【プレスリリース】シカによる植物の食べられ方が隣の植物によって変わる―シカの採餌行動と植物の栄養形質をつなぐメカニズムを解明―
本学元教員の坂田ゆず先生(現・横浜国立大学大学院環境情報研究院/総合学術高等研究院助教)、本学卒業生の佐々木虎太郎さん(現・株式会社自然科学調査事務所勤務)、本学元教員の伊藤 謙先生(現・兵庫医科大学助教)の研究グループは、植物の食べられ方と、それを決めるニホンジカの採餌行動および、隣り合う植物の栄養形質とのつながりを明らかにしました。本研究成果は、日本生態学会の国際科学雑誌「Ecological Research」(2026年10月6日付け)に掲載されました。

本研究のポイント
・野生のニホンジカに異なる組み合わせの植物パッチを提供して、植物の食べられ方とシカの採餌行動、植物の栄養形質の関係を明らかにしました・植物の食べられ方を決める上で、ニホンジカのパッチ内の滞在時間と近隣の植物に対する忌避行動の頻度が重要な採餌行動であることが分かりました
・パッチ内の植物のタンパク質やミネラル含量などの栄養形質が、ニホンジカの採餌行動と関連することが分かりました
・本実験から、ニホンジカの採餌行動とパッチの植物の食べられ方は、主に3つのパターンに区分することができました
概要
| 横浜国立大学大学院環境情報研究院/総合学術高等研究院(元秋田県立大学)の坂田ゆず助教、株式会社自然科学調査事務所(元秋田県立大学)の佐々木虎太郎氏、兵庫医科大学(元秋田県立大学)の伊藤謙助教の研究グループは、植物の食べられ方と、それを決めるニホンジカの採餌行動および、隣り合う植物の栄養形質とのつながりを明らかにしました。 本研究成果は、2026年10月6日付けで日本生態学会の国際科学雑誌「Ecological Research」に掲載されました。 |
研究の背景
近年、大型の草食性哺乳類の増加による植生の衰退が世界的な問題となっており、日本においてもニホンジカ(以下シカ)の急激な増加により森林の下層植生の変化や生物多様性の減少が報告されています。植物の食べられやすさは、草食性哺乳類の採餌選択によって決まります。これまで複数の採餌理論から、草食性哺乳類の採餌選択は、植物の栄養素のカロリーやバランスによって決められていることが提唱されてきました。採餌選択を理解する上で、草食性哺乳類の行動や植物の形質の分析が欠かせません。シカには好んで食べる植物種と嫌いな植物種があり、森林の中ではしばしば好きな種と嫌いな種が混在して生育しています。このような場合、植物がどのくらいシカに食べられやすいかは植物種ごとの好みだけではなく、近くに生えている植物の好みも影響します。例えば、「好きな植物でも周りに嫌いな植物が多いと食べられにくくなる」といった現象が見られ、これを連合効果[用語1]と言います。しかし、周囲の植物の存在によって食べられにくくなるのか食べられやすくなるのかといった連合効果の方向性のメカニズムは明らかになっていない点が多く、植物の形質との関係については解明がすすんでいません。そこで、本研究では、植物の食べられ方を決める採餌行動と植物の栄養形質のつながりを検証し、連合効果のメカニズムについて考察しました。シカが好む植物(アカソ)(図1)を焦点種として様々な種と混植して全11種類のパッチ(図2A)を用意し、岩手県五葉山の野生のシカに提供して植物の食べられ方とシカの採餌行動(図2B)を比較しました。また、対象植物種の粗タンパク質やミネラル成分などの栄養素の含有率を分析しました。研究成果
植物の被食パターン(食べられ方)を決める上ではシカの滞在時間と近隣の植物に対する忌避行動の頻度が重要な採餌行動であり、栄養形質との関連が示されました。また、隣の植物種の違いにより採餌行動と焦点種の茎の被食パターンは異なることが分かり、以下の3つに区分することができました(図2C)。①隣の植物の栄養価が高い場合、パッチの滞在時間が長いため、焦点種と隣の植物のどちらも被食率が高くなる。②隣の植物の栄養価が低い場合、近隣を少し採食してパッチを退去することが多いため、焦点種の被食率が低くなる(連合抵抗性)。③隣の植物に対する忌避行動が多い場合、忌避した後にパッチ内で他の餌を探索・採食することが多いため、焦点種の被食率が高くなる。以上により連合効果のタイプを生み出す多様な採餌行動が明らかになり、採餌行動には近隣の栄養形質が影響していることが示されました。また、本研究からは忌避行動の要因となる植物形質は検出できませんでしたが、栄養形質ではなく防御形質が関係している可能性が示唆されました。一方で、葉はほとんどのパッチですべて採食され、パッチ間で違いが見られず、シカの密度、学習の効果、個体差など野外環境における植物の食べられ方に影響する要因の複雑さも明らかになりました。
図1 ニホンジカの採食実験の様子。焦点植物のアカソの周りに近隣植物を設置したパッチ(タライ)を提供し、シカの採餌行動と植物の被食パターンを観察しました。

図2Aシカの採食実験のデザイン。B植物パッチ内におけるシカの行動を、植物に接触後に採食した場合と忌避した場合に分けて分析しました。 C本実験から区分された3つの採餌行動・被食パターン。
*ミヤマイラクサ区では、パターン①と同様の採餌行動が見られましたが、栄養形質はアカソ・ミズヒキ・オカトラノオ区ほど高くありませんでした。ノコンギク・ヒヨドリバナ区では、パターン②と同様の採餌行動が見られましたが、焦点植物の被食率は低くありませんでした。
今後の展開
本研究からシカの採食を介した植物間の関係やそれを決めるシカの行動が明らかになりました。本研究で得られた知見をシカの食害に対する森林管理に応用できる可能性があります。例えば、植物群落へのシカの食害の影響を予測や脆弱性の評価につなげることで、シカ柵を設置する場所の選定に指標となる可能性が考えられます。また、法面の緑化や保全事業を考える際の植物種の選定基準の一つとして、栄養価が低いかつシカが忌避行動を示しにくいことがあげられます。謝辞
本研究は、日本学術振興会科学研究費(JP21K17916)などの支援を受けて、実施されました。用語解説
[用語1]連合効果:植物は、近接して生育する植物の被食に影響を与えたり、逆に周囲の植物の防御から、自身の被食に影響を受けたりする現象。隣の植物によって、食害されにくくなる場合(連合感受性)や、食害されにくくなる場合(連合抵抗性)に大別される。論文情報
掲載誌:Ecological Research著者: Kotaro Sasaki, Ken Ito, Yuzu Sakata
表題:Mechanisms of associational effects of sika deer browsing: relationship between plant nutrients and foraging behavior
DOI:10.1111/1440-1703.70134
プレスリリース資料
シカによる植物の食べられ方が隣の植物によって変わる―シカの採餌行動と植物の栄養形質をつなぐメカニズムを解明―
