研究内容

環境中の浮遊粒子状物質,農薬類,揮発性有機化合物の成分中に含まれる安定同位体比や,食品中に含まれる化学物質の安定同位体比を 用いた新たな発生 源解析手法の開発,異同識別法の開発を行っています。例えば,浮遊粒子状物質は様々な成分により構成されていますが,硝酸イオンの窒 素,酸素安定同位体比 や,アンモニウムイオンの窒素安定同位体比を分析することで,それらの起源に迫ろうとしています。また,現在,LC/IRMSという 分析装置によって,水 溶性の有機物質の成分ごとの安定同位体比が分析可能になりつつありますが,まだまだ課題も多い装置であり,それらの装置の改良や開発 に加えて,応用研究も 活発に進めています。

これら最先端の高精度分析技術を用いることで,様々な環境問題や食品偽装問題等に対して,迅速な解決と抑止を目指したいと考えてい ます。研究テーマとしては,主に以下の 4つに分けられます。


研究テーマ1

粒子状物質の発生源解析

浮遊粒子状物質に含まれる炭素や窒素安定同位体比を使って,発生源解析や環境動態を調査しています。浮遊粒子状物質は,水溶性イオ ン,重金属類,元素状炭素,有機炭素等,様々な成分の複合物質です。本研究では,元素状炭素や水溶性有機炭素などに含まれる炭素安定 同位体比や,硝酸イオ ンやアンモニウムイオンに含まれる窒素,酸素安定同位体比の分析法の開発も同時に行っています。また,窒素安定同位体比に関しては, 脱窒菌法という菌を使った高感度高精度分析を用いて分析を進めています。

脱窒菌法は,京都大学の木庭教授やスタンフォード大学のK.Casciotti教授のところに訪問し,教えて頂き,秋田でも出来る ようになりました。また,現在,南,東南アジアの大気汚染の解決のために,マレーシア,バングラデシュと共同で研究を進めています。



研究テーマ2

LC/IRMSを用いた有機物質の炭素安定同位体比の分析法の確立


近年,LC/IRMSという分析装置が開発されました。水溶性の有機物質に含まれる炭素安定同位体比を高精度に分析することが 可能になりつつあります。しかし,現状,LC/IRMSは課題も多く,それらの課題解決のために,研究室では,安価で安定した分析手 法の開発を目指 し,一つひとつの部品の再選定から行うことで,長期的かつ安定した装置に改良することが出来ました。

改良したLC/IRMSを用いて,蜂蜜のグルコース,フルクトースなどの糖類,有機酸の炭素安定同位体比や,日本酒中のエタノー ル,グルコース,有機酸の炭素安定同位体比を用いた新たな異同識別法の開発を進めています。また,浮遊粒子状物質中に含 まれる水溶性有機炭素の炭素安定同位体比の新たな分析法の開発も行っています(左側の写真はRapid Communiactions in Mass Spectrometry誌(Volume32, Issue19,2018)のカバーアートとして採用されました)。
 また欧州委員会からは,蜂蜜中の成分ごとの炭素安定同位体比の高精度分析法の開発で依頼され,バリデーションテストにも参加しまし た。現在,LC/IRMSの技術開発はドイツの研究グループと進めています。



研究テーマ3

農薬中の安定同位体比を用いた発生源解析


安定同位体比を用いた新たな農薬類の国内産か海外産かを区分する方法,また農薬商品の新たな同定方法,環境動態を解明する方法を開 発すること等を目的としています。近年,開発されたGC/IRMSを用いて農薬類に含まれる安定同位体比の高精度分析法の開発をス タートとして,実際の農 薬類を収集して分析しています。冷凍餃子のメタミドホス混入事件や,冷凍ピザのマラチオン混入事件で使用された農薬類の炭素安定同位 体比を分析すること で,商品ごとの識別を実施しました。また,最近では,LC/IRMSという水溶性の農薬類に含まれる安定同位体比の分析も進めていま す。




研究テーマ4

揮発性有機化合物の発生源解析

揮発性有機化合物(VOCs)は,発がん性物質であるベンゼンや,神経性の影響物質であるトルエン等,複雑な揮発性の有機化合物の 総称である。本研究では,自動車排ガスや一般環境中のベンゼンやトルエンに含まれる炭素や水素安定同位体比の分析法を確立し,それら 成分の環境動態を調査 しています。特に光化学反応によって,ベンゼンやトルエンは反応し,消失していきますが,その際の同位体比の変化についても調査して います。