【開催報告】木材高度加工研究所 開所30周年記念講演会

 令和8年9 月4 日(金)、ANA クラウンプラザホテル秋田にて、本学木材高度加工研究所(通称:木高研 / モッコウケン)の開所30周年を記念し、記念講演会および祝賀会を開催いたしました。当日は、行政関係者、木材・建築業界の皆様、地域関係者、本学教職員および卒業生など約120名にご出席いただきました。

 講演会では、産学官連携の歴史やこれからの木材産業の未来について活発な意見交換が交わされるとともに、祝賀会では、終始和やかな雰囲気に包まれ、30年の節目を祝い、関係者の絆を改めて確かめ合う、温かいひとときとなりました。

 木材高度加工研究所は、この30周年の節目を契機として、持続可能な社会の実現に向けた木質資源の高度利用や先端研究、そして地域社会への貢献に一層邁進してまいります。ご出席いただいた皆様、ならびにこれまで研究所を支えてくださった皆様に心より感謝申し上げます。

【開会挨拶】地域の課題に向き合い、次の30年へ 木材高度加工研究所 所長 栗本 康司

 当研究所は1995年4月、秋田県立農業短期大学の附置研究所として発足し、1999年の秋田県立大学開学を経て今日まで歩みを重ねてまいりました。この30年間、「資源依存型から技術立地型へ」という理念のもと、地域資源である木材に新たな価値を見出し、地域産業の発展や教育研究の成果を社会へ還元してまいりました。脱炭素社会や資源循環型社会への転換が急務とされる今、再生可能資源である木材の重要性は一段と高まっています。これまでの30年は、研究室の中にとどまらず、地域、産業界、行政、国内外の研究者と深く繋がり結ばれてきた歴史です。この節目を新たなスタート地点とし、教職員一同、さらなる技術革新と地域社会・木材産業への貢献を目指して邁進してまいります。
 

【式辞】世界の卓越した研究ハブを目指して 秋田県立大学 理事長兼学長 福田 裕穂

 木高研は、木材形成のメカニズムから森林全体に至るまで視野を広げ、木材の高度利用や新価値創出において日本の最先端を走り続けるユニークな研究拠点です。その象徴が、大型プロジェクトCOI-NEXT『森の価値変換を通じた、自律した豊かさの実現拠点』です。秋田県内の3公立大学(秋田県立大学・国際教養大学・秋田公立美術大学)をはじめ、自治体、企業、そして東フィンランド大学やブリティッシュコロンビア大学との連携により、秋田を実験フィールドとした社会実装を進めています。大学全体としても、令和9年4月、農工融合大学院「未来・グリーンデジタルサイエンス学環」開設を筆頭に、学部組織刷新などの連続的な改革を推進しており、木高研にはその核となる役割を期待しています。今後も地域の皆様やパートナー企業の皆様とともに、世界から研究者が集う森林・木材研究の卓越した国際的なハブとして発展してまいります。
 

【来賓祝辞】秋田県副知事 谷 剛史 様

 本研究所は平成7年、秋田県の木材産業を「資源依存型から技術立地型」へ転換することを目的に誕生しました。全国で木材に関する唯一の大学附置研究所として、古くから“木都”として栄えた能代の歴史と産業基盤を生かし、基礎研究から開発研究まで一元的に推進されてきました。人口減少が進む本県において、知の拠点である大学を核としたイノベーション創出は、地域の発展を支える上で極めて重要です。県といたしましても、地域の課題解決と経済発展に向け、これまで以上に連携を深めてまいります。今後とも、秋田から世界へ発信する先駆的な研究拠点として、また地域に密着した研究所として、持続可能な社会の実現に寄与されることを大きく期待しております。
 

【来賓祝辞】株式会社竹中工務店 技術研究所 所長 櫛部 淳道 様

 弊社、竹中工務店も、これまで秋田の木の文化や技術・学術に学びながら、多くのプロジェクトでご一緒させていただきました。秋田スギの大断面統合材をふんだんに用いた1997年の「大館樹海ドーム」や、秋田スギの木煉瓦を活用した「秋田芸術劇場ミルハス」などはその例で、秋田の森林資源が持つ価値と可能性を広く社会に示す象徴的な建築物です。気候変動対策や脱炭素社会の実現が世界的な課題となる中、大規模木造建築や木質ハイブリッド建築など、木材の可能性は大きく広がっています。次の30年に向けて、木高研が木材研究と社会実装を結ぶ中核拠点として、更なる価値創造をリードされることを切に期待しております。
 

【基調講演】「サステナブル社会への転換と木材研究の役割」 東京大学大学院 教授 恒次 祐子 氏

 木造都市への転換において、安易な伐採ではなく適切な資源循環と用途配分を行うことで、現状の供給量でも高いCO2排出低減効果が得られる点が強調されました。また、神奈川県の中学校での実証研究から、木質内装が生徒のポジティブな気分を高めるなど、人への良好な心理的・生理的影響、ウェルビーイングも実証されつつあることが紹介されました。地域特性や時間軸に応じた柔軟な戦略を策定し、農林水産や他分野と連携して発信していく重要性が提示されました。
 

【講演】「人が減る時代に建築は何ができるか」 関東学院大学  建築環境学部 教授 神戸 渡 氏

 普及が進む大規模木造建築において、建物の安全性を担保する「木材の割裂現象の解明」と高精度な耐震評価モデルの構築について解説されました。さらに、岡山県真庭市のバイオマス複合施設や信州学び創造プロジェクトといった地域事例を引き合いに、人口減少下で地域社会のウェルビーイングを維持・向上させる建築のあり方が語られました。研究者には論文執筆にとどまらず、現場のニーズに耳を傾け課題を共に解決する姿勢が求められていると訴えました。
 

【講演】「ゲノム情報をフル活用した今後の林木育種の展開」森林総合研究所  主任研究員 三嶋 賢太郎 氏

 巨大かつ複雑な針葉樹のゲノム解読(スギ・ヒノキ・アカマツ・カラマツ)を達成した最新成果が発表されました。スギの「無花粉遺伝子特定」とDNAマーカー開発、マツ材線虫抵抗性の解析、さらには大量のDNA情報から苗木段階で数十年の成長・材質を予測する「ゲノミック予測モデル」の構築など、最先端ゲノム技術によって林木育種の大幅な高精度化・短期間化が実現しつつある未来が示されました。
 

【講演】「木質バイオマスの化学構造を読み解く面白さ」 木材高度加工研究所 助教 安藤 大将

 複雑な分子複合体である木材の化学構造にフォーカスした研究が紹介されました。エステル化における水酸基の位置をNMR(核磁気共鳴)で精密解析する技術や、短時間で処理可能な「メカノケミカル処理」、多価カルボン酸を用いて木材分子同士を直接繋ぐ「化学結合型接着技術」などを解説。単に接合できたという結果だけでなく、分子レベルの現象を解明し価値を見極めることこそが高度木材化学の醍醐味である、と語られました。
 

【講演】「森林資源の価値変換と社会実装を拓く木高研」 木材高度加工研究所 教授 足立 幸司

 これまでの30年を振り返るとともに、「花は先端にしか咲かない。末端での社会実装を通して課題を発見し、新たな研究の種を創出する」という研究哲学が示されました。「森×モビリティ」や「森×食」といった異分野クロスオーバーの挑戦のほか、木の成長や経年変化といった時間軸の価値を見出し、サプライチェーンと人々の関係性を育む新しい木材利用の未来像が提示されました。足立教授「木高研はこれからも強みを軸に新たな価値領域を開拓し、未来の創造に向けた共創の場として走り続けます。今後の取り組みにぜひご期待ください!」
 

 木材高度加工研究所は、これまでの30年で築いた基盤を糧に、今後も地域・産業界・国内外のパートナーとともに、新たな知と価値を創造する共創の場として挑戦を続けてまいります。
 

国際教養大学副学長  熊谷 嘉隆 様

秋田県木材産業協同組合連合会理事長 大坂 真一 様

木製胸章

 ご来賓の皆様に特別な「木製胸章」をご着用いただきました。式典等で用いられる一般的な布製の紅白リボンに代わり、木材高度加工技術の粋を結集した木製のリボンを採用しております。木のぬくもりと洗練された造形美を兼ね備えたこのコサージュは、30年の歩みとこれからの木材利用の可能性を象徴する趣向として、ご列席の皆様からも大変ご好評をいただきました。
 

卓上席表示

 祝賀会会場のテーブルを飾る「卓上席表示(テーブルサイン)」にも、木高研ならではのこだわりと加工技術を詰め込みました。今回制作したのは、秋田県の代表的な樹種である「松」「杉」「橅」の3種類です。背景には、それぞれの木材を顕微鏡で観察した際のリアルな細胞組織構造を模したデザインを施しています。最新のレーザー加工によって精巧に刻印しています。