秋田県立大学 生物資源科学部
生物資源環境科 環境社会学研究室
研究室について
環境社会学研究室の考え方 ▲
【農・食・環境をめぐる幅広い問題を研究する】
社会学は「心を持った人間の意識、行動、関係、ルールや仕組みなどを研究する学問」です。自然科学は物や人間以外の生き物を研究対象にするのに対して、人文学や社会科学は人間を研究対象にします。社会科学の中でも社会学は「人間の意識や行動一般」を対象とするので、幅広い社会現象を研究できるメリットがあります。
そんな社会学の利点を生かして、私はこれまで農、食、環境を中心に幅広い問題を研究してきました。このホームページを見ていただけると、私がどんなことを考え、研究し、発信してきたかをわかっていただけると思います。
【自分から始まる学問】
「勉強する」とか「研究する」というと、すでにできあがった知識の体系(○○学)を学ぶことだと思う人が多いかもしれません。そういう目から見ると、勉強や研究はどこかにある教科書を読むことから始まるのでしょう。
しかし、「自分から始まる学問」という考え方もあるのです。「自分から始まる学問」とは、毎日生きていくなかから生まれてきた自分なりの疑問や問題を大切にし、その疑問や問題を考えるために、既存の知識を学ぶということです。自分の疑問や問題を考えることが目的で、既存の知識を学ぶことが手段になります。「教科書から始まる勉強」は既存の知識を学ぶことが目的で、自分の疑問や問題は関係ないので、目的と手段が逆になります。
「自分から始まる学問」を続けていくと、知識が増え視野が広がると同時に、自分の考えが深くなります。学んだ知識はただ記憶しているだけの「死んだ知識」ではなく、必要な時に取り出して自分で使える「生きた知識」になります。そんな学び方を身につければ、「自学自成」(自分で学び、自分に成る)という生涯の学びのスタイルになると思います。「自学自成」は私が作った言葉ですが、私自身の目標でもあります。
【地域の人々と地域の問題解決に取り組む】
環境社会学研究室のもうひとつの大きな特徴は、地域の人々と一緒に地域の問題解決に取り組むということです。私は1996年に、30人ほどの仲間と一緒に、全国に先がけて「地産地消を進める会」という市民団体を結成しました(現在はNPO法人)。「地産地消」という言葉を団体名に使ったのは私たちの会が全国で初めてでした。
それ以外にも、八郎湖の環境再生と地域再生を進めるために、大潟村の農家と一緒に「大潟村 環境創造21」という団体を作ったり、NPO法人はちろうプロジェクトを作ったり、秋田で有機農業を広めるために、有機農家や消費者と一緒に「オーガニックフェスタinあきた」を開催したり、男鹿半島の地域起こしを進めるためにNPO法人秋田地域資源ネットワークを作ったりしてきました。
現在私は秋田県内の3つのNPO法人と県外の1つのNPO法人の理事を務めています。こうした実践活動を通じて、問題解決に役立つ研究を行ったり、研究成果を実践に役立てたりしています。
【対話型授業やゼミ】
私が学んだ上智大学は外国人の先生が多く、対話型(interactive)な授業やゼミがごく普通に行われていました。私自身も対話型の講義スタイルが染みついていますので、たとえば講義でも学生にどんどん質問をしてその答えを取り入れながら話を進めたり、学生と議論をしてそこから予想もしないアイディアが生まれるのを期待するという、セレンディピティ(serendipity)のようなゼミをしたりしています。
また、対話型コミュニケーションに興味を持つ学生が出てきた時には、そのための基礎技能を伝える自主ゼミ「セレン」を実施してきました。「セレン」とはもちろん「セレンディピティ」の略語です。これまで3回やってきました。その概要はこのホームページでも紹介しています。
【大量生産大量消費社会から持続可能な社会への転換】
私が最も力を入れて考えているのは、20世紀に世界を席巻した「大量生産・大量消費社会」(mass-production and mass-consumption society)の進行に歯止めをかけて、「持続可能な社会」(sustainable society)への転換の道筋をつけることです。
ところで持続可能な社会とはどんな社会でしょうか。これについてはさまざまな見解があると思いますが、私の立場は次のような議論の延長上にあります。すなわちメドウズらの「成長の限界」から始まり、槌田敦の「開放定常系としての地球」、室田武の「水土の経済学」、玉野井芳郎の「生命系の経済学」、エキンズらの「リビングエコノミー」、鶴見和子の「内発的発展論」、多辺田政弘の「コモンズの経済学」、最近では広井良典の「定常型社会」やラトゥーシュの「脱成長」などです。
こうした先人に学びながら、私は持続可能な社会の原則について考えてきたが、それはおよそ次のような原則で運営される社会だと考えています。
1.社会の仕組みや人間の行動の良否はまずそれが長期間(3世代くらい)続けられるかどうかで判断される。
2.地域の環境容量を超える物質やエネルギー消費をしない。環境容量の限度内で暮らす。
3.地域の物質循環・生命循環に基づいて暮らす。
4.人と物の移動は最小限に。しかし情報の移動は制限しない。
5.貨幣経済の比重が低く、互酬経済の比重が高い。
6.心やたましいのつながりを尊ぶ。
こうした原則を実現するのは都市部よりは農山漁村の方がはるかに容易です。だから私は持続可能な社会の中心は農山漁村になると信じています。
少しでも環境意識を持った人ならこうした原則に賛同してくれるでしょう。しかし、これを現実に適用しようとすればとてつもない困難にぶつかります。なぜならグローバルレベルや国家レベルの政策決定は相変わらず経済成長とグローバル経済化などの固定観念にどっぷり漬かっているからです。あれほど悲惨な被害をもたらした原発災害が起こったにも拘わらず、安倍政権がこれからも原発を推進しようとしていることや、地球温暖化対策にまったく関心を持っていないように見えることも、このギャップを示す例と言えます。
いずれこの未来社会のビジョンをめぐって大きな社会的・政治的論争が生じるでしょう。それが生産的な議論になるように、私たち研究者も未来のビジョン構築に積極的に参加しなければならないと思います。
主な研究・実践テーマとキーワード ▲
(1)持続可能な地域づくり | |
![]() | キーワード:成長の限界、持続可能性、脱成長、ローカリゼーション、男鹿半島、農山漁村、ジオパーク、生業、自給的暮らしなど |
(2)地産地消と有機農業 | |
![]() | キーワード:地場生産地場消費、有機農業、自然農法、オーガニックフェスタ、食の安全・安心、生産者と消費者の交流、産直、田んぼの生きもの調査など |
(3)住民主体の八郎湖再生 | |
![]() |
キーワード:環境学習、住民活動、植生再生、水田濁水の削減、潟の食文化の復活、八郎太郎伝説、アニミズム、環境NPOなど |
(4)再生可能エネルギーを生かした地域づくり | |
![]() | キーワード:脱原発、風力、太陽光、太陽熱、地熱、小水力、バイオマス、薪、FIT(固定価格買い取り制度)、市民出資、エネルギーの地域自主管理など |
卒業生の研究テーマについて(卒業論文・修士論文タイトル) ▲
年度 | 研究テーマ(タイトル) |
2016年 | 農村女性起業における生活と仕事を両立させる働き方−農家レストラン「じまんこ亭」さくら会を事例として− |
八郎湖流域における環境学習の実態と課題−八郎湖再生活動の担い手育成の視点から− | |
2015年 | 秋田県における贈与経済の実態と可能性 |
自然に対する人間の感性は人生を通してどう変化するのか | |
2014年 | 再生可能エネルギー発電事業における市民出資の意義と課題 |
秋田の地魚の地産地消を進めるための課題 | |
2013年 | 食に関する自給的生活技術の継承と復活−秋田県横手市の事例をもとに− |
2012年 | 子育てから始まる地域づくり−「子育てカフェ・にこリーフ」(男鹿市)を事例として− |
持続可能な地域社会を成り立たせる新しいビジネスの可能性について | |
2011年 | 有機農家と消費者の信頼形成の試み−「オーガニックフェスタinあきた」を事例として− |
現代の若者世代におけるE.F.シューマッハーの環境思想の受容 | |
2010年 | 地域の担い手を育てる環境学習が子どもに与える影響−秋田県潟上市の事例をもとに− |
2009年 | 自立と共生にもとづく生産者と消費者の関係づくり |
学校ビオトープが子どもの意識に与える影響−潟上市内の小学校の取り組みを事例として− | |
2008年 | 八郎湖流域におけるヨシ利用復活の可能性に関する研究 |
2007年 | 場所性の回復と環境学習−環八郎湖再生事業の事例から− |
八郎湖旧湖岸部の管理と利用に関する基礎的研究 | |
2005年 | 八郎湖の植生再生事業に参加した小学生の八郎湖と周辺環境に対する意識の変化 |
八郎湖流域における下水道の普及が流入河川の水質に与える影響 | |
2004年 | 秋田県における農地に対する堆肥利用の可能性と制限要因−窒素フロー、亜鉛フロー及び流通事例の分析を基に− |
住民参画を目指した有用植物の植栽組み合わせモデルの開発〜二ツ井町における合併浄化槽−BGF水路浄化システムの事例〜 | |
2003年 | 市町村単位のフロー解析による有機性廃棄物リサイクルの評価−秋田県十文字町を例に− |
十文字町における生ゴミリサイクルシステムの形成過程−協働の場の展開とキーパーソンの役割− | |
2002年 | 堆肥化による有機性廃棄物の循環利用に対する人々の意識 |