水田雑草についての研究

                                                            (保田)
イネの起源地は中国大陸です。日本には縄文時代晩期に伝播したと考えられています。イネの日本への伝播経路については諸説あるのですが、水利施設を伴う灌漑型の水田稲作(水稲農耕)については,縄文時代晩期の後半もしくは弥生時代初期に朝鮮半島南部を経由して九州北部に伝播したとする説が有力です。その水田に生育する水田雑草も,日本に自生していた野草から雑草化したものは少数であり,大多数は史前帰化植物(中国大陸から水田稲作とともに日本に侵入した)であると推定されてきました。しかし、史前帰化植物とされている水田雑草にも、稲作以前の更新世に存在したことが明らかになった種もあり、日本の水田雑草フロラの成立過程については再検討が必要になってきました。
日本での耕地面積の半分以上は水田であり、水田には耕地雑草の約40%にあたる191種の水田雑草が生育していることが確認されています。日本での水田雑草フロラは雑草フロラの中での重要な構成要素であり、その起点となる水田雑草フロラの成立過程の解明は,雑草生物学における重要課題であるとともに、初期の水田稲作の実態や雑草管理方法を推察していく上でも役に立ちます。
日本の水田雑草フロラの成立過程を解明するためには,初期の水田雑草の侵入や拡散の経路およびその時期を推定する必要があります。植物の侵入・拡散の経路や時期は,発掘された炭化種子や花粉を分析することの他に、種内の地理的変異を利用した系統地理学的研究によっても推定できます。例えば、水田雑草であるキツネノボタンでは,核型の地理的変異によって、農耕に伴って伝播(史前帰化植物)したのではなく,縄文時代以前に日本列島で生育していたと推定されました。
タイヌビエ(写真)は,イネ科ヒエ属の一年生水田雑草であり,日本,韓国,中国,インド北部,スリランカ,マレーシア,インドネシアなどのアジア地域やイタリア,フランス,北アメリカに分布します。タイヌビエは史前帰化植物であると考えられており、日本では北海道から沖縄県までの水田に広く分布しています。現在、日本各地からタイヌビエを収集し、その形態やDNAでの地理的変異を分析しています。少しずつではありますが、日本への侵入経路や拡散経路、稲作伝播との関連性がわかってきました。













写真 水田に侵入するタイヌビエ(左)、タイヌビエの穂(中)、タイヌビエの小穂(右)。
  • 保田謙太郎・中山祐一郎(印刷中)タイヌビエの小穂C型およびF型の日本国内での地理的分布.雑草研究 61.
  • 保田謙太郎(2014)コラム タイヌビエの変異からイネの伝播経路を探る『身近な雑草の生物学』(冨永達・根本編著)pp.86-87,朝倉書店