ドストエフスキー著「罪と罰」(新潮文庫、上巻p321-322)より
「ああ、あなたはこんなことを考えていらっしゃるんでしょう?」ひときわ声を高めながら、ラズーミヒンは叫んだ。「僕が罵倒するのは、彼らがデタラメを言うからだと、そう思っていらっしゃるんですね? ばかばかしい! 僕は人がデタラメを言うのが好きなんですよ! デタラメってやつは、すべての生物に対する人間の唯一の特権です。デタラメを言っているうちに、真理に到達するんですよ! デタラメを言うからこそ、僕も人間なんです。前に14回、あるいは104回くらいデタラメを言わなけりゃ、1つの真理にも到達したものはない。これは一種の名誉なんですからね。ところで、僕らはデタラメを言うことだって、自分の知恵じゃできないんです! まあ、一つデタラメを言ってみるがいい、自分一流のデタラメを言ってみるがいい、そしたら、僕はそいつを接吻してやる。自己一流のデタラメを言うのは、人真似で一つ覚えの真理を語るより、ほとんどましなくらいです。第一の場合には人間だが、第二の場合には、たかだか小鳥に過ぎない! 真理は逃げやしないが、生命は叩き殺すことも出来る。そんな例はいろいろあります。しかるに、我々は今どうです! 我々すべて一人の例外もなく、科学、文化、思索、発明、願望、理想、自由主義、理性、経験、その他いっさい何もかも、何もかも、何もかも、何もかも、何もかも、何もかもが、まだ中学予科の一年級なんです! 他人の知識でお茶を濁すのが楽でいいもんだから---すっかりそれが慣れっこになってしまった! そうじゃありませんか? 僕の言うとおりじゃありませんか!」二人の婦人の手を振って締めつけながら、ラズーミヒンは叫んだ。「そうじゃありませんか?」