微生物を活用した鉱山廃水処理システムの開発に成功

微生物を活用した鉱山廃水処理システムの開発に成功
(秋田県立大学 × 国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

 休廃止鉱山で発生する坑廃水は有害金属を含むため、鉱害防止対策として一般的に中和剤を用いた処理が行われています。この処理では、多くの薬剤やエネルギーの投入を必要とすることから、自然の浄化作用を利用した環境負荷が低く低コストの処理技術の開発が求められています。

 生物資源科学部生物環境科学科の宮田 直幸教授、渡邊 美穂助教(生態工学研究室)らの共同研究チームは、微生物を活用した鉱山廃水処理システムの開発に成功しました。今後、本研究成果をもとに、低環境負荷で低コストの新しい坑廃水処理技術の構築さらには実用化に向けた展開が期待されます。

 なお、本研究成果は、国際連合が発行した17項目の「持続可能な開発目標 (SDGs)*4」のうち「6.安全な水とトイレを世界中に」「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献することが期待されます。

論文情報

雑誌名:Journal of Environmental Chemical Engineering
論文名:Accelerated manganese(II) removal by in situ mine drainage treatment system without organic substrate amendment: metagenomic insights into chemolithoautotrophic manganese oxidation via extracellular electron transfer
著者:渡邊美穂1、Tum Sereyroith2、片山泰樹2、Gotore Obey1、岡野邦宏1、松本親樹2、保高徹生2、宮田直幸1
1秋田県立大学 生物資源科学部
2国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門
URL: https://doi.org/10.1016/j.jece.2024.113314

ポイント

・微生物を活用した坑廃水処理システムをパイロットスケールで開発
・微生物の栄養となる有機物を添加せずに廃水中のマンガンを98%以上除去
・細胞外電子を利用して炭酸固定を行うとみられる細菌群がマンガン酸化に関与することを発見

研究概要

 休廃止鉱山で発生する坑廃水は有害金属を含むため、鉱害防止対策として一般的に中和剤を用いた処理が行われています。この処理では、多くの薬剤やエネルギーの投入を必要とすることから、自然の浄化作用を利用した環境負荷が低く低コストの処理技術の開発が求められています。マンガン(Mn)は坑廃水に含まれる主要な有害金属の一つですが、Mn酸化細菌と呼ばれる微生物はMn(II)イオンを酸化してMn(IV)酸化物にすることで不溶化させるため、坑廃水処理への活用が期待されてきました。しかし一方で、Mn酸化細菌を活用した廃水処理では細菌の栄養となる有機物を添加する必要があり、有機物に乏しい坑廃水に有機物をいかに供給するかが大きな課題になってきました。秋田県立大学・国立研究開発法人 産業技術総合研究所の共同研究グループは、Mn酸化細菌を活用した坑廃水処理システムを開発し、パイロットスケールで現地試験を実施してきました。その結果、有機物無供給、処理時間12時間の運転条件において、20 mg/LのMn(II)イオンに対して98%以上の除去率を達成することができました。これまでMn酸化細菌を利用した廃水処理では有機物供給が必要と考えられてきましたが、本研究によって、有機物を供給しなくても坑廃水を高効率で処理できることが明らかになりました。さらに微生物群集の遺伝子解析により、この処理システム内には、金属から電子を取り込んでエネルギー代謝や炭酸固定を行うとみられる細菌群が優占していることが判明しました。本研究により、特定の細菌の働きによってMn(II)が酸化されると同時に他の細菌が必要とする有機物が供給される、という微生物生態系の新しいしくみを提示することができました。この研究成果をもとに今後、低環境負荷で低コストの新しい坑廃水処理技術の構築が期待されます。

プレスリリース資料

「微生物を活用した鉱山廃水処理システムの開発に成功(令和6年7月3日付け) 」  

宮田 直幸 教授のコメント

 鉱山で排出される坑廃水は有害金属を含むため、化学的な処理が行われていますが、薬剤やエネルギーの消費量が多く、自然の浄化作用を活用した新しい処理技術の開発が求められています。秋田県立大学と産業技術総合研究所の連携により、新しい微生物のしくみを利用することで、マンガンを含む坑廃水を効率よく処理できることが明らかになりました。

 生物環境科学科・生態工学研究室では2018年以降、多くの学生たちが卒業研究や修士論文研究を通して基礎研究に取り組み、着実に研究成果を積み重ねてきました。これまでの成果を土台として、パイロットスケールの処理装置の開発へと発展させることができました。マンガン酸化細菌を利用した坑廃水処理の実用化や微生物機能の解明を目指して、さらに研究を発展させたいと考えています。