現在の研究テーマと担当者

1)内分泌細胞の分泌顆粒形成の研究
2)蛍光コレステロールプローブの開発
3)低酸素病態検出プローブ:イリジウム錯体の開発
4)内分泌細胞の酸素応答


各研究テーマの概要
(詳細は各担当者の頁にあります)

1 )内分泌細胞でホルモンを含む分泌顆粒と神経伝達物質を含む神経様小胞が形成されるメカニズムを研究している。内分泌顆粒の形成では、顆粒膜が他のオルガネラ膜よりも高いコレステロール組成をもつこと、この高コレステロールドメインにセクレトグラニンIII、カルボキシペプチダーゼ E、ホルモン前駆体活性化酵素PC1/3、PC2が結合することから、我々はトランスゴルジネットワーク膜に高コレステロールドメインが形成され、そこに コレステロール結合顆粒局在タンパク質が集まり、主にセクレトグラニンIIIを介してホルモン等が集積すると考えている( 図1 )。[Mol. Biol. Cell 13: 3388, 2002; J Biol Chem 279:3627, 2004; J Cell Sci 118:4785, 2005; Traffic 6:1213, 2005; Curr Diabetes Rev 4:31, 2008 (review); Mol Endocrinol 22:1935, 2008; Endocr J. 57:275, 2010 (Review;Free PDF); Endocrinology 151, 4705-4716, 2010; Traffic 14, 205-218, 2013; J Histocem Cytochem 63, 350-356, 2015Endocrinology 159, 1213-1227, 2018J. Histochem. Cytochem. 69, 229-243]更に詳しく:穂坂教授の頁
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図1. 高コレステロールドメインを基盤とする分泌顆粒の形成機序
(1) 高コレステロールドメインにセクレトグラニンⅢ(SgIII)、カルボキシペプチダーゼE(CPE)が結合する。
(2) ホルモンを結合したクロモグラニンA(CgA)がセクレトグラニンⅢに結合する。
(3) プロセシング酵素(PC1/3, PC2)によってホルモン前駆体が活性型に切断される。
(4) CgAと活性型ホルモンは顆粒内で再凝集し、顆粒膜上から顆粒内腔に移行して分泌に備える。


2)&3)群馬大学と連携して、細胞内コレステロール輸送を可視化するプローブ、低酸素環境で発光するプ ローブを開発している。コレステロール可視化プローブとしては、コレステロール分子の側鎖にピレン基、ペリレン基、ダンシル基を付加し、適宜ケイ素 Siを導入して蛍光を強めている。ピレン基、ダンシル基は抗体でも検出可能なので固定組織、細胞でも細胞内コレステロール分布を調べることができる。( 図2上;BBA Mol/Cell Biol Lipids 176:1639, 2006; Endocrinology 151, 4705-4716, 2010)更に詳しく:穂坂教授の頁
生体の低酸素環境で発光するプローブとしては、有機EL素材イリジウム錯体を利用している。イリジウム錯体はリン 光を発し、リン光は酸素消光(Oxygen quenching)を示すので、常酸素圧では発光せず、低酸素圧で発光を観察できる。我々はヌードマウス移植がん組織でイリジウム錯体が発光するメカニ ズムを研究して( 図2下)、イリジウム錯体を用いた低酸素病態イメージング技術の実用化を目指している。(Cancer Res. 70:4490, 2010Angew Chem Int Ed Engl. 51, 4148-4151, 2012Journal of Photochemistry and Photobiology C: Photochemistry Reviews. 30, 71-95, 2017)更に詳しく:穂坂教授の頁
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図2. イメージングの具体例
(A) 既存コレステロールプローブ(dehydroergosterol)と開発中の
pyrene-Si--choleterolプローブ(50μM)による内分泌細胞(分泌顆粒)のイメージング。
(B) pyrene-Si--choleterolプローブ(50μM)で培養した細胞をpyreneとinsulin抗体で免疫蛍光染色した。
(C) イリジウム錯体(BTP)による腫瘍(低酸素病態)イメージング。

4 )穂坂は、これまで一貫して、『ペプチドホルモンを活性化するプロセッシング酵素の発見』、『分泌顆粒へのホルモン選別輸送機構および分泌顆粒形成機構の解明』など内分泌系の生体情報制御システムに関して、分子生物学、生化学的手法を駆使して研究してきた。さらに、最近、内分泌に関する研究と並行して、2) 蛍光コレステロールプローブ、3)「がん・脳梗塞・心筋梗塞などの低酸素病態」をイメージングするプローブ、の開発・実用化の研究も進めている。本研究課題『内分泌細胞の酸素応答』は、この二つの方向性の研究成果を組み合わせることにより、内分泌機能調節系固有の酸素ストレス応答の分子機構について、細胞から個体レベルまで広範囲にわたる新たな知見を加えることを期待している。(Biochemical Journal 476, 827-842, 2019更に詳しく:穂坂教授の頁