本学修了生の論文が雑誌「Plant Species Biology」のEditor Choice に選出されました


森林科学研究室12年の歴史が詰まった研究成果!

本学生物資源科学専攻を2025年3月に修了し、現在山形大学大学院理学研究科 博士後期課程(植物生態学研究室)2年生に所属する小川りささんらの論文が、掲載誌『Plant Species Biology』のEditor Choice(編集長が選ぶ最も注目される論文に選出されました。

論文タイトル

Seedling Regeneration Process of Sasa veitchii var. tyugokuensis Over 12 Years Following Small-Scale Flowering
(小面積開花から12年間にわたるチュウゴクザサの実生更新過程)

論文概要

ササ類は、一般的には100年以上も地下茎を伸ばして成長した後、広範囲にわたって一斉に開花・枯死し、実生(みしょう:種子から発芽したばかりの幼植物)から世代交代を行います。しかし、実際にはササ群落の一部だけ(多くの場合は個体の一部)が局所的に咲く「小面積開花」も頻繁に観察されています。この小面積開花から生じた実生が、長期間生き残って新たな世代として定着できるのか、またそのプロセスはどうなっているのかは、これまで長期的に調査した事例がなかったため解明されていませんでした。
そこで本研究では、2011年に秋田市内の森林で小面積開花したチュウゴクザサを対象に、開花から実生の生存・成長過程と、周囲の植生の回復状況を12年間にわたり追跡調査しました。その結果、小面積開花後に実生が芽生え、その6%ほどは12年後も生存していることが分かりました。一方で、過去に報告された一斉開花後の事例と比べると実生の成長は遅く、周囲の開花しなかったササが分布を拡大していることも観察されました。本研究は、ササ類が一斉開花だけでなく、小面積開花によっても世代交代を行っている可能性を新たに示すものです。
 


成長過程の比較


小面積開花による実生のイメージ


本研究の大きな特徴は、本学生物環境科学科 森林科学研究室で長年にわたり蓄積されてきたデータをもとにしている点です。
2011年の小面積開花発生以来、当時の蒔田 明史 教授(現・顧問)[専門:森林生態学]を中心に調査が開始され、その後も森林科学研究室の3年生が毎年実習の一環として同一地点の調査を継続してきました。
小川さんは2021年から本研究に携わり、学部3年生から大学院修士課程修了までの4年間、自らも現地調査を重ねながら、それまで12年間蓄積されたデータを、当時本学助教であった坂田ゆず氏(現・横浜国立大学助教)、木村 恵 准教授[専門:森林生態学]らとともに解析し、本論文としてまとめ上げました。本研究は、森林科学研究室の教員・学生が、世代を超えて受け継いできた調査の成果が結実した、歴史の詰まった研究といえます。

小川さんは、「小面積開花から12年後まで生存した実生が6%ほど、というのは、それほど低い値だとは思いません。一斉開花の場合も、実生が定着する過程で個体数が急激に減る傾向は同じで、成長が遅いという点が大きく異なっています。これには、生育する森林内が暗かったことと、開花個体数が少ないために自家受粉の割合が高かった、という『環境要因』と『遺伝的要因』の2つが影響したと考えられます。この研究で新たに生じた疑問が基盤となって、一斉開花後の遺伝的に多様な実生と自家受粉が生じやすい小面積開花後の実生を様々な環境で比較する、現在の研究につながっています」と話しています。


小川りささん


一斉開花と小面積開花の比較

小川さんは、本学在学中に蒔田明史教授(現・顧問)と、坂田ゆず氏の指導のもと、森林科学研究室で実習を行う中で、ササ研究の面白さに魅力を感じたと話します。
現在は山形大学大学院で研究を続けながら、北海道や秋田、山形を中心に、ササの小面積開花後の実生の定着がどの程度一般的な現象なのかについて調査を進めています。現在も、本学の木村准教授から定期的にササの開花情報の提供を受けるなど、本学森林科学研究室との研究交流が続いています。


(左から)木村准教授、工藤恵梨さん(本学修了生、現在本学職員)、蒔田顧問、小川さん

小川さんからのコメント

ササの小面積開花は比較的よく観察される現象ですが、これまでは種子があまり実らず、実生もほとんど見られないため、世代交代に寄与しないという捉え方が支配的でした。しかし、小面積開花といってもその規模は様々であり、実生更新が見落とされてきた可能性がありました。本研究は、地域の方に開花している場所を教えていただき、タイミングを逃さず調査を開始した共著者と、長年にわたり地道に調査を継続してくれた森林科学研究室の卒業生のご協力によって成り立っています。社会に開かれ、長期調査を大切にする研究室であったからこそ、チャンスを見逃さずに膨大な時間と労力を要する調査を遂行できたのだと思います。また、この研究を通して複数の教員によるご指導を受け、大学内外の方々と多角的な視点で議論ができたことも大きな支えになりました。
豊かな自然に恵まれた秋田の地で日常的にササを観察できた経験は、現在の研究の土台であり、大きな原動力になっています。小面積開花は身近な現象でありながら、その生態学的意義についてはほとんどわかっていません。編集長から頂いたコメントは、ササの生態を理解する上で重要な視点だと思います。今後も真摯に観察を続け、研究を進めていきます。

蒔田教授(現:顧問)からのコメント

本論文は、2011年に秋田市植物園近くの雑木林で小面積開花したササの実生動態を明らかにしたものですが、そのデータは、これまでの本研究室の歴代卒業生が研究室実験として12年間にわたりとり続けてきてくれたものなのです。それを小川さんがまとめ上げてくれたのですが、編集長のコメントにある長期的な継続への評価は、これまでの研究室の蓄積が評価されたものとも考えることができますし、貢献してくれた卒業生の皆さんにも感謝したいと思います。今回の選出を機に本研究がさらに発展することを祈りたいと思います。

木村准教授からのコメント

森林科学研究室では自分の研究テーマに限らず、森林科学に関する多様な調査・実験を体験する機会を設けています。 今回の論文で使用したデータも、歴代の学生たちが実習の中で蓄積してきたものです。樹木やササをはじめ森林を構成する植物の多くは長命であり、短期間の調査だけでは解き明かせない課題が多く存在します。当研究室に所属した卒業生たちの協力があったからこそ、このような長期間にわたる観察が実現しました。調査、実験に携わった全てのみなさんにこの場を借りて御礼申し上げます。森林の成り立ちに興味のある方は、ぜひ一度研究室に遊びに来てみてください!

Editor's Choice選出理由(出典:Plant Species Biologyより)

私は野外での継続的な調査とは相性が悪いです。送粉から結実までを調べようとしたら、食害でほとんどやられてしまったり、一年生植物の発芽から開花期までの葉のデータを採ろうとしたら、集団中のほぼ全個体が理由不明で消滅したりという経験がいくつかあります。ですので、複数年にわたって、集団中の個体のデータを取り続けるというのは、本当に敬服するばかりです(そういう研究こそ種生物学会の本丸という気もしますが)。さて、選んだ論文は、大規模な同調開花が知られているササの、小規模開花由来の実生のその後を12年にわたって調べたもので、SSRを利用してジェネットごとに動態を捉えています。ちなみに、これらはこの後もメインの大規模開花からずれて開花するのでしょうか?だとしたら、次の開花も他と同調しないのでしょうか?13年ゼミ、17年ゼミの話が頭をよぎりました。

在学当時の小川さん(公式Xより)

ササの一斉開花を現地調査しました(令和5年8月、北海道)