地球温暖化に代表されるように,私たちの明日に関わる地球規模の問題に対する関心が, 日々高まっています。
建築環境学グループでは,地球環境への影響を減らしながら,より質の高い空間を作るための, 以下のような研究を行っています。
建物は人間の生活空間を形成する器であると言われます。 この生活空間は,「安全」で「衛生的」で,「便利」かつ「快適」でなければなりません。 人間の五感のうち,特に,温冷感覚(触覚による皮膚感覚),臭覚,聴覚,視覚は, 生活空間の持つべき要件である「安全性」,「快適性」に大きく影響します。 建築計画は,これらの感覚に適した物理環境をつくるものでなければなりません。
計画の対象となる物理環境を構成する要素は,人間の感覚の分類に対応して, 「温熱環境」,「空気環境」,「音環境」,「光環境」のように分類されます。 このような要素に注目するとき,「建築とは,外界のこれらの物理環境要素を透過・遮断・緩和して, 内部に生活空間としてふさわしい物理環境をつくるためのシェルターである」と言うことができます。
そのためのシェルターはいかに設計し,シェルターだけでは目標の物理環境が実現不可能な場合には, いかにして建築設備を組み合わせるかを扱う学問領域を「建築環境工学」といいますが,本グループは, この学問領域の教育・研究を担当しています。
今日,生活空間の持つべき要件である「安全性」,「快適性」は, 人工エネルギーを惜しみなく投入して達成するわけにはいきません。 都市の温暖化,地球温暖化といった環境問題の原因のひとつは, 快適な生活空間を実現するために私たちの使用している人工エネルギーが, あまり効率よく使われていないところにあるからです。
本グループでは,「物理環境の制御に必要な人工エネルギーをより効率よく, より少なく使うにはどうしたらよいか」,「人工エネルギーではなく, 自然エネルギーに置き換えられないのか」といった問題に応える建築環境計画手法について, 教育・研究しています。
地下室の利用は,自然エネルギー利用・省エネルギー計画手法のひとつです。 これは,地中の温度が,気温に比べて夏より涼しく,冬より暖かいために, 一般の地上の室よりも少ない暖冷房用エネルギーで良好な温度環境をつくることができるからです。
さらに効率よくエネルギーを使おうとすると,地下室の壁周りの断熱手法が重要になります。 左の画像は,暖房された地下室から逃げる熱が, 断熱手法によってどのくらい違うかをコンピュータシミュレーションで検討した例です。 断熱材の入っていない左は,地盤と地下室の壁の交わるあたりが低温ですが, この部分に断熱材を入れると,右のように温度分布が大きく変化し,壁部分は高い温度に保たれます。 ほんの一部に断熱材を配置するだけでも,熱の逃げをかなり抑止できるのです。
生活空間の持つべき要件のひとつに「快適性」がありますが,住宅など, 人間生活の基本となる空間では,「快適性」だけを追求してよいのかという疑問があります。 例えば,20℃くらいに一年中温度調整された空間は快適かも知れませんが, そこで暮らす人は健康と言えるのでしょうか。また,建材などから発生する有機ガスが, アトピーなどアレルギー症状の原因となるなど,「快適性」だけに注目していたのでは扱えない問題も, 最近,顕在化してきました。
そこで本グループでは,「快適性」だけではなく,「健康性」をも視点に入れた建築環境計画について, 教育・研究しています。
地域と風土に根ざした設計計画を行うには,土地々々の気候条件をよく知っておく必要があります。
右の画像は,アメダスデータを分析して, 夏場に地中から取り出せる冷熱がどのくらいあるかを気温と地中の温度の差(「地中冷熱ポテンシャル」と言います)で表して, カラーマップにした例です。秋田は,地中冷熱ポテンシャルに恵まれた土地柄であることが判ります。
建築を,外界の物理環境要素を透過・遮断・緩和して, 内部に生活空間としてふさわしい物理環境要素をつくるための「シェルター」と捉えるとき, そのシェルターは,世界中どこでも同じでよいのでしょうか,秋田に建つ建物も, 沖縄に建つ建物も同じでよいのでしょうか。 地域と風土を考慮した設計でなければ,省エネルギー計画も自然エネルギー利用計画も推進できません。 ひいては,地球環境問題にも応えられません。
本グループでは,地域と風土に根ざした設計計画について,教育・研究しています。 特に,秋田は風雪の強い土地柄ですので,寒地建築の環境設計手法を重点的な課題にしています。