北海道でササが一斉開花・枯死!! 蒔田明史副学長が現地調査しました

 今夏、北海道内の広範囲でササが一斉に開花、枯死する珍しい現象が確認され、蒔田 明史 副学長[専門:森林生態学]、大学院・生物資源科学研究科修士課程1年の小川 りささん(指導教員:生物環境科学科森林科学研究室 坂田ゆず助教)が現地調査を行いました。

 蒔田教授は、京都大学の学生時代から40年以上にわたり、ササの成長や更新過程などを継続してモニタリングを行っており、ササのユニークな生態や魅力を日々追い求めております。小川さんは、「クマイザサ小面積開花後の実生更新可能性の提示と非開花個体の侵入様式について」という研究テーマで、学部・大学院と一貫してササの開花について研究を進めています。

 ササはイネ科に属し、開花する際は茎にあたる「稈(かん)」を伸ばした先に稲穂のような花や実を付けます。根を伸ばして、一つの株で最大3㌶も広がります。北海道内のササはネマガリダケで知られるチシマザサ節(3種)とチマキザサ節(6種)に大別されますが、今回開花したのは北海道のササの約半分を占めるクマイザサです。北海道では、1970年代にチシマザサが各地で開花した記録が残っていますが、近年クマイザサが大規模に開花した記録はありません。

 蒔田副学長によると、タケササ類は種ごとに一定の開花周期があるとされ、一般的には、温帯のタケやササは熱帯のタケより開花周期が長いと考えられています。2007年にインドでメロカンナというタケが開花した時に、日本で栽培されていたものもほぼ同時に開花したことが確認されており、開花周期は遺伝的に決まっているのではないかと思われます。インドと日本とでは環境条件が大きく違うので、環境の影響で咲いたとは考えられないからです。一方、ササが枯れた後、元のササ原に回復するまでには20~30年かかるといわれ、森の樹木にとって、ササが少ないこの期間は子育てのチャンスです。1995年に林床のチシマザサが一斉開花した十和田湖畔のブナ林では、現在高さ1mくらいのブナの稚樹がたくさん見られます。5年前に愛知県を中心にスズタケが開花した際、付近の地域で古文書を調べた報告によると、120年前にも同様の地域でスズタケが開花し、村人たちがこぞって山に入ってササの実を集めたという記述がありました。このことから、スズタケは120年周期で開花するのではと言われています。

蒔田副学長のコメント

 今回の開花範囲は北海道全域に及んでいて、南は函館近辺から北は稚内、さらには利尻島、礼文島でも観察されています。特に旭川から北では開花地が密に広がっているようです。今回、道北、道央を中心に4日間で1500kmほど車で走りながら開花範囲の確認をしましたが、走れど走れど車窓に茶色く枯れたササ原が続いている様子など、まさに“圧巻”としか言いようがない風景でした。7月の調査時点ではササの実がたわわになっている様子も確認していますので、全道ではとてつもない量のササの実が稔ったと思われます。それで、今年ヒグマの糞にはササの実の殻がびっしり詰まっていたとか。これだけのササが枯れて、来年以降どんな変化が起こるか、大変興味のあるところです。その一方で、クマイザサは全国に分布しているササなのですが、今年本州で一斉開花がみられていないのも不思議なことです。北海道に分布しているクマイザサと本州のクマイザサとではこれまでの分布拡大の歴史が違うのだろうかなど、地史的な影響もあるのかもしれません。まさに、謎が謎呼ぶササ・ワールドです。 

小川さんのコメント

 私は卒論研究で、「小面積開花後11年間のクマイザサ実生個体群動態について」というテーマに取り組んでいました。ササの開花というと120年に一度起こる一斉開花のイメージが強いですが、実は小規模な開花が頻繁に起こっています。秋田市で12年前に起こった小面積開花では、種子は実り、その後に発生した実生(芽生え)は11年が経過した後も生存していました。しかし、一斉開花後の実生を追跡した過去の研究と比較したところ、非常に成長が遅いことがわかりました。そこで、なぜ成長が遅いのか疑問に持ち、一斉開花と小面積開花について直接比較することを目的とし、調査に行きました。よく観察される小面積開花は、群落の一部のみ開花し、周囲には非開花のササが多くあるのに対し、北海道で観察した一斉開花は、林床を埋め尽くしているササが見渡す限り広範囲に開花していました。また、調査場所への移動の際、至る所で開花が観察され、離れたところでも同じ時期に開花しているというのが印象的でした。 種子の結実率(全体の花の数に対し、種子が実った割合)を比較すると、小規模な開花地では平均6%ほどの低い結実率でしたが、一斉開花地では57%となり、小面積開花に比べ非常に高い結実率でした。今後ササの種子からの芽生えや成長に違いがあるのか調べていく予定です。


北海道・宗谷丘陵 一斉開花し、その後枯死した


枯死して茶色く枯れているクマイザサ


北海道からサンプリングした種子


 お米と大きさを比較!!タネにはデンプンが詰まっていた

『なぜ? 全道でササが一斉開花、枯死 数十年から百数十年に1度 シカ餌不足の恐れも』北海道新聞デジタル版  

秋田市・一ツ森公園の一斉開花の様子(令和4年5月)