林淳一学長メッセージ(全文)】 

 昨年末、中国で発生した新型コロナウイルスが世界中に広がり、日本も例外ではなく、その蔓延を食い止めるために、多くの努力をしているところです。政府からは、大勢が集まる行事は極力避けるようにとの通達が出ています。その影響を受け本学においては、令和元年度の卒業式・修了式を中止することになりました。卒業式・修了式を心待ちにされていた皆さんには、大変申し訳なく思っています。本来であれば式典において私から皆さんに告辞を述べるところですが、それがかなわなくなりました。そこで、私からは「卒業生・修了生の皆さんへのメッセージ」を送ることとしました。

 システム科学技術学部224名、生物資源科学部152名の卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。大学院システム科学技術研究科及び生物資源科学研究科において、修士・博士の学位を得られた79名の皆さんの修了を心からお祝い申し上げます。また、今日まで学生・院生の皆さんを支えてこられたご家族の方に、大学を代表して心からお喜びを申し上げます。

 今年度卒業ないし修了される皆さんは、これから社会人あるいは大学院生として、様々な分野で活躍されることになりますが、それぞれの心構えについて始めに触れたいと思います。

 まず企業等に入社される皆さんについてです。今までとは全く違う環境に身を置くことになりますので、焦らずじっくりと新しい環境に慣れていくことが大事です。まずは、生活のリズムをしっかり作るように心がけてください。慣れるまで大変ですが、徐々に慣れてきます。会社は皆さんの態度に注目しています。そのポイントは二つあります。一つは、気持ちの切り替えがきちんとできているか、もう一つは、前向きな態度で仕事に取り組もうとしているかです。焦る必要はありません。分からないことは遠慮せず周りの人に聞いてください。皆さん親切に教えてくれるはずです。一つ一つできるようになったことに感動しながら少しずつ仕事を覚えてください。皆さんに是非心に留めておいて欲しい事を一つ述べておきます。

 今ここに解決しなければならない大きな課題があったとします。皆さんはどうしますか。誰かやってくれるだろうと傍観しますか。皆さんには課題解決に向け是非チャレンジしてほしいと思います。私は、行動の原点は「勇気を持つこと」だと思っています。勇気は、鍛えて獲得できるものではありません。心構えの問題です。その秘訣は物事を楽観的に捉え、「やってみなければ分からない。」と自分に言い聞かせ、まず第一歩を踏み出すことです。しかし、必ずしもうまくいくとは限りません。その場合は周りの人の力も借りてその対策を考え、少しでもうまく行くように修正し、次のステップに向かいます。そして、その繰り返しによって、今まで見えなかったものが見えるようになり、課題解決に向け前進できます。この経験、実感は皆さんの自信に繋がります。自信がつくと最初に述べた第一歩を踏み出す勇気の意味が分かってきます。皆さんには是非この感覚をこれからの仕事の中で身につけてほしいと願っています。また、うまく修正できるようになるためには、専門的知識を増やし、課題解決に向けてのアイデアをたくさん持つ必要があります。これが皆さんを強くし、価値のある人間に成長させます。
 
 一方、大学院へ進学する皆さんは、これからより高度な研究を行うことになります。研究には当然未知な部分があり、高いハードルが隠れています。それをどう乗り越えるか、その方法論を学ぶことが最大の目的です。乗り越え方は様々ですが、原動力はその研究に魅力を感じていることです。新しい発見をしたい、現象のメカニズムを明らかにしたい等様々ですが、それらの欲望が最も大切です。しかし、これもそう単純ではありません。研究対象はまだ掴み所がなかったり、ぼやっとしていたりして、そもそもターゲットが明確でないケースが殆どです。山を麓から眺めているだけでは、ルートは見つからないし、その険しさも分かりません。まずは、山の麓を歩きながら少しずつ上る道を探していかなければなりません。研究は、緻密な努力の積み重ねによって一歩ずつ前に進んでいきます。それに耐える体力、心構えを大学院で学んでほしいと期待しています。
 
 さて、これから皆さんが働く社会の変化についてお話ししておきたいと思います。電子デバイスなどのハードウエアの指数関数的な性能向上と、それに並行してのソフトウエア開発環境の進展により、今まで想像もできなかった技術革新が加速度的に進展しています。Society 5.0と言う言葉を何度か耳にしたことがあると思います。Society 5.0とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)のことと定義されています。つまり、Society 5.0で実現する社会では、IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、イノベーションにより、今までにない新たな価値が生み出されることで、ビジネスの世界が大きく変わることが予想されています。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服される事も期待されています。これらは、誰か他人がやってくれるのではなく、皆さん自身が仕事や暮らしの中で率先して行うことになります。ビッグデータの集積や人工知能AIの進展は皆さんの仕事にも大きな影響を与えます。マニュアルに従って行う仕事、自分の経験知で判断して行う仕事は、AIに取って代わります。皆さんにはもっと創造性の高い仕事が求められます。本学で学んだ問題を発見し自ら解決できる能力と経験が役に立つはずです。創造性を高めるためには、考え抜く力が必要です。すべての仕組みや行動において、「何故」と何度も問いかけ、その本質を見極め、そしてそこから真の課題を抽出し解決するための新たな方法を見つけ出す手法を身に付ける事が大切です。従って、これから活躍される皆さんにとっては、この考え方がもっとも大事だということを心に留め、このセンスを磨いてほしいと切に願います。

 次に、学び直しについて一言述べておきます。皆さんが企業に就職したとしても10年後には皆さんが勉強した技術は陳腐化し、また人工知能の普及により、仕事の質が変わることが想像されます。また企業の戦略に基づきビジネス内容の変更や統廃合により、必要となる知識が変わって来ることも考えられます。この結果、学び直しが必要となる機会が増えて来ると思われます。つまり、これからは常に勉強し続けなければならないことになります。まず、そこをしっかり認識することが大事です。そして、より早く何を学ぶべきかその対応策を考えるべきです。大学は皆さんの要望に応えるために、学び直しの場を提供することが不可欠になります。現在のリカレント教育に加え、皆さんが必要とする内容に対応した教育プログラムを提供しなければならないと考えています。本学では皆さんが必要な時にいつでも本学で勉強できる体制を充実させていきますので、気軽に利用して下さい。私たちはいつでも皆さんをサポートします。

 最後に、県外に出られる皆さんは、周りの皆さんに秋田の良さを宣伝して頂くと共に、なるべく多くの機会を作ってまた秋田にお出でください。卒業、修了される皆さんが健康に留意され、それぞれの環境の中で成長し、活躍される事を祈念し、学長からのメッセージとします。
 
秋田県立大学 学長 小林 淳一