クロード・ベルナール著「実験医学序説」(岩波文庫、p392)より

 クロード・ベルナールほど独断主義の危険を明らかに示したものはあるまい。もちろん彼は仮説、憶測の必要を唱えている。しかし、この観念は自然を探るための道具であり、方法であって、それ以外の何ものでもない。決してこれが固定観念となってはならない。自然が我々の疑問に返答を与えるとき、我々は呼吸を殺して耳を傾けなければならぬ。「実験室に入る時は、学説という上衣を脱がねばならぬ。」それどころか、自分の憶測と矛盾するかもしれないような事実を熱心に探さなければならない。実験者は自分の仮説に手心を加えず、むしろこれを虐待すべきである。「私はただ一つのことについて誇ることができる。それは私の無知ということである・・・・」とクロード・ベルナールは弟子たちに言った。彼は、軽率な肯定よりも疑いの方がよいことを人々に教えた。