Plant Physiology に論文が掲載されました

Plant Physiology に論文が掲載されました

 本学生物生産科学科の上田健治助教、生物資源科学研究科吉村郁晶さん(平成24年度博士前期課程修了)、我彦広悦教授のグループと国立遺伝学研究所、農業生物資源研究所による共同研究論文、COLLAPSED ABNORMAL POLLEN1 gene encoding the arabinokinase-like protein is involved in pollen development in rice(和文名:アラビノキナーゼ様タンパク質をコードするCOLLAPSED ABNORMAL POLLEN1遺伝子はイネの花粉形成に関与する)が、米国の植物生物学会誌Plant Physiologyオンライン版(4月29日)に掲載されました。

 この研究では、イネがもつ遺伝子の一部が壊された突然変異体の集団から、花粉が正常にできない花粉突然変異体collapsed abnormal pollen1cap1: 潰れた異常な花粉1)を選抜しました。正常なイネの花粉は球形で、デンプンを含むため、ヨードで黒く染色されます(図1)。変異体では葯内の半数の花粉は正常ですが、残りは、細胞核を含む細胞成分や細胞壁が失われ、花粉の最外層にあるエキシンだけの潰れた花粉でした(図2)。

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ヨード染色したイネの花粉の顕微鏡写真
図1(左)正常なイネ花粉(丸く黒いのが正常な花粉)
図2(右)cap1突然変異体の花粉(黄色く潰れた花粉が変異花粉)

 
 このイネで壊されていた遺伝子を突き止めたところ、細胞壁多糖の構成成分であるアラビノースをリン酸化する酵素(アラビノキナーゼ)遺伝子の一種であり、これをCAP1と命名しました。CAP1遺伝子が正常に働かないイネでは、花粉の中にアラビノースが異常に蓄積してしまうか、あるいは花粉の細胞壁代謝がうまくできずに花粉が崩壊すると予想しています。イネは1対2つのCAP1遺伝子をもちますが、cap1変異体の子孫を調べると1つの遺伝子が壊れたイネと、稀に遺伝子が2つとも壊れたイネが出現しました。遺伝子が1つ壊れたイネは、葯内の半数の花粉が正常で半数が異常となり(図2)、2つ壊れたイネは葯内の殆どの花粉が潰れていました(図3と4)。これらの変異体イネは生長、形態、花が咲く時期(出穂期)、雌しべの機能など花粉形成以外は全く正常だったので、CAP1遺伝子は花粉をつくるためだけに必要だとわかりました。また、いろいろな植物がCAP1と類似した遺伝子をもつこともわかりました。

 

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トルイジンブルー染色したイネの葯の横断切片の顕微鏡写真
図3(左)イネの葯は4つの葯室があり、その中で花粉ができる
図4(右)cap1突然変異体の葯のでは殆どの花粉が潰れている

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 研究を行った上田健治助教


 このようなイネを材料とした花粉ができない植物の研究が進めば、花粉症の軽減や、交配育種の時に雄しべを取り除く手間が省けてより多くの優良品種を作出することに役立つと期待できます。


Plant Physiologyに掲載された論文(英文)はこちらからご覧いただけます。
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国立遺伝学研究所「Research Highlights」にもこの論文について掲載されています。
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