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当研究グループについて

モーション・コントロール・システム研究室(改組に伴い,自動制御系研究室から改称)では主に,制御系設計とメカトロニクス制御に関する研究をおこなっています.研究室名称から応用研究主体の印象を受けるかも知れませんが,当研究室では,基礎研究・応用研究・開発研究を区別をすることなく,限られたリソースの中で,制御に関する内容に広く興味を持って取り組んでいます.と言うのも,研究は必ずしも基礎研究→応用研究→開発研究のように,一方向に進むものでも,このように明快に分類できるものでもないと考えるからです.

そのため,実際に制御工学を応用して機械などを動かしてみたいと思っている学生はもちろんのこと,応用よりもむしろ理論的な側面に興味を持っている学生も歓迎します.多様な興味を持つ人が集まればと思っています.

人工知能による自動化が進む現在,フィードバック制御の重要性はますます増しています.たとえば車の自動運転を実現する人工知能を制御工学の観点から眺めると,フィードバック・コントローラの役割を果たしています.制御工学の知見なくして人工知能による自動化には限界があるでしょう.

制御工学を基軸にして,新しい学術を一緒に開拓しましょう.

研究紹介

フィードバック制御系の設計

モデル予測制御(Model Predictive Control;MPC)

モデル予測制御(MPC)は,プロセス制御分野から生まれ発展してきた高度なモデル・ベースト制御手法です.その特長としては,下記の点が挙げられます:

  • 制御入力(操作量)や制御量に関する制約を明示的に考慮して制御できる.
  • 根本的な考え方が理解しやすい.
  • 多入力多出力系にも容易に適用できる.
  • PID制御よりも強力である.特に,制御対象がむだ時間を含む場合,PID制御よりも取り扱いが容易である.
  • アクチュエータや装置の限界点付近で運転できるため,高い収益性が期待できる.
MPCの制御入力は一般に,オンラインまたはオフラインによる最適化計算を経て算出されるため,残念ながらMPCの補償器を具体的な伝達関数表現や状態空間表現であらわすことができません.また,詳細を理解するためには最適化理論の知識もある程度必要になります.さらに,MPCの理論は高度な数学を取り込んで日々進歩しているため,ますます難易度が高まっています.そのため,MPCによる制御プログラムを自分で構築して実際に使えるようになるまでは,PID制御のプログラムを組むことに比べてはるかに多くの労力が必要です(MATLABのMPC Toolboxなど,既成のプログラムを利用すると自分でプログラムを組まなくても使えますが).しかしその効果は絶大で,労力に見合うだけの高度な制御を実現することができます.当研究グループでは,MPCをメカトロニクス制御で効果的に用いる観点から研究をおこなっています.

Predictive Functional Control(PFC)

Predictive Functional Control(PFC)は通常,このままの名称で呼ばれますが,『予測関数制御』と日本語訳が与えられている文献もあります.当初は我々も『予測機能制御』と呼んでいましたが,しっくりとこないため,現在では英語のまま表記しています.PFCも上で述べたモデル予測制御(MPC)の一種であるため,基本的にはMPCと同じ特長を持っていますが,PFC独特の特長としては以下の点が挙げられます:

  • 主に一入力一出力系を対象としている.ただし,多入力多出力系への拡張もできる.
  • 制御入力を主に多項式基底関数で表現しているため,最適制御入力計算に要する計算負荷が少ない.
  • 一般的なMPCほど系統的ではないが,簡単な方法で制御入力に関する制約を考慮して制御できる.
  • たった一つの可調整パラメータ(『閉ループ応答時間』)を上下させるだけで補償器のチューニングができる.
PFCに関しては,解説記で概要を述べていますので参照してもらえればと思います.解説記事では強調することを忘れてしまいましたが,積分要素を含む制御対象にPFCを適用する場合,制御対象入力側にステップ状外乱が加わらなければ,一定目標値にオフセットなく追従します.しかし,制御対象入力側にステップ状外乱が加わるときには,この外乱を打ち消すことができずにオフセットが生じてしまいます.制御対象に積分要素が含まれない場合,この問題は生じませんが,メカトロニクスにおける制御対象には積分要素が含まれることが多いため注意が必要です.当研究グループでは,一般的なMPCと平行して,メカトロニクス制御への適用を念頭に,PFCに基づく研究をおこなっています.

メカトロニクス制御

テーブル駆動系の制御

テーブル<!--
			-->駆動系

工場で搬送用途などに使用される,ボールネジを用いた位置決め装置です.1軸サーボ系とも呼ばれます.単体で用いられるばかりではなく,複数個を組み合わせて2次元的あるいは3次元的な動作を生み出すことも可能です.メカニズムはシンプルですが,ガイド部とスライダとの間に発生する摩擦力の影響が大きいため,意外と制御が難しい対象です.PID制御などの単純なフィードバック制御のみでは大きな追従誤差が発生してしまいます.現在は主にPFCで制御しているのですが,この装置は積分要素を含むため,前述のように,位置制御をしても外乱を除去できずにオフセットが生じてしまいます.そこで,外乱オブザーバを速度フィードバック・ループ内に用いることで,オフセットなく目標値に追従させています.また,最近は,外乱オブザーバを用いたPFCに,零位相誤差追従コントローラ(Zero Phase Error Tracking Controller; ZPETC)を用いた予見フィードフォワード補償を適用することにより,更なる追従性能の改善を図っています.この装置は長い間,学生・院生の研究用実験装置として活躍しています.

リンク・マニピュレータの制御

リンク・<!--
         	-->マニピュレータ

多入力多出力系のサーボ系用制御対象が必要となりリンク・マニピュレータを製作しました.最初に製作したのは2リンク・マニピュレータでしたが,やや大きすぎて使いにくいため,最近,写真の3リンク・マニピュレータを作りました.と言っても,元々はある院生が研究のために組み始めたものだったのですが,途中で飽きてしまって,組み立てずにそのまま放っぽりだして卒業してしまったため,私が暇を見つけては少しずつ組み立て,コンピュータとのインターフェース部も含めて,ようやく完成させたものです.エンコーダがライン・ドライバ出力なのに,カウンタ・ボードがライン・ドライバ入力に非対応だったため(オープン・コレクタ入力のみ),ラインレシーバ・モジュールを使って変換する必要があり,知識が足りなくて苦労しました.一見,ダイレクト・ドライブ・マニピュレータのように見えますが,減速機(ハーモニック・ドライブ)が使われています.今から考えると,ダイレクト・ドライブにしておいた方が,強い非線形項の影響を考慮した実験に使えるので良かったかも知れません.2リンク・マニピュレータは,数年前より学生・院生の研究用実験装置として活躍しており,MPCと外乱オブザーバを組み合わせて位置制御しています.3リンク・マニピュレータの方はまだモデリングの段階で,研究に活用するのはこれからです.2リンク・マニピュレータと同様に,MPCをベースにした制御手法を適用する予定でいます.先端に力センサを取り付けられるような仕組みになっているので,位置制御ばかりではなく,力制御の研究にも使えればと考えています.

マルチロータ・クラフト機(マルチコプタ)の制御

マルチロ<!--
         	-->ータ・クラフト機

学内でマルチコプタ(いわゆるドローン)に関係する研究は見受けられるものの,まともに制御している研究がなかったため(あるのは人が操縦するものか,基礎を無視した非現実的なシミュレーションだけ),最近,学生と一緒に始めました.目指しているのは『数学モデルに基づく自動制御』の実現です.混同しやすいのですが『自動操縦』とは違います.自動操縦は,人間が行うプロポの操作をただコンピュータに置き換えただけで,マルチコプタへ速度指令を与えて飛ばしていることには変わりありません.GPSが使える屋外ならば,GCSという種類のソフトを使ったり,プログラミング言語を用いて指令プログラムを組んだりすれば簡単に実現できるので,あまり面白くありませんし,研究にもなりません.一方,ここで言う自動制御とはそれとは異なり,正しく位置制御系を構成し,位置指令値を与えることで,3次元空間内で自動的にマルチコプタの位置決めをすることを指します.そのため,GPSが使えない環境でも位置を制御できます.これをおこなうためには,マルチコプタのダイナミクスを同定し,それに基づいて位置制御系を設計し,実装するという手順が必要になります.色々と考えるべきことがありますから,研究としては『自動制御』の方が単なる『自動操縦』より面白いのではないでしょうか.現在のマルチコプタでは,フライト・コントローラと呼ばれるハードウェアが搭載され,速度制御系が構成されていることが一般的なので,当研究グループでも,既存のフライト・コントローラが搭載された機体を用いることを前提にした,現実的な研究をおこなっています.最近,ある入力レンジで,写真のクアッドコプタのシステム同定をおこないました.各軸方向の並進運動の動特性を,むだ時間付きの2次遅れ系で良好に同定することができました.その結果,簡単な位置制御実験ができるまでになりました.下に,x方向とy方向に同時に位置目標値与えることで,円軌道を描くように飛行させたときの動画を示します.なお,入力レンジが変わると動特性も変わることに気づいたので,今後はもう少しレンジを刻みながら同定する予定です.また,屋内でマルチコプタの位置制御をおこなうため,モーション・キャプチャなどの大がかりな装置を使わずに,どのようにして位置の正確な計測をおこなうかも,今後の課題です.

倒立振子の制御

倒立振子<!--
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当研究グループで最初に製作した実験装置です.当時の4年生が卒業研究で製作しました.倒立振子は,その名の通り,逆立ちする振子です.振子を左右に水平移動させて倒立させるタイプと,振子(の回転軸部)を水平面内で回転させて倒立させるタイプがありますが,これは後者のタイプで,最初に作った日本人研究者の名前を取って"Furuta Pendulum"とも呼ばれます.アクチェータは水平部分を回転させるモータ1個しかありません.一方,制御されるのは水平部分の回転角度と振子の回転角度の二つなので,アクチェーターの数よりも制御量の数が多い系(『劣駆動系』)です.このような系は制御が難しい系として知られています.また,倒立振子はマニピュレータと異なり,制御対象の位置を目標値に合わせるサーボ系ではなく,状態変数を零に保つレギュレータです.一番最初は,最適レギュレータを用いて倒立させました.当初はモデル化誤差が大きく,シミュレーション通りの動作をしなかったため,暴走して大騒ぎでしたが,安定化できるフィードバック・ゲインをなんとか見い出したところ,モデルの修正ができたので,その後はこの修正モデルに基づくシミュレーションがだいぶ信用のおけるものとなりました.それでも,最適レギュレータによる倒立は,常に振子がふらふらと揺れる状態でした.何年か前に別の4年生が卒業研究で,H∞出力フィードバック・コントローラの設計を行い実装して実験したところ,最適レギュレータとは比較にならないほど揺れが収まり,静かに倒立するようになりました.また,指で振子をつついても,すぐに元の位置に戻って倒立を続けるほどロバストです.最近は出番がなく,少し暇を持て余している実験装置です.

担当教員

氏名 (name) :
佐藤俊之 (Toshiyuki Satoh)
役職 (official position) :
准教授 (Assoc. professor)
居室 (room) :
GII407
Email:
tsatoh[at]akita-pu.ac.jp