本学研究グループの論文が国際学術誌「Frontiers in Environmental Science」に掲載されました

 このたび、本学生物資源科学部の 早川 敦 准教授(生物環境科学科/自然生態管理学研究室)らの研究グループによる論文が、国際学術誌「Frontiers in Environmental Science」に掲載されました。

雑誌名: Frontiers in Environmental Science
論文タイトル:Sulfur-Based Denitrification in Streambank Subsoils in a Headwater Catchment Underlain by Marine Sedimentary Rocks in Akita, Japan
著者:Atsushi Hayakawa*, Hitoshi Ota, Ryoki Asano, Hirotatsu Murano, Yuichi Ishikawa and Tadashi Takahashi
論文の掲載ページ:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fenvs.2021.664488/full


【研究内容】
 生物に利用可能な形態の窒素(例えば,NO3-, NH4+, N2Oなど)の総称を反応性窒素と呼びますが、反応性窒素の過剰な利用は、水圏の富栄養化や温室効果ガスの発生による地球温暖化に影響をおよぼします。そのため、反応性窒素の適切な管理が世界的な課題として認識され、国際的な枠組みで議論されています。反応性窒素を最終的に窒素ガスにまで還元する経路を脱窒と呼びます。
 脱窒は、窒素肥料分の損失という側面がある一方で、反応性窒素を無害な形態へ変換することから、浄化という見方も出来るため、近年では特に生態系の持つ浄化サービスとして注目されています。しかし、どこで、どれだけ脱窒が起こっているか、誰が担っているかについてはまだ分かっていないことの多いプロセスです。一般的な脱窒は、貧酸素環境下で、微生物が有機物を使って硝酸性窒素(NO3-)を窒素ガス(N2)まで変換します。一方で、有機物の代わりに硫化物(硫化鉄など)を使って脱窒をする特殊な微生物(硫黄酸化細菌)がいます。今回私たちは、富栄養湖である八郎湖に流入する河川の森林域において、硫化物を含む下層土でNO3-の除去と、それを担う硫黄酸化細菌(Sulfuricella denitrificans)の検出に成功しました。この微生物の利用する硫化物は、海底時代に形成された海成堆積岩に由来している可能性があり、秋田県西部では、こうした脱窒が広く機能し、窒素循環に影響している可能性があると考えられます。

【早川准教授のコメント】
 本論文は、本学を修了した太田仁志君(2018年度 大学院・生物資源科学研究科修了)の修士論文をもとに作成したものです。彼の丁寧な調査・分析の結果を今回報告することができて良かったです。  
 海成堆積岩地帯の広く分布する秋田県西部では、八郎湖の流入河川の一部だけでなく、広範囲でこうした脱窒が機能し、縁の下の力持ちとして浄化の一部を担っているのかもしれません。生態系には私たちが認識できていない「未知のサービス」がたくさんあるはずですが、空間的にも定量的にもそれらの評価が足りません。調査地を広げ、地道な観測を通してさらなる証拠を得ていきたいと考えています。