【プレスリリース】世界初、稲作の強害雑草タイヌビエの形質転換系を確立ー雑草自身で遺伝子の働きを直接証明へー

世界初、稲作の強害雑草タイヌビエの形質転換系を確立
ー雑草自身で遺伝子の働きを直接証明へー

 アグリイノベーション教育研究センターの保田 謙太郎 准教授[専門:環境保全栽培学]らの共同グループは、水田強害雑草タイヌビエにおいて世界で初めて遺伝子導入と植物体再生を可能にする形質転換注1)系を確立しました。
 これまで主要な農耕地雑草の遺伝子解析は、実験が容易なモデル植物に遺伝子を導入して間接的に調べるしかなく、雑草本来の複雑な生理・代謝機能を正確に評価できないことが大きな壁となっていました。本技術の確立により、雑草自身で遺伝子の働きを直接解明することが可能となり、将来的な新規除草剤の開発や持続可能な農地管理に大きく貢献することが期待されます。

 なお、本研究成果は、Plant Cell Reports(2026年10月14日付)に掲載されました。

本研究のポイント

  • 世界で初めてタイヌビエの安定形質転換系を確立しました。
  • モデル植物ではなく雑草自身で遺伝子の働きを直接確かめることが可能になりました。
  • 雑草が環境に適応し、防除を逃れて生き残るしくみの解明に向けた研究へ大きく前進します。

概要

 東京農工大学大学院農学研究院生物制御科学部門の岩上哲史准教授と宮崎大学フロンティア科学総合研究センターの権藤崇裕助教、宮崎大学農学部の菅原まなみ氏(研究当時)、宮崎大学地域資源創成学部のNg Hwan May(ホアン ワンメイ)特別助教、秋田県立大学アグリイノベーション教育研究センターの保田謙太郎准教授らの研究グループは、水田強害雑草タイヌビエにおいて世界で初めて遺伝子導入と植物体再生を可能にする形質転換注1)系を確立しました。
 これまで主要な農耕地雑草の遺伝子解析は、実験が容易なモデル植物に遺伝子を導入して間接的に調べるしかなく、雑草本来の複雑な生理・代謝機能を正確に評価できないことが大きな壁となっていました。本技術の確立により、雑草自身で遺伝子の働きを直接解明することが可能となり、将来的な新規除草剤の開発や持続可能な農地管理に大きく貢献することが期待されます。
 本研究成果は、Plant Cell Reports(2026年10月14日付)に掲載されました。
 

研究の背景

 DNA配列の解読技術の進歩により、除草剤抵抗性雑草注2)では、その原因と考えられる遺伝子やDNAの変異が次々と見つかっています。それらが本当に抵抗性の原因なのかを明らかにするには、その遺伝子や変異を持つ遺伝子を雑草自身に導入し、実際に除草剤抵抗性になるかどうかを調べる必要があります。このような検証は、除草剤抵抗性だけでなく、雑草のさまざまな形質を研究する上でも重要です。ところが、タイヌビエをはじめとする主要な農耕地雑草では組織培養注3)や植物体の再生が極めて難しく、これまで雑草の遺伝子を雑草に直接導入して機能を調べる「形質転換技術」は世界的に未確立でした。そのため、雑草で見つかった候補遺伝子が「本当に雑草体内で機能しているのか」を直接証明する術がありませんでした。
 

研究成果

 本研究では、タイヌビエの種子から誘導した複数種類のカルス注4)について、遺伝子の導入効率や植物体への再生能力を比較し、形質転換に適したカルスを見いだすとともに(図1)、DNAを付着させた微小な金属粒子を植物細胞へ打ち込む「パーティクルガン法」を用いて遺伝子を導入し、健全な植物体へ再生させる一連の技術体系を構築しました(図2)。
 さらに、この技術を用いて導入した遺伝子が働いているかを確認するための目印となるレポーター遺伝子(GUS遺伝子)と、遺伝子を導入した細胞を選び出すための薬剤選抜マーカー遺伝子(bar遺伝子)をタイヌビエに導入しました。その結果、再生した植物体において外来遺伝子が組み込まれ、正常に機能(発現)していることを確認できました(図2)。

今後の展開 

 タイヌビエは稲作における最重要雑草であり、除草剤抵抗性をはじめとするさまざまな適応形質を急速に獲得してきたことで知られています。しかし、こうした形質を支える遺伝子の働きをタイヌビエ自身で直接検証することは技術的に困難であり、これまでは実験の容易なモデル植物に頼らざるを得ませんでした。
 本技術の確立により、除草剤抵抗性や環境適応の鍵となる遺伝子をタイヌビエ自身に導入、あるいは破壊したりすることで、その機能を直接証明できるようになります。これにより、除草剤抵抗性などタイヌビエがさまざまな防除手段に適応していくしくみをDNAレベルで解明するとともに、抵抗性雑草の発生を抑える新たな雑草管理技術や次世代型除草剤の開発につながることが期待されます。
 


図1:形質転換に適したタイヌビエのカルスの特徴
Type 1およびType 2カルスが遺伝子導入に適している。Type 3カルスは遺伝子導入効率が低い。青色の染色は、導入した遺伝子が正常に機能していることを示す。(Gondo et al. 2026を基に作成)


図2:本研究で確立したタイヌビエの形質転換技術
種子からカルスを誘導し(a–c)、遺伝子を導入した後、形質転換したカルスを選抜し(d)、植物体へ再生させることに成功(e, f)。導入した遺伝子が植物内で正常に働いていることを青色の染色(g, h)および除草剤反応(i)によって確認した。(Gondo et al. 2026を基に作成)

謝辞

 本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金(JP19H02955、JP22H02347、JP23K23612)、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR24N2)の支援を受けて実施されました。

用語解説

注1)形質転換
  生物に遺伝子を導入し、その遺伝子の働きを調べる研究技術。遺伝子の機能を明らかにするために広く利用される。
注2)除草剤抵抗性雑草
  もともと除草剤が効いていた雑草集団の中で、通常であれば枯れる量の除草剤を散布しても生き残る性質を獲得した雑草。従来有効だった除草剤による防除が難しくなるため、農業上の大きな問題となっている。
注3)組織培養
  植物の細胞や組織を無菌条件で培養し、カルスや植物体を育てる技術。遺伝子導入や植物の再生に不可欠な基盤技術。
注4)カルス
  植物の組織を培養することで形成される、未分化な細胞のかたまり。適切な条件で培養することで、芽や根を形成させ、植物体を再生させることができる。

論文情報

タイトル:Development of a genetic transformation system in Echinochloa phyllopogon by particle bombardment
著者:Takahiro Gondo*, Manami Sugahara, Hwan May Ng, Kentaro Yasuda, Satoshi Iwakami*
掲載誌:Plant Cell Reports
掲載日:2026年10月14日
DOI:10.1007/s00299-026-03978-4
URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s00299-026-03978-4

プレスリリース資料

世界初、稲作の強害雑草タイヌビエの形質転換系を確立
―雑草自身で遺伝子の働きを直接証明へ―