平成22年度卒業の諸君へ

平成22年度卒業の諸君へ


 諸君の卒業を目前に、未曾有の災害が東北の太平洋沿岸を襲いました。大学は被災者への配慮や、交通の困難などを熟慮したうえ、卒業式の挙行を自粛することにしました。
 楽しみにしていた卒業式がなくなったことで、諸君やご家族の失望は限りなく大きいことと思い、心が痛みます。私も学長式辞の原稿などをすでに準備していました。私の任期は本年度で終わりますので、この卒業式は私にとってもとくに忘れられない「卒業式」になるはずでした。
 しかし、被災地の惨状の報道を目の当たりにして、式典とはいうもののお祝いの会でもある卒業式はやはり自粛するべきだと考えざるを得ませんでした。加えて、卒業する4年生の中で安否の確認が取れない学生が3月17日現在、まだ三十人あまりいます。彼らの無事を心から祈りますが、彼らの不在の可能性のある中で式を行うことにも大きな逡巡を覚えました。
 卒業式という形はとれなくなりましたが、これから実社会へ出ていく諸君の未来が平安であることを心から祈ります。

                      平成23年3月17日
                      秋田県立大学 学長 小林俊一


準備してあった式辞の原稿を以下に附記します。


学長式辞

 卒業生のご家族の皆様、ご来賓の皆様、本日は秋田県立大学の卒業式・大学院修了式にご出席くださり、まことに有難うございます。
 システム科学技術学部241名、生物資源科学部157名の卒業生の皆さん、卒業おめでとう。また、大学院の二つの研究科において、それぞれ後期課程を修了し博士の学位を得られた3名の皆さん、前期課程を修了し修士の学位を得られた58名の皆さん、修了おめでとう。あなたたちの努力に対して敬意を表し、心からお祝いを申し上げます。加えて、今日まで学生の皆さんを支えてこられたご家族に、大学を代表して心からお喜びを申し上げます。
 さて、卒業生諸君。あなたたちはこの4年間を大学という比較的安全な場所で勉学に励み、過ごしてきました。これまで社会はあなたたちにとって未知の、外の世界だったと思います。しかし明日からあなたたちはその社会に生身で飛び込み、巻き込まれ、本気でつきあい、戦っていくことになります。社会は今、経済不況や国際情勢の混乱を抱え、不安定な状態にあります。そのような社会に出て行くことに不安を感じているのではないでしょうか。しかし、県立大学は、あなたたちに社会の厳しい現実に耐えるだけの能力や知識を与える努力を精一杯やってきました。明日からはあなたたちが自らの考えと自らの努力で進んで行くことになりますが、この大学で得た能力や知識が大きな力となり支えとなると大学は信じています。
 ところで、4年前の入学式で私はあなたたちに「これからの4年間が諸君にとって、学び、楽しみ、親しみ、喜び、そして時には悩み、苦しんだ、生涯忘れ得ない時間となることを心から祈ります」と話したことを覚えてくれているでしょうか。卒業の今、この4年間がどういう意味を持つことになるのかを改めて考えてみることは、あなたたちのこれからの人生にとって有意義でしょう。
 とりわけ大切なのは、この4年間にともに「学び、楽しみ、親しみ、喜び、そして時には悩み、苦しんだ」仲間の存在です。彼らは間違いなくあなたたちの生涯にわたっての大きな支えとなるでしょう。その支えの中に大学も加えてもらえれば、こんなにうれしいことはありません。
 県立大学の開学から12年が経ちました。この間に私たちは秋田の地に根をおろし、秋田の人々に愛され、秋田に県立大学ありといえるところまで成長してきたと感じています。県立大学はさらなる向上に全力を挙げて努めますが、最も大きな力になるのは、卒業生であるあなたたちが社会で大いに活躍してくれることです。あなたたちが母校の名を高らしめてくれることを強く願っています。
 今日巣立っていくあなたたちの未来に幸いあれと心から祈りながら、私の話を終わります。