本学大学院生が第72回東北畜産学会大会で優秀発表賞を受賞しました

 令和5年8月29日(火)~30日(水)、岩手大学農学部(岩手県)で開催された第72回東北畜産学会大会において、本学大学院生物資源科学研究科修士課程2年の藤井 美里さん(動物分子工学研究室、指導教員:小林 正之 教授[専門:幹細胞生物学])が「優秀発表賞」を受賞しました。

  東北畜産学会は、畜産に関する学術の進歩を図り、併せて東北地域における畜産業と畜産技術の発展に寄与することを目的としています。第72回大会では、栄養成分の選択的摂取と脳機能に関する研究報告、比内地鶏のおいしさを表現する用語の科学的探索に関する研究報告も行われました。

 本賞は、学生・社会人の区別無く、大学・国・県に所属する40歳以下の若手研究者が対象となり、研究の質・研究成果の重要性・発表内容の分かりやすさ・質疑応答の的確性について審査が行われます。本賞は今年で創設19年目となりますが、動物分子工学研究室からは12回目の受賞となります。

 受賞発表タイトルは、「ウシES細胞の培養条件を応用したウシiPS細胞の作出(藤井美里 [現・修士2年]・西村優花 [R4年3月修士修了]・喜多悠斗 [R3年3月修士修了]・小林正之)」です。人工多能性幹細胞ともよばれるiPS細胞は、からだを構成する、あらゆる種類の細胞に変化することができる能力を持つことより、畜産分野や医学分野で大きく注目されています。

 今回の発表では、藤井さんや研究室先輩の多大な努力により、ウシiPS細胞を作出することに成功したことを報告しました。この研究成果により、ウシiPS細胞から精子・卵子を誘導して優良ウシの遺伝資源を恒久的に活用する技術の開発が進められるようになりました。この研究成果を活かし、動物分子工学研究室では効率的な産業動物の生産や培養肉の作出に関する技術の開発も進めています。  

研究発表タイトル

『ウシES細胞の培養条件を応用したウシiPS細胞の作出』
   藤井美里  西村優花 喜多悠斗 小林正之

研究概要

 現在、精子・卵子ヘの分化能を有するウシiPS細胞は報告されていません。これまでに本研究室では、山中4因子とトムソン4因子からなる6転写因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28)発現ベクター等を初代ウシ線維芽細胞に遺伝子導入し、マウスiPS細胞の培養条件を適用することにより、ウシiPS細胞の作出に成功しています。しかし、未分化維持培養条件においても三胚葉の分化マーカー遺伝子が検出されたことから、培養条件として不適切であることが考えられました。先行研究において、ウシES細胞の培養条件を応用し、ウシiPS細胞に適用することにより、未分化維持培養に適した新規培養条件を特定しました(喜多ら、第128回日本畜産学会大会、2021)。本研究では、新規培養条件を用いてウシiPS細胞を作出し、性質を検討しました。

受賞コメント

 この度は、優秀発表賞を頂き、誠に光栄に思います。この成果は、私だけでなく、先輩方の多大な努力によって成されたものです。ウシiPS細胞の研究はまだ世界的にも進んでおらず、遺伝子条件、培養条件共に難解なパズルを解いている様な感覚です。しかし、小林教授のご指導もあり、今回、大きな一つの成果を報告することができました。現在は、更なる培養条件の検討、及び卵子・精子の前駆細胞である始原生殖細胞への分化誘導を試みています。残り半年の修士課程ではありますが、卵子・精子への分化能を持つウシiPS細胞の作出条件を確立すべく、研究に精進して参ります。
 

受賞した藤井美里さんからのメッセージ

指導教員の小林正之教授と

ウシiPS細胞の作出条件を確立すべく研究に精進

将来は再生医療分野に貢献

作出したiPS細胞