フランケンシュタイン!?

フランケンシュタイン!?~ちょっといい科学の話~

総合科学教育研究センター 准教授  松村 聡子


「フランケンシュタイン」というと、いかつい顔の恐ろしい怪物のことだと思っておられる方も多いと思います。

 

これは実は怪物ではなく(怪物そのものに名前はつけられていません)ヴィクター・フランケンシュタインという怪物を創り出した科学者の名前なのですが、何度も映画化されたり、さまざまに翻案されたりして広範に行き渡っているイメージに比べると、原作のほうはそれほど知られていないかもしれません。


『フランケンシュタイン』はイギリス人女性、メアリー・シェリーによって書かれた小説で、初版は1818年に出版されました。執筆を始めた当時、彼女はまだ十代でしたが、すでに二回の出産を経験していました。しかもそれはロマン派の詩人、シェリーの愛人の立場での出産でした。(シェリーの妻の自殺後、二人は結婚しています。)


生命の根源を解明したいという情熱に取りつかれたヴィクターは、観察や実験を重ね、ついに科学の力で新たな生命を創り出すことに成功します。しかし出来上がった創造物は、ぞっとするほど醜い怪物だったのです。そのあまりの醜悪さに、彼は生まれたばかりの創造物を見捨てて逃げ出してしまいます…。


シェリーや、同じくロマン派の詩人のバイロンは、科学にも造詣が深く、彼らの話はメアリーの想像力を大いに刺激しました。


また、この怪物を「生み出す」物語には、彼女自身の出産にまつわる不安や恐怖も大きな影を落としています。怪物はやがて、創造主であるヴィクターに恐ろしい復讐を次々と仕掛けます。けれどもそうした怪物も、単なる悪の権化として描かれてはいません。


科学の力の賜物である怪物は、人間らしい心を育み、復讐の合間にも、絶えず良心の呵責と深い孤独感に苦しむのです。


怪物は人間が持つ二面性を照らし出してもいるのです。



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