本学卒業生が行った研究が国際学術雑誌「Science of the Total Environment」に掲載されました

 システム科学技術学部経営システム工学科の川島 洋人 准教授、令和元年度に本学大学を卒業した吉田 乙羽さん、ダッカ大学のサラム教授グループによる「Sources identification of ammonium in PM₂.₅ during monsoon season in Dhaka, Bangladesh(バングラデシュ・ダッカにおけるモンスーン期のPM₂.₅中のアンモニウムイオンの発生源解析)」という研究が、国際学術雑誌「Science of the Total Environment」に令和4年6月5日付でオンライン掲載されました。
 吉田さんは現在、公益財団法人環境科学技術研究所に勤めております。

雑誌名:Science of the Total Environment
論文タイトル:Sources identification of ammonium in PM₂.₅ during monsoon season in Dhaka, Bangladesh
著者:Hiroto Kawashima, Otoha Yoshida, Khaled Shaifullah Joy, Rasel Ahammed Raju, Kazi Naimul Islam, Farah Jeba, Abdus Salam
Webサイト:https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2022.156433

★吉田乙羽さんのコメント
 私の卒業研究では、世界で最も大気汚染が深刻であるバングラデシュのPM₂.₅中のアンモニウムイオンの窒素安定同位体(δ¹⁵N)を分析し、その特徴を調査しました。ダッカ大学のサラム先生と共同研究をしており、また、安定同位体を使ったアプローチはほとんど研究例がないため、やってみない?と、先生に卒業研究のテーマとして誘っていただいたのがきっかけです。
 その卒業研究の中で、分析方法の一部を確立する必要がありました。そのため、最初はイオン交換樹脂を用いてアンモニウムイオンと硝酸イオンの分離メソッドを開発することで、安定したアンモニアの窒素安定同位体比の分析法を確立することが出来ました。また、脱窒菌法という手法を使って分析を行うのですが、卒業研究を始めた当初は不安定であり、安定した分析が行えるようになるまで、とても時間がかかりました。その後、開発した分離メソッドを利用して、バングラデシュのダッカで採取された、モンスーン期間の大気試料33試料について、各イオンの濃度やアンモニウムイオンのδ¹⁵Nを測定しました。測定結果が出るまで、いくつもの問題が発生して苦労しましたが、その度に先生や研究室のメンバーとディベートを繰り返して乗り越えることができました。
私は、同位体混合モデルによる発生源解析までは行うことができませんでしたが、その後、先生がデータを整理し、混合モデルを用いた寄与率推定まで行ってくれました。今回の国際学術論文に関しても、先生とサラム先生との活発なやり取りが行われていて、私もあまり得意ではない英語でどうにかコメントを書くことも出来ました。これらが論文になり、安心したと同時に本当に嬉しく思います。とても貴重な経験をさせていただきました。
 現在は公益財団法人環境科学技術研究所にて、大気試料などの前処理・分析・解析を行っています。卒業研究とは違った苦労もありますが、基礎的な部分は変わらないため、大学で培った経験を活かしながら楽しく仕事をしています。

★川島洋人准教授(システム科学技術学部経営システム工学科)のコメント
 バングラデシュのダッカは、世界で最も人口密集地域であり、また大気汚染が世界でも深刻な状況です。本研究では、バングラデシュ、ダッカの微小粒子状物質(PM₂.₅)中に含まれるアンモニウムイオンの窒素安定同位体比を分析し、アンモニウムイオンの発生源解析を行いました。結果は、PM₂.₅中のアンモニウムイオンは、農業由来(化学肥料や家畜排せつ物などの揮発成分)と非農業由来が半分ずつということが、本研究より、算出されました。一般的にアンモニアの発生源は農業由来がほとんどだと考えられていますが、場所によっては、大きく異なることが示されました。アンモニアは、今後、多くの大気汚染物質とは異なり、増加していくことが予測されています。そのため、アンモニアをどう管理していくのかが、国際的にも問題視されています。
 本研究を始めたきっかけは、バングラデシュのダッカは世界でも最も大気汚染が深刻な地域であり、それらの発生源を解明出来ないかということを考え、知人を通じて、7年前よりダッカ大学のサラム教授との共同研究を開始しました。ダッカ大学での大気サンプラーの設置、実際のサンプリング、化学分析、混合モデルによる計算など、ほとんどゼロの状態であり、またアジア地域での研究は初めてだったので、色々と苦労もありましたが、論文になりホッとしています。
 本研究の化学分析を行った吉田 乙羽さんは、卒業研究で行った研究内容で3報目の国際学術雑誌への報告となります。吉田さんは、実験も丁寧に進める力を持っていて、またデータの整理が素晴らしく、後輩達も吉田さんのエクセルシートを見て学んでいます。
 本研究は、環境研究総合推進費、科学研究費基盤研究(B)(海外学術調査)、ニッセイ財団、平和中島財団、秋田県立大学学長プロジェクト(創造的研究)にて実施されました。また、研究補助の藤嶋 楽さん、津田 裕也さん、須藤 百香さん、加藤 累さんなども脱窒菌(分析に必要な菌)の管理や化学分析をサポートしてくれました。
 最後に、バングラデシュとの共同研究を7年ほど行っていますが、その間、サラム先生やダッカ大学の学生達には、いつも助けられ、素晴らしい人間関係も構築出来ました。また、ダッカも最初に訪れた7年前に比べて、自動車の交通量も増え、道路も整備されつつあり、また様々なスマホを使ったアプリも使用できるなど、大きく発展しており、日本ではなかなか見られない若さと熱気に包まれています。今後も、共同研究を進めていければと考えています。

★サラム教授(ダッカ大学)のコメント
It is my great pleasure that our collaborative research work has been published in the journal Science of the Total Environment on the Sources identification of Ammonia in PM₂.₅ during monsoon season in Dhaka, Bangladesh. This manuscript reported the significant contribution of non-agricultural (anthropogenic urban) sources in the atmospheric ammonia for the first time. The method (isotopic technique) used for this study is very accurate and not very common. However, Bangladesh is one of the highly polluted countries in the World with highest annual PM₂.₅ since 2018. The capital city, Dhaka is the topmost polluted city with all the problems of an unplanned mega city. The emission, causes, and reduction of air pollution in Bangladesh were not well explored yet. Therefore, this research will be highly beneficial for both researchers and policy makers. We appreciate and greatly thankful to our collaborator Dr. Hiroto Kawashima for giving us the opportunity to work with his group and also visiting several times in Dhaka University for installation and sampling of PM₂.₅. We hope and believe that the findings of this article will be very helpful to grow our future collaboration.

〇その他の論文
川島研究室では、ここ最近、アンモニウムの窒素安定同位体比に関する研究について、以下の4報を最近報告しています。

●Hiroto Kawashima*, Otoha Yoshida, Nana Suto (2021), Ion‐exchange resin and denitrification pretreatment for determining δ¹⁵N-NH₄+, δ¹⁵N-NO₃‐, and δ¹⁸O-NO₃‐ values, Rapid Communications in Mass Spectrometry, vol.6, e9027, page 1-10

●Hiroto Kawashima*, Raiki Ogata, Takumi Gunji (2021), Laboratory-based validation of a passive sampler for determination of the nitrogen stable isotope ratio of ammonia gas, Atmospheric Environment, Volume 245, 118009

●Hiroto Kawashima*, Sae Ono (2019), Nitrogen Isotope Fractionation from Ammonia Gas to Ammonium in Particulate Ammonium Chloride, Environmental Science & Technology, vol.53(18), pp.10629-10635

●Hiroto Kawashima* (2019), Seasonal trends of the stable nitrogen isotope ratio in particulate nitrogen compounds and their gaseous precursors in Akita, Japan, Tellus B: Chemical and Physical Meteorology, vol.71(1), pp.1-13
 

 

環境科学技術研究所センターで仕事に取り組む吉田さん
 

学生時代の思い出
 


サラム先生とサンプラー


ダッカ市内の風景

 

サラム先生やダッカ大学の方々との記念写真
 


独立記念碑へ訪問


サラム先生のご家族との食事会