しばらく前のことになりますが、天の戸の杜氏である森谷さんが急逝されました。
森谷さんには、酒造り米作りのことを何度か伺い、論文に取りあげさせていただきました。数回しかお会いしたことはありませんが、いつも「このようなことに挑戦している」、「こういう酒を造ってみたんだ」というようなお話しをされていて、大変探求熱心な方だと思いました。
それだけでなく、森谷さんは農家に生まれ、コメの生産者であることを強く意識している方でした。杜氏さんは農家でもあることが多いので、そのような人は多いのかもしれませんが、森谷さんは酒造りの技術者であることと農業者であることに根ざした独自の哲学をお持ちであったように思います。そのようなアイデンティティーを、どのように生き方に反映するかということを追求されていたような印象を受けました。
山内杜氏組合が100周年か何かだということで、記念誌を作ろうとされていましたが、農家の次三男がつらい奉公に出される形で成り立っていた技術者集団としての歴史に注目し、醸造技術史ではなく文化史のようなものにしたいとお話しされていました。
謹んでご冥福をお祈りいたします。
