本学卒業生が行った研究が国際学術雑誌「Environmental Science & Technology」に掲載されました

 本学大学を卒業した吉田乙羽さん(現:公益財団法人環境科学技術研究所),本学大学院を修了した須藤菜那さん(現:一般 財団法人日本自動車研究所)との研究グループによる「Long-Term Source Apportionment of Ammonium in PM2.5 at a Suburban and a Rural Site Using Stable Nitrogen Isotopes(窒素安定同位体比を用いた郊外,地方のPM2.5のアンモニウムイオンの長期間の発生源解析)」という研究が,国際学術雑誌 「Environmental Science & Technology」に令和5年1月24日付でオンライン掲載されました。また,学会の表紙であるサプリメントカバーにも選ばれました。

雑誌名:Environmental Science & Technology
論文タイトル:Long-Term Source Apportionment of Ammonium in PM2.5 at a Suburban and a Rural Site Using Stable Nitrogen Isotopes
著者:Hiroto Kawashima, Otoha Yoshida, Nana Suto
Webサイト:https://doi.org/10.1021/acs.est.2c06311

 アンモニアは,大気中の有害物質の一つであり,PM2.5などの微小粒子状物質の形成に大きくかかわっています。本研究では,秋田県由 利本荘市と茨城県つくば市において,2年半に渡ってPM2.5に含まれるアンモニウムイオンの窒素安定同位体比を分析し,アンモニウムイ オンの発生源解析を行いました。これほど長い期間のデータは世界的にも初めてのことです。一般的に,アンモニアの発生源は,そのほとんど が農業由来(肥料や家畜の排泄物の揮発)だと考えられていますが,PM2.5に含まれるアンモニウムイオンは,7割以上が非農業由来(工 場からのアンモニアスリップ,自動車排ガスなど)だと推定されました。また,秋田県由利本荘市で過去に測定されたアンモニアガスの起源も 再解析したところ,発生源のほとんどは農業由来であったため,ガスと粒子では発生源が大きく異なり,アンモニアはPM2.5に取り込まれ ると,遠方より運ばれるということが初めて示されました。
 アンモニアは,今後,多くの大気汚染物質とは異なり,増加していくことが予測されています。また,現在,国内では火力発電所の石炭の中 にアンモニアを混焼するという技術開発が行われていますが,漏洩などによる課題もあるため,相当な注意が必要だと思われます。
 本研究では,アンモニアの窒素安定同位体比の測定法の課題解決や,粒子化のメカニズムの解明など,長期に渡って研究した内容がベースに なっています。菌を使った分析法等,色々と苦労もありましたが,論文になり,一同,ホッとしています。本研究の化学分析を行った吉田乙羽 さんは,卒業研究で行った研究内容で4 報目の国際学術雑誌への報告となります。
 本研究は,川島が研究代表者の環境研究総合推進費,科学研究費基盤研究(B)(海外学術調査),ニッセイ財団,平和中島財団,住友財 団,須藤さんが代表者の科学研究費若手研究Bにて実施されました。また,研究補助の藤嶋楽さん,津田裕也さん,須藤百香さん,加藤累さん なども脱窒菌(分析に必要な菌)の管理や化学分析をサポートしてくれました。ここに感謝申し上げます。