博士後期課程の青谷晃吉さんが日本陸水学会論文賞で受賞しました
青谷さんは、本学の「特別早期修了制度」を利用して博士後期課程に在籍しており、生物環境科学科の早川 敦 教授[専門:生物地球化学]の指導の下、高温強酸性温泉水の流入する渋黒川(秋田県玉川支流)におけるトビケラの生態に関する研究を進めています。
授賞論文
「高温強酸性温泉水の流入する渋黒川(秋田県玉川支流)におけるレゼイナガレトビケラRhyacophila lezeyi(トビケラ目, ナガレトビケラ科)の生活史」青谷晃吉 谷田一三
研究概要
秋田県雄物川水系の渋黒川(玉川支流)(pH: 平均 2.98)において、2017年5月から2019年11月までレゼイナガレトビケラの生活史( 一生の間に経験する一連のライフステージ life history) の調査を、データロガーによる1~2時間間隔の河川水温の自動記録と併行して実施しました。渋黒川は、pH1.1、97℃の熱水が毎分9000L湧出する高温で強酸性の玉川温泉水が流入しているため、河川水温は温泉水の影響のない近傍の山地渓流より明らかに高く、冬季はその差がより顕著でした。本種は5月下旬から7月上旬には蛹化・羽化のピークが見られましたが、蛹化(幼虫がさなぎになること)はその後も10月中旬まで続きました。I , II, III, IV, Vの全齢期の幼虫が4月から11月までほぼ連続的に出現しており、明瞭なコホート(同時出生集団= 同時期に一斉に孵化した集団 )は確認できませんでした。このように、本種は、渋黒川においては基本的に年1世代(年に1回発生する)であると思われますが、同期性(同時期に羽化・産卵を行うこと synchronous)の低い(非同期的 asynchronous)生活環でした。現場の河川水温に準じて変動させた温度条件で飼育した蛹の発育零点(発育を開始するために必要な最低温度) は、仮の発育零点を使って算出した有効積算温量(蛹が成虫になるまでに必要な温度の積算値)の最小偏差から6.8 ℃と推定されました。幼虫の発育零点が蛹のそれと大差ないと仮定すると、冬季でも河川水温は幼虫の発育零点を超える時間があると思われました。この特殊な水温レジーム(水温の季節的な変化パターン )が,同期性の低い生活環の主因と思われました。受賞コメント
1ヶ月後に初めて担任した生徒たちの還暦の会があるというタイミングで受賞できて大変感激しております。この研究テーマは、49年前、山形大学理学部に在籍中、普通河川のトビケラの生活史に関する卒論研究の指導者であった横山宣雄先生から、「強酸性で有名な玉川温泉の流入河川には普通河川と全く異なる昆虫がいる」との情報をいただいたことが発端です。その2年後、中学生を連れて一緒にその川に調べに行きました。果たして、先生の話された通りの見たことのない幼虫がたくさんいる不思議な世界でした。直ぐにでも調査したいと思いましたが、大曲の自宅から車で往復4時間もかかるので、在職中は調べたいと思っても行く余裕はありませんでした。退職後、満を持して、調査に通い始めました。3年間調査を続けました。(※甲子園で金足農業高校の試合がある日は朝4時に起きました。)しかし、成虫がほとんど採集されず、雪解け前から初雪が降る頃まで孵化直後の1齢幼虫がみられるなど、いつ何回羽化するかさえ分からず、データの解析に頭を抱えました。これまで手掛けたトビケラとは全く異なり、本種の生活史の解析は、落とし物を拾いに行くような感じでした。そのときに、共著者になってくださった谷田一三先生(日本産水生昆虫検索図説の編者)から海外に同期性の低いトビケラがいることの情報など、多くの有益なご助言をいただいたことで、闇を脱し、前に進むことができました。実は、その谷田先生も横山先生と親交があり、谷田先生が座長をされた研究会に横山先生と一緒に参加した当時学生だった私のことを覚えていてくださって、44年後に学会でお会いした時に声をかけてくださったのでした。皆さんも、研究を通した人とのつながりを大事にしてください。いつかきっと、そのつながりが役に立つことがあると思います。いつも、多くのアドバイスをいただき、親身になって相談に乗ってくださる早川敦先生、そして、こんな年になっても好きなことをやらせてくれている妻にはとても感謝しています。[左]受賞した青谷 晃吉さん [右]早川 敦 教授
自然生態管理学研究室
生物環境科学科/自然生態管理学研究室は、森林から農耕地、湖沼などの多様な自然生態系を対象に物質循環機能を調査し、その機能の修復・技術向上・適正管理技術の開発に関する研究をしています。ほとんどの学生がフィールドワークを基に研究を進めていますので、アウトドアや自然が好きな学生は、ぜひ一度研究室へ遊びに来てください!研究室ブログ 2024年5月9日付け「石川教授の誕生日会」より

