本学教員らの行った研究成果が国際学術雑誌「Plant and Cell Physiolosy」に掲載されました

植物の受精卵が形を変えながら伸びることを発見
〜最初は細くゆっくり伸び、細胞分裂前に太く速くなる〜

 システム科学技術学部 機械工学科津川 暁 助教[専門:植物流体工学]らの共同研究チームが行った研究の成果が、国際学術雑誌「Plant and Cell Physiolosy」の2023年11月号に掲載されました。

発表のポイント

☆植物の受精卵が細胞伸長して第一分裂に至る過程について、形や速度の変化を精緻に認識の上成功。
☆一般的な植物細胞とは異なり、受精卵は「先端成長」という特殊な様式で細長く伸びることを発見。
☆「先端成長」する他の細胞とも異なり、受精卵は成長段階に応じて形状や速度を変えながら伸びる。

概要

 植物の葉や根などの器官は、植物の上下方向(体軸)に沿って作られます。ほとんどの植物に関して、体軸は、受精卵が上下に非対称分割することで確立されます。であるシロイヌナズナでは、受精卵がまず上方向に細胞伸長し、非対称分割に渡ることが知られていましたが、どのような過程を経て伸長するのかは不明でした。本学の津川暁助教、石本志高教授、康子辰博士、野々山朋信博士らは、モデル植物のシロイヌナズナにおいて、受精卵が細胞伸長する様子をライブイメージングするとともに、得られた画像のブレを補正する新たな画像解析法「公認標準化法」を開発したことで、受精卵がどのように細胞伸長するのか精緻にその結果、細胞の伸びが伸びる一般的な成長様式とは異なり、受精卵は細胞の先端だけが成長「先端成長する」という様式で伸長することを突き止めました。 「成長」する植物細胞として知られている根毛との挙動を詳細に比較した結果、一定の太さと速度を保って長くなる根毛とは異なる、受精卵は細胞分裂の前に一過的に太さと速度を増すことを見出しました。今回の発見は、受精卵に特徴的な形状や速度の変化が、その後の非対称分裂に繋がる可能性を示しており、植物の体軸形成への理解が進むと期待されます。
 


図1(A)イメージ規定標準化法モード図。細胞膜を緑色で蛍光したシロイヌナズナ受精卵のライブング像から細胞輪郭を抽出し、表面曲率をもとに特徴点を特定して整列させることで、 (B)受精卵の先端半径の経過を表したグラフ(上)と、その変化を模式的に示した図(下)。スケールバーは10マイクロメートル(µm) )を表します。

津川助教のコメント

 植物受精卵はたった1つの細胞だけである決まった方向に異方的に成長し頂端を不等分裂させることで、その後の多細胞化と最終的な植物体軸を決めていると考えられています。しかしながら、受精卵細胞がどのような仕組みで成長しているかは長い間不明でした。今回の研究では、受精卵のどの部位が成長しているかを調べるために、流体工学で用いられるPIV法(粒子画像流速測定法)や情報工学で用いられる相互相関解析を適用しました。画像解析の結果、受精卵細胞の成長様式が「先端成長」と呼ばれる特異な成長をしていることが初めてわかりました。この定量的な評価によって、受精卵細胞内の細胞核やたんぱく質がどの程度成長と相関しているかを詳細に解明できる展望が開けます。このように植物学と機械工学の専門的知見を合流させ、人が理解できることと機械(コンピュータ)が理解できることを融合させる学際領域は「人機協働」と呼ばれ、近年、大きな潮流を生んでいます。植物学者の直観による閃きや仮説を機械工学で検証し、逆に機械工学で問題にすらなっていなかった新しい力学問題を植物の中に見出すような、実験と理論を融合する研究を今後も続けていきたいと考えています。 

論文情報

☆タイトル:生細胞イメージングデータの座標正規化がシロイヌナズナの受精卵の成長ダイナミクスを明らかにする
☆著者:康子辰、松本光梨、野々山朋信、中川朔未、石本志高、津川暁、植田美那子
☆掲載誌: Plant and Cell Physiology
☆DOI:10.1093/pcp/pcad020 URL: https://doi.org/10.1093/pcp/pcad020