【プレスリリース】ハエトリソウは「大きいほど速く閉じる」~数理モデルにより葉の大きさと曲がり方の関係を発見~

[左]大橋 雄二 教授 [右]システム科学技術研究科 平田 美智子さん

 システム科学技術学部機械工学科/プロセス・インフォマティクス研究グループの大橋 雄二 教授[専門:超音波計測学]と大学院・システム科学技術研究科2年生の平田 美智子さんらの共同研究チームは、CTスキャンや三次元再構築データを用いて、ハエトリソウの閉合運動を再現できる数理モデルの開発に成功しました。その結果、葉が閉じる速さには、葉の大きさだけでなく曲がり方(曲率)が深く関係していることが明らかになりました。特に、小さい葉では高速に閉じることが難しいことが示されました。

概要

 食虫植物のハエトリソウが虫を捕まえるときの葉を閉じる速度は、これまでの研究では、大きな葉は速く閉じ、小さな葉は遅く閉じることが知られていましたが、葉の大きさと運動速度の関係は十分に解明されていませんでした。
 本研究では、秋田県立大学の大橋雄二教授・平田美智子大学院生と、北海道大学の津川暁准教授、埼玉大学の豊田正嗣教授・須田啓助教らの共同研究により、CTスキャンや三次元再構築データを用いて、ハエトリソウの閉合運動を再現できる数理モデルの開発に成功しました。その結果、葉が閉じる速さには、葉の大きさだけでなく曲がり方(曲率)が深く関係していることが明らかになりました。特に、小さい葉では高速に閉じることが難しいことが示されました。
 この成果は、ハエトリソウの高速運動の仕組みを理解する手がかりになるだけでなく、生物の仕組みを工学に応用するバイオミメティクス研究にも役立つことが期待されています。将来的には、柔らかい構造を動かす新しい仕組みの開発や、大きさによって動きが変わる新しいソフトロボットへの応用につながる可能性があります。

発表のポイント

1.CTスキャン解析や運動の三次元再構築データから幾何学的特徴量を抽出し、ハエトリソウの閉合運動を再現する数理モデルの開発に成功しました。
2.ハエトリソウ葉のサイズと曲率の制約条件が明らかになり、小さな葉は大きな葉よりも速く閉じることはできないことが示されました。
3.ハエトリソウ閉合運動の仕組みの解明に貢献するだけでなく、大きさに応じた動きの制御や曲面構造の設計などのソフトロボティクスの革新的な方法論になることが期待されます。
 

図1:閉合運動は葉のサイズにより変化する

 

成果掲載誌

 本研究成果は、国際学術誌 PLOS ONE誌に、令和8年5月26日14:00(アメリカ東部時間,5月27日 午前3:00)に掲載されました。
論文タイトル:Size–Curvature Constraint in the Closing Motion of Venus Flytrap Leaves (ハエトリソウ葉の閉合運動におけるサイズと曲率の制約条件)
著者名:Michiko Hirata, Zichen Kang, Hiroki Asakawa, Hiraku Suda, Masatsugu Toyota, Yuji Ohashi, Satoru Tsugawa
DOI:10.1371/journal.pone.0349246

研究の背景

・研究の背景
 ハエトリソウ(Dionaea muscipula)は、1秒以内に葉を閉じて虫を捕らえる食虫植物です。葉身は二枚貝のような構造で構成され、通常6つの感覚毛を有し、この感覚毛が約30秒以内に2回刺激されると、葉が閉じることが知られています。筋肉を持たないにもかかわらず、ハエトリソウが非常に速く動くことから、多くの研究者がその仕組みに注目してきました。しかし、葉を高速で閉じる力学的な仕組みについては、まだ十分に解明されていませんでした。これまでには、細胞内に水が流入し圧力(膨圧)が生じ、葉が変形するという説や、葉に蓄えられた弾性エネルギーが一気に解放されることで急速に閉じる「座屈不安定性」という説が提案されていました。しかし、「大きな葉は速く閉じ、小さな葉は遅く閉じる」という葉のサイズと運動速度の関係は説明できていませんでした。そこで本研究では、葉の大きさや開き方、閉じる速さを詳しく測定し、形と運動の関係を調べました。さらに、CTスキャンと三次元再構築データをもとに、ハエトリソウの閉合運動を再現できる数理モデルを開発し、葉の形状が運動速度にどのように影響するかを解明することを目指しました。
 

図2:葉のサイズと閉合速度の関係と数理モデルの開発

(a)葉のサイズW(左)と閉合時の角度変化の様子(中央),葉のサイズと閉合速度の関係(右).
(b)開状態と閉状態のCTスキャンデータ.
(c)葉の表面の黒点の三次元再構築の方法(左)と構築し曲率を計算した結果(右).
(d)閉合運動を再現する数理モデルの式と再現した結果.開状態(青)と閉状態(赤)を表す.

・本研究の成果
 本研究では、ハエトリソウの葉の大きさや閉じる速さを測定し、葉の形と運動の関係を調べました。閉合速度は、葉が閉じるときの開き具合(開口角度)の変化から算出しました(図2a)。その結果、葉が大きいほど速く閉じる傾向があることが分かりました。一方で、葉のサイズが6㎜未満、または21㎜を超える場合には、葉はほとんど閉じないことも確認されました。さらに、葉の動きを詳しく理解するために、CTスキャンと3次元再構築データを用いて、ハエトリソウの閉合運動を再現する数理モデルを開発しました(図2b-d)。このモデルによって、開いた葉が閉じた形へ変化する様子を再現することができます。閉合運動を理解するうえで重要なのが、葉の「曲がり具合」を表す指標Dです(図3a)。葉は閉じる際に、外向きに反った状態から内向きに曲がった状態へ変形します。開いた状態の曲がり具合をDop、閉じた状態をDclとすると、葉の曲がり具合がDopからDclへ変化することで閉合運動が起こります。また、葉の高さHと曲がり具合Dの関係を調べたところ(図3b)、小さい葉ほど強く曲がっていることが分かりました。図の色は葉の曲がりの強さ(平均曲率)を示しており、赤いほど大きく曲がっています。さらに、実際の葉で観察されたDの変化(Dop→Dcl)を整理すると(図3c)、全てのデータが特定の範囲(オレンジ色の領域)に収まることが分かりました。この結果は、葉のサイズと曲がり方には制約があり、小さい葉は大きい葉のように高速で閉じることが難しいことを示しています。

図3:葉のサイズと曲率の制約条件

(a)葉の曲がり具合Dの模式図(閉状態のD:Dcl,開状態:Dop).(b)葉の高さHと閉状態の葉の曲がり具合Dclの形態空間.カラープロットは平均曲率を示す.(c)葉の高さHと葉の曲がり具合Dの関係.矢印は実データでの閉合時のDの変化(Dop→Dcl)を示す

・今後の期待
 今回の研究から、ハエトリソウの葉には「大きさ」と「曲がり方」に一定の制約があることが分かりました。特に、葉のサイズが6㎜未満、または21㎜を超える場合には、上手く閉じることができない可能性が示されました。これは、葉を動かす力である膨圧や座屈不安定性が働いても、葉の形によって「変形しやすさ」に限界があるためであると考えられます。つまり、葉の形そのものが、どの程度速く、どのように動けるかを決めている可能性があります。そのため、形状による運動の限界を理解することは、今後ハエトリソウの運動メカニズムを解明するうえでとても重要です。さらに、この成果は、生物の仕組みを工学に応用するバイオミメティクス分野にも役立つと期待されています。例えば、大きさによって動き方が変わる新しい機構や、柔らかく曲がる構造を制御する技術の開発につながる可能性があり、将来的にはソフトロボットへの応用も期待されています。

用語解説

(1)曲率
 物体や曲面がどれくらい曲がっているかを表す量。平均曲率は、値が大きいほど曲がりが急になり、値が小さいほど平らに近いことを示す。
(2)バイオミメティクス
 生物が持つ機能・構造・動力学などを模倣して、新しい技術やモノづくりに役立てる科学技術。
(3)ソフトロボティクス
 柔軟な材料を用いて、生物のしなやかな運動や環境への適応性を模倣するロボットの設計・開発を対象とする研究分野。
(4)座屈不安定性
 構造物がある一定の条件下で安定性を失い、元の形状から大きく変形する性質。ハエトリソウでは葉の内側の圧力変化により安定性を失い、葉が一気に閉じる運動が引き起こされていると考えられている。
(5)形態空間
 生物などの多様な形を、「大きさ」「曲がり具合」「形の偏り(異方性)」などの特徴量を用いて表示する仮想的な空間。異なる形状どうしを定量的に比較し、形の違いや共通性を可視化できる。

研究体制と支援

 本研究は、秋田県立大学(平田美智子、大橋雄二 教授)、北海道大学(津川暁 准教授)、埼玉大学(豊田正嗣 教授、須田啓 助教)の共同研究として行われました。
 本研究は、文部科学省の科学研究費補助金(JP23H01143, JP22J00902, JP25KJ0714, JP24H00565, JP25K18499, JP25K18427)、科学技術振興機構(JST CREST JPMJCR2121, JST ERATO JPMJER2403)の支援を受けて行われました。

プレスリリース資料

ハエトリソウは「大きいほど速く閉じる」
~数理モデルにより葉の大きさと曲がり方の関係を発見~