腎臓病透析患者向け低カリウムホウレンソウ栽培

「腎臓病透析患者向け低カリウムホウレンソウの栽培法を確立」

 

生物生産科学科

助教 小川敦史

卒業生 田口 悟

 

現代病といわれる慢性腎不全が悪化した腎臓病透析患者数は近年急増しており、今後も増加し続けることが予想されています。腎臓病透析患者は、体内のカリウムを十分に排出することができないために、カリウムの摂取制限を行なわないと不整脈により心不全を起こす可能性があります。そのため、腎臓病透析患者は1日のカリウム摂取量を15002000 mgに制限されています。日常で私たちが食べている野菜にも多くのカリウムが含まれているため、腎臓病透析患者は、野菜を生食できずに、水にさらしたり茹でたりしてカリウムを除去することにより、摂取する必要があります。

 

私たちの研究グループは、野菜の中でも比較的カリウムを多く含むホウレンソウを用いて、栽培方法を工夫することで、従来のホウレンソウの1/3から1/4のカリウム含有量のホウレンソウを栽培する方法を確立することに成功しました。一般にカリウムは植物の生育に必須の養分ですが、今回の研究成果では、ホウレンソウの生育は従来のものとは差がなく、カリウムの含有量を減らすことが可能になりました。

 

一般に農産物の機能性を変化させる手法としては、交雑育種や遺伝子組み換え技術が挙げられますが、いずれの方法も機能性を変化させるまでには時間がかかり、また遺伝子組み換え作物については、安全性に対する不安から消費者に受け入れられていないのが現状です。一方この研究では、それら現状の方法とは異なり、栽培環境を制御することにより、カリウム含有量の制御を行うことができる利点があります。

 

今回はホウレンソウで研究を行いましたが、今後様々な野菜への応用が期待できると考えられます。この研究成果によって、将来腎臓病透析患者であっても今まで以上に多くの葉菜類の摂取が可能になり、また生食できることで栄養分を効率的に摂取することが可能になると考えられ、腎臓病透析患者の食生活の改善に有益であると考えられます。

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