本学卒業生の研究成果が英国科学誌「Development」に掲載されました

 令和元年度に生物生産科学科植物分子情報研究室を卒業された手塚 拓海さん(国立遺伝学研究所 博士研究員)、平成30年度に同学科・同研究室を卒業された佐藤 理絵さん(WDBエウレカ株式会社)らの研究成果が、英国科学誌「Development」に掲載されました。(指導教員:生物生産科学科 佐藤(永澤) 奈美子 准教授[専門:発生遺伝学])
 

国立遺伝学研究所で活躍する手塚さん

秋田県立大学在学中の手塚さんと佐藤さん

雑誌名等

Development 掲載WEBサイトはこちら

論文タイトル

Adaxial-abaxial bipolar leaf genes encode a putative cytokinin receptor and HD-Zip III, and control the formation of ectopic shoot meristems in rice.

著者

Takumi Tezuka, Rie Sato, Jun-Ichi Itoh, Toshiki Kobayashi, Tomokazu Watanabe, Kaito Chiba, Haruki Shimizu, Takuma Nabeta, Hidehiko Sunohara, Hiroetsu Wabiko, Nobuhiro Nagasawa, Namiko Satoh-Nagasawa

研究要旨

 Shoot apical meristems (SAMs) continuously initiate organ formation and maintain pluripotency through dynamic genetic regulations and cell-to-cell communications. The activity of meristems directly affects the plant's structure by determining the number and arrangement of organs and tissues. We have taken a forward genetic approach to dissect the genetic pathway that controls cell differentiation around the SAM. The rice mutants, adaxial-abaxial bipolar leaf 1 and 2 (abl1 and abl2), produce an ectopic leaf that is fused back-to-back with the fourth leaf, the first leaf produced after embryogenesis. The abaxial-abaxial fusion is associated with the formation of an ectopic shoot meristem at the adaxial base of the fourth leaf primordium. We cloned the ABL1 and ABL2 genes of rice by mapping their chromosomal positions. ABL1 encodes OsHK6, a histidine kinase, and ABL2 encodes a transcription factor, OSHB3 (Class III homeodomain leucine zipper). Expression analyses of these mutant genes as well as OSH1, a rice ortholog of the Arabidopsis STM gene, unveiled a regulatory circuit that controls the formation of an ectopic meristem near the SAM at germination.
 

佐藤奈美子准教授[専門:発生遺伝学]のコメント

 2012年に不思議な形の葉を持つ変異体(下図)に出会い、その不思議さが、きっと変異体で壊れている遺伝子が植物にとって何か重要な役割を持っていることを物語っているに違いないと考えて、研究してきました。赤ん坊の時から大まかな体制は変化しない我々動物と異なり、植物は生涯を通じて葉や根、花といった器官を新生し、成長し続けられるという特徴をもっています。その特徴は、分裂組織というと呼ばれる直径100㎛以下のドーム状の構造物に由来します。つまり、分裂組織がいつどこにつくられ、どれくらい活発に働くかによって、植物の形は変わります。我々は、本来その場所に作られるはずがない分裂組織が「双極葉変異体」に存在し、それが「双極葉」という不思議な葉が生じる原因となっていることを、世界で初めて突き止めました。どのようなたんぱく質を作る遺伝子がそれに関わっているのかということも。「双極葉変異体」の原因遺伝子たったひとつが壊れることで、イネの発芽時、余分な分裂組織が作られるということは、この原因遺伝子が分裂組織形成(抑制)のマスター調節遺伝子であるということを意味します。つまり、例えば人間がイネの発芽時にシュートを増やしたいとなったときなどに、機能を変化させてみる有力候補遺伝子が明らかになったのです。深い興味を持って変異体解析、原因遺伝子の同定、検証を行い、結論を導き出すための鍵となるデータを積み上げ考察してくれたのが、筆頭著者の手塚拓海さんと第二著者の佐藤理絵さんです。また、彼ら以前以後に複数の学生さんが「双極葉変異体」の解析に携わってくれました。東京大学の伊藤先生、熊本大学の春原先生にも多大なご協力をいただきました。秋田県立大学名誉教授の我彦先生と変異体集団の生みの親であるアグリビジネス学科永澤 信洋 准教授には、日々のディスカッション、激励、そして家事・育児分担(永澤先生)によって強力に助けていただきました。何もかも大変ありがたかったです。植物分子情報研究室では、他のタイプの「双極葉変異体」やまた別の不思議な形をした変異体の解析を行いながら、植物の進化についても思いをはせながら、各々が研究しています。今後も、研究成果を世界に向けて発信できるよう、精進していきたいと思っています。
 

不思議な形の葉を持つ変異体(2012年に発見)

佐藤 奈美子准教授[専門:発生遺伝学]

手塚拓海さんのコメント

 私の卒業研究では、この突然変異体の原因遺伝子の機能を解析し、どのように双極葉が形成されるのかを考察しました。佐藤奈美子先生と先輩方のご指導の元、実験に際しては、イネの栽培、切片による形態観察、遺伝子発現解析といった実験技術を一から学びました。また、大潟キャンパスの水田圃場で研究用のイネを栽培しました。田植えや収穫などの作業をラボメンバー全員で行ったことは良い思い出です。作物の農業形質の多くは作物の発生機構と密接に結びついています。この研究で明らかになった葉の極性形成や分裂組織分化のメカニズムは作物の草型の制御といった農業形質の改良に役立ちます。それだけでなく、植物特有の生長をつかさどる原理やその進化といった問いの答えに近づくことができます。卒業後は、卒業研究で芽生えた興味をさらに追求して、イネの発生研究を続け博士号を取得しました。現在は、国立遺伝学研究所で博士研究員をしています。秋田県立大学で培った技術を活かして楽しく研究をしています。

佐藤理絵さんのコメント

 自分は遺伝子の働きについて研究したいと思い、佐藤奈美子先生の研究室に入りました。突然変異体の形態観察をしたときは様々な形態異常が観察されて、変異した遺伝子はどのような働きをしているのだろうと推測していました。マッピングやシーケンスによって遺伝子が同定されたときは、達成感を得たのと同時にこの遺伝子についてもっと調べたいという気持ちが出てきました。残念ながら自分は解明できずに修了してしまいましたが、佐藤先生や後輩達のお陰でこうして論文になったことを嬉しく思います。