本学教員らが編纂した『種蒔く人』論文集が完成しました

 日本のプロレタリア文学運動の先駆けとされる雑誌『種蒔く人』が、秋田市土崎港で誕生してから100周年を迎えたのを記念し、本学総合科学教育研究センターの高橋 秀晴 教授(専門:日本近代文学)が副会長を務める、「種蒔く人」顕彰会が編纂を進めていた論文集「『種蒔く人』の射程―100年の時空を超えて―」が完成し、4月7日(木)、秋田県庁で記者会見が開催されました。

 『種蒔く人』は、土崎港出身の小牧近江、金子洋文(ようぶん)、今野(いまの)賢三らが、世界に目を向けて創刊した文芸雑誌で、1921年2月に創刊し、一時休刊を経て1924年1月まで刊行を続けました。

 今回完成した論分集には、顕彰会の呼びかけに応じた国内外の文学研究者17人が執筆し、海外における『種蒔く人』の評価や、部落解放運動に与えた影響、近年見つかった資料により新たに明らかになった創刊前史など、最新の論考が収録されています。

☆高橋秀晴教授のコメント☆

 1921年に創刊された『種蒔く人』は、プロレタリア文学運動の出発点として文学史に刻まれている雑誌です。しかし、1世紀を経て、この小さな雑誌に胚胎していた志がそれに止まるものではないことが明らかになりました。
 今、世界は新型コロナウイルスの感染拡大とロシアのウクライナへの軍事侵攻に揺れていますが、『種蒔く人』創刊90周年時(2011年)には東日本大震災とそれに伴う福島第一原子力発電所事故が発生しました。同80周年時(2001年)にはアメリカ同時多発テロ事件が、同70周年時(1991年)には湾岸戦争が起きています。世界主義を標榜し、『帝都震災号外』を発行し、反戦平和と人権尊重を唱えた『種蒔く人』との因縁を感じざるを得ません。この雑誌と運動が提起した問題の本質は解決しておらず、例えばSDGs(持続可能な開発目標)という形に意匠を替えつつ現在と将来に連なっていると見ることができましょう。
 こうした視点から、プロレタリア文学研究の第一線で活躍中の方々と新進気鋭の方々に執筆いただいて完成したのが本書です。長期にわたる調査・分析に裏打ちされた重厚な論考と、新たな着眼からの独創的な論考が混在していることが、『種蒔く人』の多様性を物語っています。
本書刊行の背景には、秋田県立大学からの研究費支援やイベント開催の資金援助がありました。編集担当者として、改めて深謝申し上げます。と同時に、本学ゆかりの方々にお読みいただければせめてもの恩返しになるのでは、と考えております。
 

記者会見の様子(本学公式Twitterにリンク)

「種蒔く人」顕彰会 右:北条 常久会長 左:高橋 秀晴 教授



 『種蒔く人』の射程―100年の時空を超えて―

 『種蒔く人』(A5版 342頁 2,750円)は、4/21から秋田県内の書店で発売されます。
 問い合わせ 秋田魁新報社 TEL:018-888-1859 

「種蒔く人」とは

 留学先のフランスで反戦の思想に触れた仏文学者小牧近江が、土崎小学校の同級生の金子洋文、今野賢三を誘って、1921年2月に創刊。創刊号は200部で、一部は東京で販売された。1924年までに全25号を発行した。うち秋田市土崎地区で刷られた1~3号は「土崎版」と呼ばれ、表紙にミレーの絵画「種をまく人」があしらわれている。評論や詩、小説を通じ、女性や労働者の地位向上、部落差別の解消など現代にもつながる社会問題を取り上げた。