「2019年農業技術10大ニュース」に選ばれた研究成果が論文に掲載されました
本学生物資源科学部の藤 晋一 教授(生物生産科学科)、大学院・生物資源科学研究科の伊賀 優実さん(生物資源科学専攻2年)をはじめとした植物保護研究室と東京農工大学の金勝 一樹 教授による共同研究論文である『事前乾燥を取り入れた水稲種子消毒のイネ種子伝染性病害に対する効果』が、日本植物病理学会報86巻1号に掲載されました。今回掲載された論文は、東京農工大学を代表として、富山県、株式会社サタケ、信州大学とのコンソーシアムにより行われた研究成果の一部で、秋田県立大学では、研究の核となる、新しい水稲温湯消毒技術の各種病原菌に対する防除効果に関する研究を担当しました。
水稲種子には、水稲栽培における重要病害が潜んでいます。これら病害の発生を未然に防ぐため、化学合成農薬による種子消毒が広く行われています。しかしながら、化学合成農薬に依存しない米作りに対応するため、60℃の温湯に10分間種子を浸けて病原菌を死滅させる温湯消毒技術が開発され広く普及してきました。しかしながら、この技術は化学合成農薬よりも消毒効果が劣り、結果として、ばか苗病が多発し大きな問題となりました。60℃以上の温度で消毒すると種子が死んでしまうため、これまでの技術では、これ以上温度を上げることができませんでした。しかしながら、これまで60℃でしか行うことができなかった温湯消毒(慣行法)が、種子を事前乾燥することで、より高温の65℃で行うことができるようになり(新技術)、イネに潜んでいる病原菌に対して、従来法よりも防除効果が高く、特に近年温暖化により問題となっている、もみ枯細菌病や苗立枯細菌病に対しては化学合成農薬よりも高い防除効果が得られる技術であることを明らかにしました。また、この新技術は、近年問題となっている薬剤耐性菌にも対応できる技術です。
水稲の種子伝染性病害
新技術のばか苗病に対する効果
この研究テーマを卒業論文、修士論文として取り組んだ伊賀優実さんは、秋田県立金足農業高校卒業後、本学に進学した学生です。実家が水稲農家であることから、この研究に取り組みました。高校で培った ”雑草魂” で実験室内での研究から農家での実証試験まで精力的にこなし、今回の論文掲載にまで至りました。4月からは本学の博士後期課程に進学し更に研究を深めることになっております。
なお、この新技術は、実験室レベルでの研究だけでなく、大潟村をはじめとした、秋田県内の農家においても実証試験が行われ、いずれも慣行法よりも高い防除効果が得られており、利用する農家も増えてきています。今後は、本技術では防除できない褐条病などの病害に対応する技術などの開発をすすめ、環境に優しい水稲栽培の発展に貢献することが期待されます。
伊賀優実さんと指導教員の藤晋一教授
研究風景