令和5年度入学式を執り行いました

 令和5年4月6日(木)に秋田キャンパス講堂にて、令和5年度秋田県立大学入学式が執り行われ、学部生417名、大学院生81名、編入学生(学部生) 7名が入学を許可されました。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響により、令和2年度は入学式を中止、令和3、4年度は秋田会場と本荘会場に分散し、新入生のみが参加し実施しました。本年度は4年ぶりに、両学部の新入生が秋田キャンパスに一堂に会し、保護者も参加して入学式が執り行われました。

 4月1日付けで就任した福田裕穂学長は式辞の中で、「秋田県立大学の学びの中で、心からやりたいことを愚直に追い求め、国際社会で活躍する力を培ってほしい。未来の秋田県、未来の日本、さらには未来の地球を創造するプロフェッショナルとして活躍することを願っています。」と式辞を述べました。続いて来賓祝辞として、佐竹敬久秋田県知事よりご祝辞をいただきました。

 また新入生を代表して、システム科学技術学部 機械工学科の佐々木 武琉さんが「常に未来の大きな目標を見据えて勉学に打ち込み、自信と誇りを持って自らを向上させ、先輩たちとともに本学の無限の可能性を切りひらいていきます」と力強く宣誓すると、在学生代表の生物資源科学部 生物環境科学科の黒江 友香さんが「努力で培った知識や技術は自分を支える力となります。今というかけがえのない時間を大切に、目標を持って有意義な大学生活を送ってください」と歓迎の言葉を述べました。
 


福田 裕穂 学長 式辞 


秋田市は観測史上最速でサクラが開花


新入生代表挨拶 佐々木 武琉 さん


在学生からの歓迎の言葉 黒江 友香 さん


JA全農秋田から「サキホコレ」が贈呈されました


学長式辞全文

 秋田県立大学に入学された皆さん、そして大学院へ進学・入学された皆さん、おめでとうございます。秋田県立大学の教職員を代表して、皆さんの入学を心から歓迎致します。また、ご家族はじめご関係の皆さまにも、心からお祝いを申し上げます。

 秋田県立大学は、20世紀末の1999年に創立され、今年で開学25年目を迎えました。大学は、真理探究の精神をもち、広い視野と柔軟な発想のもと、豊かな創造力で、21世紀を切り開いていく人材を育成するとともに、先端的な研究や技術開発を行うことで、本県の持続的発展に貢献することを目指しています。この25年間に本学を卒業した卒業生総数は約9000名になりましたが、卒業生は皆、本学での学びを活かし、現在さまざまな分野で活躍しています。皆さんも是非、これら卒業生に続き、しっかりと本学で学び、社会に羽ばたいていってほしいと思っています。

 この25年の間に、世界は大きく変わりました。科学技術の急速な発展により、インターネットが世界の隅々までを繋ぎ、AIは人の知能に迫ろうとしています。こうした中で、グーグル、アップル、アマゾンといったネットワークを基盤に置いた会社が台頭し、世界のグローバル化が顕著になりました。これにより、世界の人たちと簡単に繋がることができるようになったのです。しかし、グローバル化はいいことばかりではなく、新型コロナウィルスが瞬く間に広がり、世界的なパンデミック状態を生み出しましたし、ロシアのウクライナ侵攻に伴う食糧輸出の停止は世界中の国の食糧不足を生み出しました。皆さんも体験されているように、日本でも、新型コロナウィルスによる社会の混乱はまだ続いていますし、食料品の値上げは私たちの生活を直撃しています。私は、こうした世界の急速なグローバル化の中で、若い人の真の国際化が大切だと思っています。国際化とは、こうした加速する世界のグローバル化の中で、正しく世界を知り、さらには自らの人としての力を高め、世界の人たちとコミュニケーションをとりながら、世界のために行動することだと思います。是非、皆さんには、秋田県立大学の学びの中で、国際社会で活躍する力をつけていただきたいと思っています。

 今日私は、真に国際的に活躍するというのはどういうことなのかを、中村哲さんを例に話してみようと思います。皆さんはアフガニスタンという国を知っていますか。紛争の続く国、テロの国、貧しい国など、あまり良い印象を持っていないのではないかと思います。しかし、歴史を紐解けば、アフガニスタンは文明の十字路とも言われ、東アジアとヨーロッパさらにはインドを結ぶ交通の要所で、古代から非常に栄えた地域なのです。奈良の正倉院などの文物の中には、アフガニスタンを通ってきたものもあるかもしれません。重要なために、その地の支配を狙って多くの国が争い、紛争が絶えない場所でもあったのです。

 さて、中村哲(てつ)さんですが、中村さんは、アフガニスタンで、地元に密着した医療や農業に尽力されたお医者さんで、親しみを込めてカカ・ムラト(中村のおじさん)と呼ばれ、現地で尊敬を集めていました。元々は九州大学医学部を出られた精神科医ですが、1984年にパキスタンのペシャワールの、ほとんど医療器具もない診療所で、貧しいらい病患者の治療を始めます。自ら治療するだけでなく、資金を集めて治療器具を揃え、地元の医師や協力者を巻き込み、たくさんの患者を診療できる体制を作っていきます。1991年には地域的に近く、さらに悲惨な状況に置かれているアフガニスタンの山岳地域3か所に、らい病だけでなく多様な病気を治療する診療所を開設します。これらの地域は紛争の最前線にあり、命懸けの仕事です。政府のエリートや欧米からの支援者は身の危険を感じ、任務の途中で去っていってしまい、それが地域の人たちの不信を駆り立てていきます。そうした中で、現地に最後まで留まり、誠実さを武器に、信頼に足る仲間を集め、自ら医療や組織構築を実践する実行力で、多くの貧しい人々の治療を続け、地域の信頼と尊敬を勝ち取ったのでした。

 ところが、アフガニスタンでは、2000年頃から大旱魃が襲い、豊かな穀倉地帯が砂漠へと変わってしまいます。旱魃により小麦が取れなくなるだけでなく、飲み水もなくなり、多くの人たちが亡くなっていきました。その現状を間近にみた中村さんは、「まず水が必要だ」と考えるようになります。そして、診療は仲間に任せ、日本の専門家の知恵も借りながら、現地の人たちを集めて、千を越える井戸を掘ります。これで、飲み水は確保できますが、小麦畑を元に戻すことはできません。そこで、さらに山の上の川から水を引いて砂漠に用水路を通すことを考え始めます。これを実行に移すために中村さんは、日本の用水路を見て回るとともに、数学も学び直し流量計算をし、様々な工夫を加えることで、現地に適した用水路の設計を行います。さらに、重機を自ら運転し、用水路建設の先頭に立って働きはじめました。
そして数百名の協力者とともに、様々な困難を乗り越え、ついに2010年、7年をかけた「アーベ・マルワリード」と名付けられた全長25 kmの用水路が完成します。地元の言葉で、真珠の水という意味だそうです。これにより、3000ヘクタールもの土地が灌漑され、作物ができるようになりました。この用水路には補強のための柳の並木、さらには防砂林が付属していました。このようにして、砂漠だった場所が緑に生れかわったのです。中村さんは、その後もここで培われた技術を活かし、アフガニスタン各地に用水路をつくり続け、砂漠を緑豊かな地に変えていきました。この技術はアフガニスタンの人々に継承され、さらに広い地域の灌漑が行われるようになります。

 中村さんは、紛争中も、政権が変わっても、危険を顧みず現地に留まり続けました。そして、政権のためではなく、そこで暮らす人を第一に、周りの人々を巻き込みながら、人々のための無私の事業を続け、成功させます。現実を冷徹に見つめ、適切な戦略を論理的に導き、自然や人々に対する優れた感性や豊かな人間性をもった一人の個人が、強い意志と聡明なアイデアで、世界に大きく貢献できるという壮大な例がここに示されています。ここには、私たちが学ぶべき真の国際人の姿があります。国際人の基本は、現地の人たちと一緒になって作業をすること、そして、そのために最大の武器は、誠実さと人間力であるということです。

 聖人君子のような中村さんで、私たちの手の届かないところの人のようにも思われますが、初めから崇高な目的のためにアフガニスタンやパキスタンに関わったのではないようです。中村さんは昆虫少年でした。そして、成人してから、アフガニスタンやパキスタンに棲息する珍しい蝶を見たいと思って、現地との関わりができたのでした。そんなこともあり、佐賀大学の研究チームは、佐賀県の山で発見したタマバエの新種を、昆虫好きとして知られていた中村さんに因み「Massalongia nakamuratetsui」と命名しています。

 それでは、ここ秋田県立大学の地でみなさんは国際人となるために何を学ぶべきなのでしょうか。冒頭にも話しましたが、私たちの大学では、「真理探究の精神をもち、広い視野と柔軟な発想のもと、豊かな創造力で、21世紀を切り開いていく人材を育成し、先端的な研究や技術開発を行うことで、秋田県の持続的発展に貢献すること」を目指しています。この目的にある、真理探究の精神、広い視野、先端的な研究や技術開発、どれをとっても、国際化がその基本にあります。私たちは、海外派遣など皆さんの国際化に向けて、多くのプログラムを用意しています。是非、皆さんには積極的に国際化プログラムに参加していただき、海外の歴史や人々の暮らしを実際に体験するとともに、同世代の海外の人たちと交流することで、日本の中だけでしか通用しないような思考を捨て去り、多様な考え方や視点を理解し尊重することのできる人へと成長していただきたいと思います。中村哲さんのような誠実さを含む人間力やコミュニケーションの力も、是非、大学での多様な活動の中から身につけてほしいと思います。

 同時に、国際化のために、秋田という地とじっくり対峙してほしいと思います。なぜなら、国際的な課題解決のための最初の実践の場として秋田はとても適しているからです。アフガニスタンで大旱魃が起きていると話しましたが、これは人類が引き起こした人災かもしれません。第二次世界大戦後に急速に進んだ人口増加、大量生産・大量消費、農業の大規模化、大規模ダムの建設、都市の巨大化などの人類社会の発展が、二酸化炭素などの温室効果ガスの大気中濃度の急激な上昇をもたらし、その結果、地球の気温上昇や砂漠化が進行しているのです。この地球の劣化をくい止めるため、国連ではSustainable Developmental Goals (SDGs)、持続可能な開発目標として17の目標を定めて、各国への努力を促しています。その基本は持続可能な地球の創成です。この中には様々な目標がありますが、効率的な生産システムの開発、再生エネルギーの利用、森の再生、持続的な農業の開発など、私たちの大学がまさに秋田で取り組んでいる内容とぴったり重なるものが数多くあります。豊かな自然に囲まれ、多くの森林や農地をもち、地場産業の発展している秋田の地は、まさにSDGsを学び実践するために最適な地だと思われます。皆さんには地の利を生かしてもらい、本学において、持続可能な地球を創成するための技と心を身につけていただきたいと思います。

 最後に、入学する皆さんにアップルコンピュータの創業者のSteve Jobs(スティーブ・ジョブズ)さんの有名な言葉を贈ります。Steve Jobsさんは母校であるスタンフォード大学の卒業式で『Stay hungry. Stay foolish.』と学生に呼びかけました。これは、まさに中村哲さんの生き方、そのものです。今の激動の世の中においては、既存の知識を学ぶだけでは不十分で、新しい創造が必要です。新しい創造は、個人の思いや好奇心をとことん追求した中でしか生まれません。皆さんが本当に心からなりたいもの、やりたいこと、これを愚直に追い求める。是非、これを本学で実践して下さい。

 皆さんは、新しい生活や学びに胸膨らませて、大学に入ってきていることと思います。未来を作るのはあなたたちです。是非、のびのびと大学生活を送り、自らを磨いてください。私たち教職員は全力であなた方を支えます。皆さんが、未来の秋田県、未来の日本、さらには未来の地球を創造するプロフェッショナルとなるべく、本学で学び、かつ充実した生活を送ることができることを願い、学長の式辞とします。

学長 福田 裕穂

「無限の可能性切り開く」県立大入学式、514人が新たな一歩(令和5年4月7日付け 秋田魁新報電子版にリンク)