本学教員が日本原子力学会で「JNST Most Popular Article Award 2022」を受賞しました

 生物環境科学科田中 草太 助教土壌環境学研究室)が、一般社団法人日本原子力学会が発行するJournal of Nuclear Science and Technology (JNST) 誌に筆頭著書として発表した論文が、「JNST Most Popular Article Award 2022」を受賞しました。

受賞論文

Transfer of 137Cs to web-building spiders, Nephila clavata, and its pathways: a preliminary study using stable carbon and nitrogen isotope analyses
(ジョロウグモへのセシウム137の移行とその経路―炭素・窒素安定同位体比分析による検討)
田中草太・柿沼穂垂・足達太郎・安藤麻里子・小嵐淳 

研究概要

東京電力福島第一原子力発電所事故によって放出された放射性セシウムの一部は生態系内を移動・循環しています。しかし、食物網による放射性セシウムの移行については未解明の点が多いのが現状です。そこで本研究では捕食性の造網性クモ類であるジョロウグモに注目し、事故現場から北西約 11km に位置する森林と川岸で本種を介して移行する放射性セシウムの動態を調べました。その結果、事故後約6.5年が経過した時点で採集したすべてのクモから放射性セシウムが検出されました。一方、森林と川岸で採集されたクモの炭素・窒素安定同位体比には有意差があり、クモが利用する餌資源が両環境の間で異なることが確認されました。この結果は、放射性セシウムが食物網により陸域・水域の様々な経路で捕食者に移行している可能性を示すものです。また本研究により、クモが森林生態系における放射性セシウムの動態を把握するための指標として有効であることが示唆されました。 

田中草太助教のコメント

福島原発事故が発生した当時、私は大学生でした。その時から放射性核種の環境動態研究に取り組み、10年以上が経過しました。除染が難しい森林内には放射性セシウムが残存し、未だに復興を妨げる要因となっています。この森林内の放射性セシウムの一部は生物に取り込まれ食物網を介して生態系内を移動循環するとともに、河川にも流入するため、農林水産業に長期的な影響を及ぼしています。今回の受賞論文は、森林-河川生態系の食物網を介して移動循環する放射性セシウムの動態を生物(クモ)を指標として明らかにしようとする研究成果の一部です。食物網を介した放射性セシウムの移行挙動については、まだ解明できていない点も多く、今後も研究を継続することで、この問題解明に取り組み、福島の復興に寄与する研究に発展させていきたいと考えています。
 


本研究の取り組みや成果は、令和4年3月8日付の朝日新聞全国版でも紹介されています。
(東日本大震災11年)除染手つかずの森、被曝続く生き物 福島のサル、細胞レベルで影響か:朝日新聞デジタル (asahi.com)