Go to: English page



1. Fe基ナノ結晶軟磁性材料

 ナノ結晶軟磁性材料は、10 nm (10万分の1mm)程度の微細な結晶から成る軟磁性材料です。強磁性体の結晶粒径(D)を小さくしていくと、最初はDに反比例して保磁力が大きくなりますが、あるサイズ以下(α-Feの場合は約40 nm)以下になると、今度はD6に比例して保磁力が急激に小さくなります(図1)。 この現象は、ナノ結晶粒子間に働く交換相互作用のため結晶磁気異方性が平均化され、見かけ上小さくなるためであると考えられています。この効果を利用する と、α-Feの様な結晶磁気異方性の比較的大きな材料でも、優れた軟磁気特性(低保磁力、高透磁率、低鉄損など)が実現できます。



図1 結晶粒径(D)と保磁力(Hc)の関係

 本研究室では、ナノ結晶Fe-M-B (M = Zr, Hf, Nb)合金の研究を進めています。本材料は、アモルファス相の結晶化を利用して作製します。まず液体急冷法(図2)により融けた金属を105–106 K/sの極めて速い速度で冷却し、アモルファス合金(図3)を作製します。次にそれを熱処理することにより部分的に結晶化させ、粒径10 nm程度のα-Feのナノ結晶が強磁性アモルファス相中に高密度に分散した組織(図4)を実現します。本材料は、従来の大きな結晶から成る材料では実現不 可能であった高い飽和磁束密度と優れた軟磁気特性を両立しており(図5)、電源用トランスなどへの応用が期待されています。



図2 液体急冷法でアモルファス合金を作製している様子
(写真をクリックするとムービーがご覧いただけます。ムービーの再生には、Windows Media Player が必要です。)


図3 アモルファスとナノ結晶の微細構造の模式図


図4 ナノ結晶Fe-Nb-B合金の透過電子顕微鏡(TEM)写真


図5 飽和磁束密度(Bs)と透磁率(μ)の関係

関連論文
  1. 尾藤輝夫, 牧野彰宏, 井上明久, 増本健, “ナノ結晶Fe-Nb-B(-P-Cu)合金の微細構造と軟磁気特性,” 日本応用磁気学会誌, vol. 28, no. 3, pp. 388–392 (2004).
  2. T. Bitoh, A. Makino, A. Inoue and T. Masumoto, “Random Anisotropy Model for Nanocrystalline Soft Magnetic Alloys with Grain-Size Distribution,” Materials Transactions, vol. 44, no. 10, pp. 2011–2019 (2003).



2. Fe-白金属系ナノ結晶硬磁性材料

 Fe-Pt, Co-Pt, Fe-PdなどのL10型の結晶構造(図6) を持つ規則合金は、極めて大きな結晶磁気異方性を持ち、なおかつ耐食性に優れているため、生体用永久磁石などへの応用が期待されています。しかし、優れた 永久磁石実現するためには結晶粒径を微細化して保磁力を高める必要がありますが、従来の鋳造法などでは結晶粒が粗大となるため、大きな保磁力を得ることは 困難でした。そこで本研究室では、液体急冷法(図2)による超急冷を利用して、Fe-Pt系合金をナノ結晶化させる研究を行っています。Fe-Pt合金にZrなどの遷移金属とBを複合添加し、液体急冷法により超冷却することにより、粒径100 nm程度の微細なL10-FePtのナノ結晶組織を実現しました(図7)。これにより、従来の鋳造材の2倍の高い保磁力を得ることに成功いたしました(図8)。


図6 L10型規則合金の結晶構造


図7 ナノ結晶Fe-Pt-Zr-B合金の透過電子顕微鏡(TEM)写真



図8 ナノ結晶Fe-Pt-Zr-B合金の磁化曲線

関連論文
  1. T. Bitoh, M. Nakagawa and A. Makino, “Melting Temperature and Order-Disorder Transformation of Melt-Spun (Fe, Pt)-Zr-B Nanocrystalline Alloys,” Scripta Materialia, vol. 53, no. 4, pp. 429–434 (2005).
  2. T. Bitoh, A. Makino and M. Nakagawa, “Microstructure and Hard Magnetic Properties of Directly Synthesized L10 (Fe1–xPtx)78Zr4B18 Nanocrystalline Alloys by Melt-Spinning,” Journal of Applied Physics, vol. 97, no. 10, 10H307 (2005) (3 pages).



3. Fe基金属ガラス


 アモルファス合金を作製するには、一般には105–106 K/sの超急冷が必要であり、そのため大きなアモルファス合金を作製するのは非常に困難でした。しかし近年、アモルファス形成能が極めて大きく、mm–cmオーダーの大きな試料が作製可能な“金属ガラス”が発見されました(図9)。


図9 鋳造法で作製したFe基金属ガラスバルク試料
 
 Fe基、またはCo基のアモルファス合金は優れた軟磁気特性(高透磁率、低保磁力、低鉄損など)を示し、現在では実用材料として広く使用されています。良く知られているよう
に、アモルファス合金が優れた軟磁性 を示すのは周期的な結晶構造を持たない、すなわち原子配列が無秩序で結晶のような方向性を持たないためです(図3左)。この特徴は金属ガラスにも当てはま るため、金属ガラスの軟磁気特性は従来のアモルファス合金と何ら変わる所は無いように思えます。しかし本当にそうでしょうか?
  本研究室では、この疑問に答えるために、Fe基金属ガラスの軟磁気特性を詳細に研究しています。その結果、金属ガラスは従来のアモルファスよりも原子が 密に詰まっているために構造の揺らぎが小さく、そのため従来のアモルファス合金よりも保磁力が小さく(図10)、低鉄損材料として非常に優れたポテンシャ ルを秘めていることを明らかにしました。金属ガラスはモーターなどへの応用も期待されており、新しい高性能軟磁性材料として、今後益々発展していくことが 期待されます。




図10 Fe基金属ガラスと従来のアモルファス合金の密度(ρ)と保磁力(Hc)の比較

関連論文
  1. T. Bitoh, A. Makino and A. Inoue, “Origin of Low Coercivity of (Fe0.75B0.15Si0.10)100–xNbx (x = 1–4) Glassy Alloys,” Journal of Applied Physics, vol. 99, no. 8, 08F102 (2006) (3 pages).
  2. T. Bitoh, A. Makino and A. Inoue, “Magnetization Process and Coercivity of Fe-(Al, Ga)-(P, C, B, Si) Soft Magnetic Glassy Alloys,” Materials Transactions, vol. 45, no. 4, pp. 1219–1227 (2004).
  3. T. Bitoh, A. Makino and A. Inoue, “Origin of Low Coercivity of Fe-(Al, Ga)-(P, C, B, Si, Ge) Bulk Glassy Alloys,” Materials Transactions, vol. 44, no. 10, pp. 2020–2024 (2003).


 上記の様に、Fe-(Co, Ni)基金属ガラスは優れた軟磁気特性を示します。しかし軟磁性金属ガラスのガラス形成能はあまり大きくなく、大きな試料を作ることは困難でした。ガラス 化の際に問題となるのは、融解した金属液体中に含まれる酸化物等の高融点介在物が結晶相の不均質核生成サイトとして働き、結晶化してしまうことです。この 様な高融点介在物を取り除く手法の一つとして、フラックス法があります。これは、金属を低融点酸化物などのフラックスと一緒に融解し、介在物をフラックス 中に追い出してしまう方法です。我々は最近、 [(Fe0.5Co0.5)0.75B0.20Si0.05]96Nb4合金をB2O3と一緒に融解し、それを水中に投入して急冷することにより、直径7.7 mmの大型金属ガラス試料を作製することに成功いたしました(図11)。この試料の直径は鋳造法で作製された最大の試料の約1.5倍あり、現時点では世界最大の軟磁性金属ガラス試料です。




図11 フラックス法で作製した軟磁性金属ガラスバルク試料

関連論文
  1. T. Bitoh, A. Makino, A. Inoue and A. L. Greer, “Large Bulk Soft Magnetic [(Fe0.5Co0.5)0.75B0.20Si0.05]96Nb4 Glassy Alloy Prepared by B2O3 Flux Melting and Water Quenching,” Applied Physics Letters, vol. 88, no. 18, 182510 (2006) (3 pages).
  2. T. Bitoh, A. Makino, A. Inoue and A. L. Greer, “Formation of Large Bulk [(Fe0.5Co0.5)0.75B0.20Si0.05]96Nb4 Glassy Alloy by Flux Melting and Water Quenching,” Materials Research Society Symposium Proceedings, eds. E. Ma, S. Schuh, Y. Li and M. K. Miller (Boston, Materials Research Society, 2006) vol. 903E, Z05–18 (6 pages).



Go to:
  Top page
  材料構造工学講座のホームページ

  機械工学科運営ページ
2019年3月28日更新