これまでの研究成果


秋田県立大学は平成11年に開学されましたが、これまでの研究報文の要旨を紹介します。全文はPDFファイルとしてリンクされていますので興味のある方がご覧ください。

1、新規な低温発酵用酵素剤「グルク吟」による高級酒製造
岩野君夫、天野仁、醸協、96(11)、789-795(2001)
低温発酵において並行複発酵を健全に進める酵素活性バランスを明らかにし、さらに酵母が生成した香気成分が酒粕に吸着されることを防ぐ機能を有する酵素を明らかにして、高級酒製造に適した酵素剤「グルク吟」を開発し、十数社の酒造メーカーで実証試験を行った。

2、清酒麹の酵素活性に及ぼす原料米タンパク質組成の影響
岩野君夫、中沢伸重、伊藤俊彦、高橋仁、上原泰樹、松永隆司、醸協誌、96(12)、857-862(2001)
これまで酒造好適米は粗タンパク質含量が少ない方が良いとされてきた。我々は山田錦、美山錦、美郷錦、春陽の4種類のタンパク質組成を調べたところ、グルテリン、グロブリン、プロラミンなど品種により大きな違いが認められた。次に麹を造りし、麹の酵素活性や麹菌代謝生産物とタンパク質組成との相関分析を行ったところ、品種間のタンパク質組成の違いが大きく酵素活性やアミノ酸及びアミノ酸関連化合物に大きく影響することを明らかにした。

3、並行複発酵及び製成酒成分に及ぼす原料米タンパク質組成の影響
岩野君夫、中沢伸重、伊藤俊彦、高橋仁、上原泰樹、松永隆司、醸協誌、97(7)、522-528(2002)
山田錦、美山錦、美郷錦、春陽の4種類で製麹した麹と同じ酒造米を掛米を用いて小仕込試験を行い、溶解・糖化・発酵の並行複発酵の違い、生成酒成分の違いを調べた。その結果酒造米のタンパク質組成の違いが大きく影響することを明らかにした。

4、麹における黄麹菌の増殖量と代謝生産物量との関係
岩野君夫、中沢伸重、伊藤俊彦、醸協誌、97(12)、865-871(2002)
応用生物科学専門実験で40人の学生がそれぞれ同じ種麹菌と同じ原料米で造った麹について菌体量、酵素活性、アミノ酸などを分析して、データを統計学的に解析し、麹菌の増殖量と麹菌の酵素生産や代謝生産物量との関係を調べた。

5、製麹における原料米の品種と精米歩合の影響
岩野君夫、伊藤俊彦、長谷川恵美子、高橋和宏、高橋仁、中沢伸重、醸協誌、99(1)、55-63(2004)
製麹において麹菌の増殖、酵素生産、代謝生産物に及ぼす品種と精米歩合の影響を調べるため2要因4水準の実験計画違法に基づいて製麹を行い、2元配置の分散分析法で解析した。デンプン分解酵素は精米歩合の影響が大きく、高精白になるほど活性が低くなった。タンパク質分解酵素は精米歩合の影響は小さく品種の影響が大きかった。

6、吟醸酒、純米酒、本醸造酒及び普通酒のアミノ酸組成の特性
岩野君夫、伊藤俊彦、中沢伸重、醸協誌、99(7)、526-533(2004)
吟醸酒、純米酒、本醸造酒及普通酒のアミノ酸組成を調べ、平均値の差の検定を行ったところ、全アミノ酸含有量と組成に大きな違いが認められた。アミノ酸の呈味性でみると吟醸酒は甘味アミノ酸と酸味アミノ酸が多く苦味アミノ酸が少ないことが分かった。変数選択型判別分析を行った結果、グルタミン、プロりン、リジン、グルタミン酸、アラニン、ヒスチジンの6個のアミノ酸を変数とする判別式が得られ、吟醸酒、純米酒、本醸造酒、普通酒を高精度で判別できることが分かった。

7、清酒の呈味性に影響を及ぼすアミノ酸の探索
岩野君夫、高橋和弘、伊藤俊彦、中沢伸重、醸協、99(9)、659-664(2004)
清酒に含まれる20種類のアミノ酸について、その含有量で呈味性が認められるかどうか調べた。純合成清酒をベースとして3点識別嗜好試験法で調べた結果、アラニン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸の4種類のアミノ酸が呈味性を示すアミノ酸として選ばれた。アラニンは甘味・旨味を示すアミノ酸として良く評価された。アルギニンは苦味を示すアミノ酸、グルタミン酸とアスパラギン酸は酸味・渋味を示すアミノ酸として悪く評価された。

8、麹抽出液培養における清酒酵母の選択的アミノ酸取り込み
岩野君夫、幡宮顕仁、中村拓郎、渡辺誠衛、伊藤俊彦、中沢伸重、醸協、99(10)、735-741(2004)
酒母における酵母の増殖を想定して、麹抽出液培地を用いて酵母の増殖におけるアミノ取込み量を調べたところ、取込み量の多いグループAにはグルタミン、リジン、スレオニン、メチオニン、アスパラギン酸、アルギニン、ロイシン、アスパラギンが、取込み量が中程度のグループBにはセリン、トリプトファン、フェニルアラニン、グルタミン酸、イソロイシン、ヒスチジン、システイン、バリン、チロシンが、取込みせずに逆に放出するグループCにはGABA,アラニン、プロリン、グリシンが分類された。

9、清酒酵母の増殖における選択的アミノ酸取込みに及ぼす醸造要因
岩野君夫、伊藤俊彦、幡宮顕仁、中村拓郎、渡辺誠衛、中沢伸重、醸協、99(11)、801-808(2004)
清酒醸造の特徴である並行複発酵及び低温発酵が清酒酵母の増殖における選択的なアミノ酸資化に大きく関わっていることを明らかにした。並行複発酵による連続的なグルコースの供給はグルコース濃度を低濃度に維持し酵母増殖におけるアミノ酸資化量を増大させる役割を担っている。低温発酵もアミノ酸資化量を増大させる役割も担っている。

10、吟醸酒の官能評価と化学成分との相関分析
岩野君夫、伊藤俊彦、中沢伸重、醸協、100(9)、639-649(2005)
鑑評会の審査酒76点について57項目の化学成分を分析し、総合評価及び特性・指摘項目のチェック数と化学成分との相関分析を行った。総合評価を目的変数とし、57項目の化学成分を説明変数として変数増減選択型の重回帰分析を行った結果、カプロン酸エチル、プロリン、バリン、RT17.6、ハイドロキシリジン、カルノシン、RT21.5,タウリン、ホスホセリン、ピルビン酸の10個の説明変数が選択され、重相関係数が0.9028、寄与率が81.5%と予測制度の高い重回帰式が得られた。

11、Efficient Selection of Hybrids by Protoplast Fusion Using Drug Resistance Markers and Reporter Genes in Saccharomyces cerevisiae
Nobushige NAKAZAWA and Kimio IWANO
Journal of Bioscience and Bioengineering, Vol.98(5),353-358(2004)
細胞融合法による酵母の育種においては融合株を効率的に取得する方法を検討し、薬剤耐性マーカー遺伝子とリポーター遺伝子を組み合わせた方法を開発した。薬剤耐性マーカー遺伝子としてはジェネテシン耐性遺伝子Tn601(903)とオーレオバシヂン耐性遺伝子AUR1-Cを、リポーター遺伝子としてADH1p−PHO5-ADH1t とCLN2p−CYC1-lacZ を使用した。