令和4年度秋田県立大学卒業式・大学院修了式を執り行いました
3月23日(木)、秋田キャンパス講堂において、令和4年度秋田県立大学卒業式・大学院修了式が執り行われ、学部生399名、大学院生77名が新たなる決意と希望を胸に卒業・修了し本学を巣立ちました。式では、学生の代表が小林淳一学長から学位記や修了証書を受け取りました。
小林学長は、感染拡大によりキャンパスにも大きな影響が出た1年を振り返り、「これから皆さんが働く社会はSociety 5.0に代表されるように、IoTで全ての人とモノがつながり、DX(Digital Transformation)により新たな革新が生み出されることで、より生産性と創造性の高い仕事が求められます。物事の本質を見極め、自ら課題を抽出・解決するセンスを磨いて欲しい。健康に留意され、それぞれの環境の中で成長し、社会で活躍して欲しい」と述べ、学生たちを激励しました。
また、卒業生・修了生代表の生物資源科学部生物生産科学科の日野 佑香さんは「教員や先輩のサポートを受けながら、植物ホルモンの水耕栽培に挑戦し、試行錯誤しながら乗り越えることができた。今後、私たちが社会へ貢献できるよう責任と自信を持って、それぞれの目標に向かって精進します」と答辞を述べました。
式の終了後には、友人や後輩らと記念撮影をして、別れを惜しむ卒業生らの姿が見られました。皆様の新しい門出を心よりお祝いいたします。
学長式辞全文
システム科学技術学部244名、生物資源科学部155名の卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。大学院システム科学技術研究科、生物資源科学研究科において、修士・博士の学位を得られた77名の皆さんの修了を心からお祝い申し上げます。また、本日は新型コロナウィルス感染防止の観点からご出席頂けなかったご家族の皆様も含めまして、大学を代表して心からお喜びを申し上げます。今回は4年ぶりに本学講堂において、卒業生、修了生全員を対象に、佐竹知事はじめ大勢のご来賓をお迎えし盛大に式典が行われることを大変うれしく思います。しかし、まだ新型コロナウィルス感染は収束していませんので、感染防止には最大限の注意を払って執り行っています。
さて、本日卒業ないし修了される皆さんは、これから社会人あるいは大学院生として、様々な分野で活躍されることになりますが、それぞれの心構えについて触れたいと思います。
まず、はじめにお伝えしたいことは、私たちを取り巻く世界が予想もしない方向に大きく変化していることです。ロシアがウクライナに侵攻し、戦争が続いています。その影響で穀物や、原油の価格が高騰しています。また、中国と台湾の緊張関係も続いています。その背景には、グローバル化によって巨大企業に利益が集中し、その結果として貧富の格差が増大することによる世界的なひずみの出現があります。国家間においては様々な競争が激しくなり、そこに歴史や民族主義が加わり、自国中心主義が台頭していることも大きな要因です。また、気候変動においては、世界各地で、大量の雨による大洪水や逆に極端に雨量が少ない干ばつが起こっており、それが常態化しています。人間の活動が地球の持っているキャパシティーの限界を超えつつあるとの指摘もあります。一方、新型コロナウィルス感染については、変異株の出現によって大きな感染の波が繰り返され、収束の目途が立っていません。このような状況の中で、私たちは、大きな不安を抱えて生活していかなければなりません。しかし、皆さんには将来が待っています。世界を良い方向に変えていくことも出来ます。希望を胸に自身の力を信じ大きく羽ばたいていくことを願っています。
企業等に入社される皆さんは、今までとは全く違う環境に身を置くことになりますので、焦らずじっくりと新しい環境に慣れていくことが大事です。まずは、生活のリズムをしっかり作るように心がけてください。慣れるまで大変ですが、徐々に慣れてきます。会社は皆さんの態度に注目しています。そのポイントは二つあります。一つは、気持ちの切り替えがきちんとできているか、もう一つは、前向きな態度で仕事に取り組もうとしているかです。焦る必要はありません。分からないことは遠慮せず周りの人に聞いてください。皆さん親切に教えてくれるはずです。一つ一つできるようになったことに感動しながら少しずつ仕事を覚えてください。皆さんに是非心に留めておいて欲しい事を一つ述べておきます。それは、様々な課題、問題があった場合、その解決に向け是非チャレンジしてほしいということです。私は、行動の原点は「勇気を持つこと」だと思っています。勇気は、鍛えて獲得できるものではありません。心構えの問題です。その秘訣は物事を楽観的に捉え、「やってみなければ分からない。」と自分に言い聞かせ、まず第一歩を踏み出すことです。しかし、必ずしもうまくいくとは限りません。その場合は周りの人の力も借りてその対策を考え、少しでもうまくいくように修正し、次のステップに向かいます。そして、その繰り返しによって、今まで見えなかったものが見えるようになり、課題解決に向け前進できます。そこで後ろを振り返ると、最初に述べた第一歩を踏み出す勇気の意味が分かってきます。この経験、実感は皆さんの自信に繋がります。自信がつくと新たな課題に対してより勇気を持ってチャレンジすることができます。皆さんには是非この感覚をこれからの仕事の中で身につけてほしいと願っています。また、課題解決がうまく行えるようになるためには、様々な知識を増やし、周りの人たちとのネットワークを持つ必要があります。これが皆さんを強くし、価値のある人間に成長させます。
一方、大学院へ進学する皆さんは、これからより高度な研究を行うことになります。研究には当然未知な部分があり、高いハードルが隠れています。それをどう乗り越えるか、その方法論を学ぶことが最大の目的です。乗り越え方は様々ですが、原動力はその研究に魅力を感じていることです。新しい発見をしたい、現象のメカニズムを明らかにしたい等様々です。しかし、これもそう単純ではありません。研究対象がはっきりせず、どう研究テーマを切り出すか明確でないケースが殆どです。山を麓から眺めているだけでは、ルートは見つからないし、その険しさも分かりません。まずは、山の麓を歩きながら少しずつ登る道を探していかなければなりません。研究は、小さな努力の積み重ねによって一歩ずつ前に進んでいきます。それに耐える体力、心構えを大学院で学んでほしいと期待しています。
さて、これから皆さんが働く社会の変化についてお話ししておきたいと思います。まず、会社での仕事に対する考え方が大きく変わってきています。かつては、企業での雇用形態はメンバーシップ型でした。これは、企業に入ってから大学で学んだ専門性を活かすというよりは与えられた仕事を一つ一つ覚え、その仕事を通して自分の力を磨き会社に貢献するスタイルです。しかし、最近では自分の専門性や得意なスキルが活かせるような働き方で会社に貢献するジョブ型の雇用形態をとる企業が増えてきています。この場合、仕事が与えられるのではなく、会社にとって必要となる仕事を自ら考え、提案し、積極的に自分の力を活かしながら、会社のために貢献するやり方です。この場合には、自分の存在価値がとても重要になります。自分の価値を常に磨く努力が必要です。
次に、Society 5.0と言う言葉を何度か耳にしたことがあると思います。Society 5.0とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会のことと定義されています。つまり、Society 5.0で実現する社会では、様々な知識や情報が共有され、DX(Digital Transformation)によって今までとは違うビジネスが出現することが予想されています。また、人工知能(AI)により、様々なビッグデータから必要な情報が必要な時に提供されるようになり、少子高齢化、地方の過疎化などの社会課題が克服されることも期待されています。皆さんにはこのような環境のもとで、自ら考え提案する創造性の高い仕事が求められます。本学での自主研究や卒論、修論を通して学んだ、問題を発見し自ら解決できる能力と経験が役に立つはずです。一般的に問題を発見し、解決に導くためには、現状の仕組みや行動において、何故と何度も問いかけ、その本質を見極め、そしてそこに潜む新たな課題を抽出し、解決するための方法を見つけ出すことが必要です。従って、これから活躍される皆さんにとっては、この考え方がもっとも大事だということを心に留め、このセンスを磨いてほしいと切に願います。
次に、学び直しについて一言述べておきます。技術はかつてない速さで進展していきますし、企業の戦略に基づきビジネス内容の変更や統廃合により、必要となる知識や技術が変わってくることが考えられます。その結果、学び直しが必要となる機会が増えると思われます。つまり、これからは常に技術や知識のアップデート、あるいはリスキリングが必要となります。まず、そこをしっかり認識することが大事です。大学は皆さんの要望に応えるために、学び直しの場を提供することが不可欠になります。コロナによって遠隔授業が日常的に取り入られてきています。この結果、社会人教育の形態が変わっていくと考えます。本学においてもこの社会人教育が大きな特徴になるようカリキュラム体型を仕上げていくつもりです。そのためには、皆さんからの意見や要望が必要です。皆さんと一緒に社会人教育のあり方を考え、良いシステムを作り上げていきたいと思います。
最後に、県外に出られる皆さんは、秋田の良さを周りの人たちに宣伝してください。そして、なるべく多くの機会を作ってまた秋田にお出でください。卒業、修了される皆さんが健康に留意され、それぞれの環境の中で成長し、活躍される事を祈念し、学長の告辞とします。
令和5年3月23日
学 長 小 林 淳 一