セメント腺は均一の分泌細胞の集団なのでしょうか。セメント腺を発見し、最初に詳しく記載したのはチャールズ ダーウィン1ですが、その構造とセメントの実体を詳細に調べたのは英国のWalker8でした。彼は英国産フジツボSemibalanus balanoides(論文発表当時はBalanus balanoidesと呼ばれており、チシマフジツボSemibalanus cariosusと近縁)を用いて、セメント腺にはアザン染色性の異なる2種類の分泌細胞があり、その放出物が幼生セメントと同じ染色性を示すことを見出した。
我々も研究対象としているアカフジツボを用いてWalkerの研究8を追試しました。その結果、アカフジツボ幼生でも英国産フジツボS. balanoides幼生のセメント腺とまったく同様に、中央部にアザン染色により赤く染まるα細胞、周辺部にアザン染色で青黒く染まるβ細胞を見出しました(左図)。さらに、我々は2種の細胞をより詳細に研究するために、単離したセメント腺を細胞分離用のタンパク質分解酵素溶液で処理し、細胞を分離する実験を行いました(Okano ら12, Okano と Hunter11)。その結果、セメント腺から2種類の分泌細胞を分離することに成功しました(右図)。