(概要)

農業経営改善ハンドブック
1.農業生産組織とは、労働力編成、機械・施設利用、土地利用などの側面で、個別の農業経営を生産過程において補強し補完する組織で多種多様な形態があるが、現代的課題として次の2つがある。第一は、生産組織の介在が生産力水準など個別経営の内外からの作用力(社会的な要請)に対していかなる反作用とりわけ再生産水準の向上を含んだ補完を引き起こすことができるか、第二は、そのためには組織化の範囲を直接的な生産活動にとどめず、生産活動を支える地域的条件にまで広げて地域全体のキャパシティをいかに拡大することができるか。
担当部分:「農業生産組織とその運営」(佐藤了、437-453頁)「麦生産の概要」(櫻庭英悦・佐藤了、632-645頁)全体の執筆者は、山際栄司他150名。
講座 日本の社会と農業:関東・東山編
2.関東の複合生産地帯の農業は伝統的に稲麦
作部門と集約部門が年間労働体制と相互的な経済的補償関係を形成する「二段構えの構造」にあるが、稲作中型技術の機械化段階に直面する今日、営農集団を結成し、それを通じて集落等一定地域の労働と経済的諸関係の「全体のまとまりの軸」の転換を図る自主的構造再編として進行するとき構造再編としての有効性が増すことを解明した。
担当部分:「地帯別にみた関東・東山農業と課題−複合生産地帯」(佐藤了、208-244頁)
執筆者:永田恵十郎、渡辺成美、木村伸男、山口照雄、青木寿美男、松木洋一、小川政則、佐藤了、青木眞則
どうする、これからの北海道農業
3.国際化時代における北海道農業は畑作・酪
農等を主体とする作目構成から見て日本農業の外枠を形成している。したがって北海道農業には、集約化のみに走って内地府県農業との競争を激化させるのではなく、基本的には普通畑作物等の国際競争力を高める農法確立に向かって日本農業の外枠強化に貢献することが求められている。
担当部分:「農法転換」への期待(佐藤了138-142頁)編集:農業構造研究会
執筆者:七戸長生、松岡定夫、鈴木彰男、五百木秀夫、有塚利宣、伊藤みえ子、岩野勝、梅津俊雄、遠藤和雄、春日基、河村征治、黒柳俊雄、久保嘉治、小林道彦、佐伯俊彦、佐藤隆一、佐藤了、新道喜久治、生源寺真一、関根正行、高橋三枝子、田畑保、中島祥一、中山利彦、永田恵十郎、長野勉、水野博、三戸部正次郎、宮崎栄作、村田武、森島賢、守友裕一、矢島武、安村志朗、吉田武彦、石井友美子、太田原高昭、松田利民、竹本源也

高生産性土地利用型営農の手引き
4.地域営農集団は、高齢化などによって農業
の担い手が空洞化した農村の集落等の一定地域農業の自主的集団的役割分担による再編形態として有効で、その結成と運営にはS字型の理想的発展コースを適切に進めていくための諸課題がある。当初の基盤確立段階では、地域農民による理念、組織、技術、販売、資金などの合意形成を通じた地域営農の方向づけ、事業拡大段階では、地域営農の大胆な実践による担い手の収入拡大と投資の着実な回収対策、見直し段階では、地域営農体制の確立により担い手の生活安定と次期への計画、組織手直しなどである。
担当部分:「関東地域水田作型−地域営農集団の結成と運営のために−」(佐藤了、129ー188頁)
執筆者:梅本雅・関野幸二、納口るり子・八巻正、佐藤了、安藤益夫、生源寺真一・天野哲郎・井上裕之、上原守一・鵜川通永、黒瀬一吉、青木寿美男・小栗克之・児玉明人

地域農業再建−集団的土地利用の新展開−
5.わが国農業の積年の課題である水田利用の
高度化に今日的な可能性を開くものとして水田利用の担い手たちと地権者集団との二重組織である地域営農集団が注目される。とくにそれは、地域的な広がりをもつ土地の集団的計画的な利用により生産技術上の有利性が発揮できるところに積極的意義がある。しかしそれは、経済的には資本、労働、土地の三範疇未分離の半自立的な経営行動にとどまることが多いため、市場経済から促迫される要素収益水準の実現に難点が認められる。これをクリアするための計画的行動ならびに条件整備が重要課題である。
担当部分:「地域営農集団による水田利用高度化機能」(佐藤了、39-78頁)編者:堀尾房造
執筆者:堀尾房造、高橋正郎、佐藤了、盛田清秀、篠原隆治、森下昌三、今井健、笹倉修司、関澤次郎
水田農業再編の諸態
6.わが国の農業農村の地域計画の基礎をなす
水田農業の構造問題は、零細農耕が水稲単作以外に作目・経営部門を選択していく困難性と密接に絡み合っているという水稲単作的「構造欠陥」にある。それを再編していく再編起動力は中流域農業に典型的に見いだすことができるという仮説にたって、水田農業再編の中流域的「条件」を客観的に解明するとともに、それに多作目結合の経営組織形成や生産者組織を中心とした地域農業組織化といった「主体」的な活動を再編の原動力として析出した。
担当部分:「多作目複合化による水田農業の再編方向−鬼怒川中流域(上三川町)の事例分析−」(佐藤了・平野信之・斉藤一治、59-174頁)
編者:井上完二執筆者:倉内宗一、佐藤了・平野信之・斉藤一治、松木洋一、竹谷裕之、永田恵十郎
 農業経営研究の課題と方向
7.企業形態という農業経営の外部的形態はそ
の内部の経営行動のあり方に規定されるが、農法変革に寄与する形態を明らかにするには、土地利用秩序形成との関連を分析枠組みに入れることが不可欠である。土地利用型農業の場合、絶えず周辺経営の反応を織り込んだ経営行動を展開するが、したがって地域的な条件に応じて経営自立の方向とともに、地域農業維持型の生産組織化を含めて規模問題への経営的行動を取り上げることが不可欠である。
担当部分:「経営規模論」(佐藤了、119-121)「企業形態論」(佐藤了、150-161頁)
編者:長憲次執筆者:長憲次、佐藤了、他60名
新版『農業経営ハンドブック』
8.わが国の農業・農村は、一部を除き「村落
型」のそれに基礎を置いている。このため、目標として想定される地域農業再編のあり方は、離農者が土地を手放して地域社会を離れる西欧エンクロージャー型のそれではなく、住民が世代を越えて定住していく高位定住社会の存在とそれによる地域資源の維持・再生産を前提として、生産面の再編を目指すモデルが描かれるべきである。具体的には担い手の農業内自立度の向上を先行的に求めるルートだけでなく、地域組織による土地利用秩序形成を先行的に追求し、その中から担い手を育成していくルートも想定する必要がある。
担当部分:「地域農業再編の考え方と課題」(佐藤了、695-703頁)
執筆者:矢野哲男、佐藤了、他計164名
水田農業の総合的再編−新しい地域農業像の構築に向けて−
9.わが国の水田農業の構造再編を構造的に解
明し、地域の計画に結びつけていくには、具体的に取り上げようとする対象地域を担い手の農業内自立度と土地利用秩序形成度という2つの目標軸の上に位置づけて把握していくことが有効である。米の減反・生産調整問題では、転換すべき畑作物が先行する形で条件悪化が進行してきたため、土地利用型農業の再編は明確に現れていないが、蔬菜花き園芸との複合型農業の再編は、生産者組織が地域農業の核として育つにつれて発展している。
担当部分:「東北水田農業の担い手問題と土地利用秩序の形成」(佐藤了・倉本器征・大泉一貫、39-58頁)、「減反・生産調整問題」(佐藤了、202-215頁)編者:永田恵十郎
執筆者:永田恵十郎、今井健、仁平恒夫、佐藤了、倉本器征、平野信之、小林一、佐々木隆、竹谷裕之、小池恒男、安藤益夫、野田公夫、岩元泉、岩本純明、中島往夫、倉内宗一、秋山邦裕、大泉一貫、後藤光蔵、松木洋一、臼井晋、八木宏典、辻雅男、向井清史、矢口芳生、井上完二
明日の農業を担なうのは誰か
10.家族経営の可能性を検討する観点から、現
実に展開している営農行動や営農戦略を解析
して、短期二世代就農中規模家族複合経営を
中心とする受託型営農集団が北東北での当面の担い手として析出した。また短期二世代就農中規模家族複合経営には、若年就農の一形態として有力なUターン就農者の発生が認められる。そこで彼らに自由発想型調査と仮説検証型調査を実施した結果、若者の就農を支援するには就農後の期間が経るに従って土地、資金や技術の基礎的条件→→仲間、経営ノウハウなどのソフト条件→→革新的技術導入などのイノベーション条件へと求めるニーズが推移することが解明された。就農支援はこうした類型と段階を踏まえて進める必要がある。担当部分:「家族複合経営連合と地域的支援−北東北農業地域−」(佐藤了・角田毅、23-44頁)「離職就農行動分析からみたUター 就農対策の課題」(佐藤了・角田毅、257-268頁)編者:田畑保、村松功巳、両角和夫
執筆者:田畑保、佐藤了・角田毅、香月敏孝、迫田登稔、村松功巳、平野信之・今井健、両角和夫、増渕隆一、門間敏幸・浅井悟・関野幸二、堀越孝良
地域農業再編下における支援システムのあり方
11.最近、農業生産の担い手論に「多様重層的
担い手論」「農業経営者論」の二つの傾向が現れている。それらは、水田作の規模の経済性は一応踏まえているものの、耕圃制や東北など地域によっては階層間格差が未発生といったわが国水田農業の構造的要因とともに、とくに地域農地の合理的利用秩序を計画的に作り上げていくためには、地権者たちの利用秩序形成にむけたマインド形成が前提になるという点を等閑視する傾向が強い。これらを踏まえた担い手論の展開が必要である。
担当部分: 「担い手形成と支援システム」(佐藤了、188−202頁)編者:黒河功
執筆者:黒河功、七戸長生、陣内義人、酒井惇一、長尾正克、木村伸男、竹谷裕之、納口るり子、仙北谷康、谷本一志、東山寛、志賀永一、松木靖、吉野宣彦、吉田英雄、愈丙強、佐藤了、淡路和則、小林一、原田淳、柳村俊介
七戸長生監修・「畑研」研究会編『十勝一農村・40年の軌跡』
12.輪作確立は明治の開拓以来の北海道畑作の悲願として第二次大戦後に持ち越され、
1980年前後にようやく一応の確立を見たが、その確立を模索していた70年代初めに実施した調査研究において筆者などが取った、技術的合理性基準を想定しつつも、その経営的確立のメルクマールとして経営主が考える作付体系を行動基準と見なし、その実現程度を輪作採用度として経営の自律領域の強化程度を捉える視点が、国際化時代に入り、輪作の動揺期に突入した今日、有効性が増している。
担当部分:「輪作確立への模索」(佐藤了、43-51頁)
執筆者:七戸長生、松村一善、志賀永一、工藤賢資、佐藤了、小林一、金川三代治、柳村俊介、松木靖、淡路和則、原田淳、桃野作次郎、久保嘉治、黒河功

JS・コールドウエル・横山繁樹・後藤淳子監訳『ファーミング・システム研究―理論と実践―』
13.今日、先進諸国への国際的農業研究・開発協力においては、断片的な知識や技術の切り売りではなく、持続的農業技術体系の確立と定着というグローバルな課題を内発的・参加的に地域特性に応じて実践できるようにすることが求められている。ファーミング・システム研究(
FSRE)は、このような課題への数々の挑戦の中から生まれた方法論であるが、日本にとっては、その農業の構造的体系的な把握の方法論や持続性の体系的評価などのメリットが大きく、また他方、市場原理主義とは異なる日本のむらおこしや総合研究などの経験は、世界の開発協力に大いに貢献する。
担当部分:ファーミング・システム研究:解題(JS・コールドウエル・横山繁樹・佐藤了・後藤淳子、9-19内容は研究論文34と同じ。本報告は1994年第13回国際FSRE学会の「トレーニング特別セッション」で上述3名が日本のむらおこしの典型例をモノグラフとして共同報告したものである。同学会は、この報告を高く評価して自らの経験を述べた農民日山信一に対し、特別賞を授与した。
担当部分:「話し合いによる『むらおこし』」(日山信一・佐藤了・JS・コールドウエル、237-263)ファーミング・システムとは、農業生産の分析単位であると同時にユーザー本位の農業研究開発の方法論である。それは、問題の所在を現場からくみ取ろうとする「現場主義」、自然科学から社会・人文科学まで関連研究分野の研究者・実務家が特定のフィールドを対象に共同研究・開発を行おうとする「学際主義」、そこにおける問題解決を主旨とする「実践主義」の3つの側面から特徴づけられる。
担当部分:「ファーミング・システム」(JS・コールドウエル著・佐藤了翻訳、22-40共訳者:佐藤了、山田隆一、長谷川啓哉、猪内淳也、鈴村源太郎、後藤淳子、宮武恭一、小野洋、塩谷幸治、平田耕二、木下幸雄、角田毅、宮本基杖、川手督也、小野智昭、入江賀子、中村志野、岡江恭史・
中島征夫著『地域複合農業の展開論理ー地域営農を見つめてー』
14.解題:故中島征夫東北農業試験場場長の研究業績を著者の意思に沿うべく下記3名で編集し、解題させていただいたもので、筆者は「複合型営農集団の組織編成論理」(著者の東京大学学位請求論文)を担当した。「複合型営農集団」とは今日なおわが国農業の針路の一つと見なされる。

「地域営農集団」の内容規定であるが、「機械・施設利用を核として地域農業諸資源利用の結節・統御機構」であり、「規模・効率性の論理と集約化の論理の統一」を実現する有力な今日的形態とされる。
担当部分:東北農業研究叢書第3号:1-3(佐藤了・倉本器征),9-14(佐藤了),20-22(諸岡慶昇・佐藤了)
プロ農協マンのキャリア形成と人材育成の特質(編著)全国農業協同組合中央会編「協同組合奨励研究報告第26輯」
15.プロ農協マンを単に専門に秀でて頼りがいがあるだけでなく、職務遂行を通じて地域農業や農協経営の危機打開に主導的・創造的
な役割を果たす存在と捉えて、そのキャリア・ダイナミックス(E.シャイン)の特徴を検討した結果、顕著に共通したアンカー(錨)として「地域に根ざして地域に貢献したい」などという点が浮かび上がった。ここから@地域農業現場の共感を伴う体験プログラム、A組織トップとの信頼関係の中で初めて形成され得る、B実践重視のカリキュラム形成、C徹底した情報ディスクロージャーの必要性などを提言した。
担当部分:
佐藤了編8-83頁、執筆8-15,29-32,65-83

庄子貞雄監修『大潟村の新しい水田農法』
16.秋田県大潟村では、在来型稲作農法に代わって無化学農法や不耕起、無代かき、苗箱施肥、田畑輪換などが広範に普及しつつあるが、低環境負荷農法の代表例として不耕起栽培農法の経営経済性などを検討し、それが高技術に支えられれば省力・増収・増益かつ環境フレンドリーで持続可能な農法であることを例証するとともに、その普及の制約要因として技術習熟の困難性、新規投資の必要性、商品の市場評価を高めないという3点があり、これらを克服していくことが課題であると主張した。

担当部分:佐藤了、谷口吉光、中村勝則「新技術の普及と課題」249-258


(学術論文)

  北海道における畑地利用動向と経営構造
1.
わが国有数の畑作地帯である北海道十勝地帯では、60年代後半からいわゆるトラクター段階を迎えて、かつての豆作中心から根菜作導入等急速な作付け変動が発生してきた。この中から豆作・根菜作・禾本科作による機械化段階に即応した畑輪作形成が析出されてきた。十勝中央部の集落悉皆調査結果の分析から輪作採用と作付け変動の関係を分析し、輪作採用度が低い経営で作付け変動が激しく不安定なこと、しかしもっとも輪作採用度の高い経営ですら機械投資回収などからの根菜過作などの悪循環から免れ得ていないことなどを実証し、当時問題になっていた畑作安定方策に提言した。
稲麦作受託経営における収益構造−土地純収益視点からの一考察−
2.米「過剰」に伴う水田利用再編対策と稲麦両用可能な自脱型コンバインなどの普及を契機に稲麦作受託経営が増加傾向にあり、将来の穀作の担い手の有力な形態と目されるが、麦作が安定的に成立するためには作物間の地代負担力競争のメルクマールである土地純収益の水準並びに安定性が重要である。このため、規模別経営形態別に土地純収益を計測し、関東内陸利根中流域の上層で安定性を確認した。
関東における稲麦二毛作農家・集団の成立構造
3.関東地域における稲麦二毛作農業は、土壌
条件と気象条件に規定されて利根川中流域に立地してきたが、近年の生産力動向の中で、機械化にキャッチアップできる階層が限定されるようになった。しかし二毛作が成立するためには、地域的排水条件の確保などが必要で、小規模農家を糾合した集団組織化の必要が示唆される。
Characteristics of Agriculture Mechaniz- ation and Farm Manage- ment in Japan
4.わが国の水田農業の戦後機械化過程の特徴
を取り上げ、いわゆる中型機械化体系の普及が1970年代半ばから加速化し、それに単独でキャッチアップできない層などで多様な形態のグループファーミング形成の必然性があること、ならびにそれを計画的に進めるべきことを論じた。
農業生産組織の諸類型−群馬県玉村町の実態
5.利根川中流域の複合経営地帯における集団
組織活動の典型的な類型を個別の家族経営にとって「守り」か「攻め」かという機能内容によって析出した。
集団的土地利用概念の検討
6.機械利用や土地利用の単位性拡大とりわけ
集団転作等の必要性が大きくなるに伴って集団的土地利用が注目されてきたが、この概念が土地利用主体と土地利用調整主体の二つにまたがるものとして使われ、論議にある種の混乱を来していることを論じ、土地利用の集団化と土地利用秩序形成・土地利用調整の集団的対応の両者を峻別して論議すべきことを解明した。
集団的土地利用の展開過程
7.集団転作が問題になる以前から自主的集団
的に土地利用を実施してきたいくつかの事例を解析し、それは個別経営の否定→新経営体の成立・純化という単純な移行関係にあるのではなく、むしろ個別経営と集団組織との相互促進・相互矛盾関係として「集団的意思決定の不断の過程」「全体のまとまりの軸の変換過程」と捉えられることを論証した。
集団的土地利用の成立条件
8.集団的土地利用の成立を保証している今日
的な条件とは、農用地総量確保「農業的利用に引きつけた農地所有の再設定運動」の存在と機能、農地の集団的利用による「労賃と地代の相互促進的集団活動」の存在と機能、さらにはこれらの諸活動が個々の複合的な経営組織の危機回避に繋がることなどとして把握できる。こうした知見から、集団的土地利用の成立とそれを通じた地域農業の展望が相当な正確さをもって見通すことができるようになる。伝統的な複合経営を機械化段階に合わせて発展させるには多様な集団的活動が不可欠、有効である。本稿では、一集落52戸の農家の多様な経営方向や地縁血縁関係を解析し、後者が直接的に稲麦作集団活動を規定するのではなく、複合部門に施設園芸を選ぶか畜産部門を選ぶかといった部門選択行動が媒介し、それが集落に新たな関係を形成しつつあることを導出した。
ある部落農業の現段階と「集団」の活動
9.
伝統的な複合経営を機械化段階に合わせて発展させるには多様な集団的活動が不可欠、有効である。本稿では、一集落52戸の農家の多様な経営方向や地縁血縁関係を解析し、後者が直接的に稲麦作集団活動を規定するのではなく、複合部門に施設園芸を選ぶか畜産部門を選ぶかといった部門選択行動が媒介し、それが集落に新たな関係を形成しつつあることを導出した。
農業生産組織の資金問題の特質
10.個別経営間で作る生産組織を運営していく
ときに最大の問題の一つは資金問題にある。しかし生産組織という業態に中小企業などで開発されてきた資金財務指標等を直接的に適用することはなじまない面が大きい。そこで財務の安定性や自立性に関しては修正自己資本比率を設けるなどして実質的な達成度の検討を可能にするとともに、安全性性の検討に当たっては、「償却費カバー率」という測定概念を設定することによって運営改善の指針にできる。
農繁期分析から見た圃場零細分散問題
11.農業経営の近代化や改善にとって圃場零細
分散問題が一つの桎梏と認識されて久しいが、その経営的意味を正確に把握するには農繁期における直接的労働過程の分析と関連づける必要がある。労働投下と「零細性」「分散性」「豊沃性」「錯圃性」という圃場の4側面との関連を考察していくことが重要であるが、本論文では「零細性」は主として圃場内効率、「分散性」は圃場外効率の低下要因となることを論証した。
零細分散錯圃の今日的意義
12.農業経営の近代化にとって零細分散錯圃と
いわれる耕圃制度が問題点の一つであることは否定できない。だが、それは歴史的現実として多くの利益が錯綜する場としてあるのであって、単純に生産力発展の桎梏として何より先に除去されるべきものという位置にあるのではなく、今日農業生産力を一層引き上げて行くにはその耕圃に生産面だけでなく、生活面、資源管理面に関係する各層の総参加型の再編プロセスを想定せざるを得ないのである。
水田作経営内における移動・運搬時間及び費用の発生
13.水田作の規模を拡大したとしても分散して
いれば生産費の面で限界に達するのが早まるであろうという仮説の下でモデル的に検討した結果、対象地域の場合、分散程度にもよるが約5〜6haを変局点に影響が現れるのではないかという知見が得られた。
複合型営農集団の資金問題の特質
14.稲麦二毛作地帯において水田転作を取り入
れた輪換田営農の成立条件は稲単作地帯よりも困難性が大きい。なぜならば、稲単作地帯では麦ー大豆等の二毛作で稲作収益を上回れば一応収益競争条件をクリアするのに対して、麦作という裏作の存在が前提となるため、夏作で稲作を陵駕することが必要になるからである。したがって乾田条件を活かして野菜作などと組み合わせた作付け体系がその輪換田営農の成立には欠かせない。
水田農業構造再編への視点−「中流域農業」に注目せよ− 
15.従来わが国の水田農業の再編は、下流域に開けたデルタ地帯の大規模稲作農業地帯から起動するという見方が中心的であった。これは水稲単作再編モデルに過ぎず、わが国に適合的な集約的再編モデルは中流域に発見できる。
稲麦二毛作地帯ける輪換田営農の方向
16.稲麦二毛作地帯において水田転作を取り入
れた輪換田営農の成立条件は稲単作地帯よりも困難性が大きい。なぜならば、稲単作地帯では麦ー大豆等の二毛作で稲作収益を上回れば一応収益競争条件をクリアするのに対して、麦作という裏作の存在が前提となるため、夏作で稲作を陵駕することが必要になるからである。したがって乾田条件を活かして野菜作などと組み合わせた作付け体系がその輪換田営農の成立には欠かせない。
農村計画における地域農業計画の役割
17.農村計画の分野は、農村の生活や文化まで
幅広いものがあるが、その中核に地域農業計画を位置づけることなしには完結し得ない。ただし、農業の領域を従来の生産中心のものから大幅に拡充し、販売、消費者との結びつきや都市との交流、さらには農林業を中核とした農村の魅力を加味した観光など多面的機能を活かした「地域生命産業」に拡充する必要がある。
水田農業の構造再編の方向と諸形態に関する研究(学位論文)
18.水田農業再編の起動力に関して、その必要性、条件、主体的活動という3つの基本的モメントが河川流域ブロックごとに密接な関連の下に存在し、稼働している点に着目して解析を行った。その結果、従来容易に結びつけられなかった構造的・客観的な問題の究明と主体的・実践的な再編方向と方策を関連付けて明らかにすることができ、かつ再編起動力が中流域に典型的かつ先導的に現れることが解明された。
「地域水田農業」研究の分析概念と類型化指標
19.水田農業の再編が課題となって久しいが、
ある時は担い手だけに注目し、ある時は土地利用再編だけに注目するという傾向が見受けられるが、そのいずれもが一面性を免れない。そこで研究の対象を「担い手の農業内自立度」と「土地利用秩序形成度」の二つの軸から成り立つ「地域水田農業」と捉えてそれぞれの軸の内実を相互に関連づけて解明していくことが有効である。
 地域輪作営農の成立条件と展開方向
20.東北地域を作付け体系上の観点から麦ー大
豆の二毛作可能な南東北と立毛間播種等の特殊な技術が必要な北東北に区分し、地域輪作営農を成り立たせる条件と展開方向を担い手の農業内自立度と土地利用秩序形成度の二面から解析した結果、前者では担い手組織の成立と地域的土地利用調整があれば地域輪作営農の成立が可能となっていることなどを実証した。
地域農業再編のための推進・指導体制の整備
21.地域農業再編は農村地域計画の焦眉の課題
であるが、それを推進する単位に応じた組織的核が必要で、それを中核として住民参加型・徹底対話型の自主的再編過程を進めていくことが結局のところ地域農業再編の早道である。本稿では、市町村単位の地域農業計画事例を取り上げ、体制整備の重要性を例証するとともに、その効果がひとづくりを経て地域農業の複合化等の形で現れ、ひいては生産性向上に貢献していくことを論じた。
Family Farms inTransition andDevelopment of GroupFarming in Japan(日本における家族農業の変貌
22.日本における家族農業は担い手の空洞化な
ど大きく変貌しているが、それを補完し、ときには代替するグループファーミングが重要で、その発展の道筋には担い手先行型、地域組織先行型、並進型の3つがある。また、こうした問題解決にむけての手がかりとしては、規模の経済の実現、水利組織と地域資源の保全、ならびに近隣関係の保全という三つがあり、いずれかから取りかかったとしても、他の二つを何らかの形で達成するようにしていくことが必要になる。
農業機械の広域共同利用の効果
23.稲作用機械の大型化に伴い高額化してきた
が、田植機やコンバインなどその多くは特定の適期しか利用されない専用機があり、それが高コスト要因の一つとなっている。このため規模拡大に加えて適期の異なる広域間で機械共同利用を進めることがコスト低減の有力な方策である。またそうした広域共同利用には、異地域生産者の交流による相互活性化効果などの波及効果が期待できる。

農業機械の「広域共同利用」に注目する
24.稲作用機械の広域共同利用には、コスト低
減効果や相互活性化効果など多面的効果が認められるが、その普及には特定個人同士が偶然に結合するケースに加えて利用者のネットワークをコーディネイトするJAなどの役割が決定的に重要である。

担い手からみた麦作の意義 
25.転作政策の変更に伴って80年代後半から田麦作の縮小が顕著であるが、機械化段階にある水田作経営にとっての麦作の意義は、コンバインなどの稲麦作の共用による操業度向上による稲麦作コスト低減効果がきわめて大きいことに加えて、ある程度の規模に達すれば夏期に収入が得られる資金管理上の効果も無視できない。統計的に見ても、麦作は大規模層ほど採用されているが、近年作付け後退の傾向も否定できない。上述のような経済的効果を失しないような条件整備が今後一層必要である。

天蚕飼育による地域環境の活用方向 
26.
中山間の地域環境を活用して地域活性化を図る一方策として、くぬぎ、ナラなど広葉樹を活用した天蚕飼育に注目し、全国の取り組み事例の調査分析からその活用方向を検討した。その結果、自然環境ならびに養蚕が盛んであったなどの歴史的・人的環境条件で中山間地域にはこの方策が適したところが少なくないが、市場が狭いため、製糸形態の価格の乱高下が大きいことが最大のネックである。このため地場に適した製品開発と販売ルートの確立に即して生産拡大を図るクラブ財開発モデルが適合している。このことは、天蚕だけでなく、中山間地域環境の活用に共通する傾向を示唆している。担当:全文執筆著者:佐藤了・宮武恭一・佐藤百合香

大河川中流域における水田農業の再編方向−利根川(鬼怒川)中流域平坦水田地帯上三川町を事例として−
27.経営組織的再編を含む水田農業の再編方向
を端的に示す事例を再編必要性、条件、主体的活動内容にわたり詳細に解析し、中流域の先導性はその優れた条件を活かす経営群の活動を中核とし、それを支援する諸機関、集落段階の諸組織と重層する組織化によることが判明した。これを「三層構造」モデルと命名した。
担当:51-67頁、93-95頁
著者:佐藤了・平野信之・斉藤一治

 「営農試験」から農民主導の「むらおこし」へ−日本におけるファーミング・システムズ・リサーチ−
28.
1950年代に農業体系の概念の下に実施された日本の営農試験は、開発途上国で同様の試験が試みられる1970年代から約20年先んじ、優れた視点や方法が摘出できる。だが、残念ながら、言語上の問題等から、こうした日本の優れた経験を途上国開発問題などに応用することはほとんどなかった。基本概念や組織化の進め方などその中のいくつかは、今後とも有益なものであるので、こうした経験は、実践的な試験研究やむらおこしの手法として世界に広め、交流する価値がある。担当部分:共同研究につき本人担当部分抽出不可能
執筆者:J.S.Caldwell、佐藤了、八木宏典、和田照男

 農業者像の変容と技術開発の課題−水田農業を中心として
29.
「稲作中型技術体系」のコストカーブはL字型ないしU字型の形状をなすが、技術開発課題としてこれを打破していく4つの方向、@大規模低コスト化、A反収増、複合化等規模一定・低コスト化、B有機農業など小規模・高付加価値化、C低コスト機械開発など小規模条件対応可能な方向が措定される。
農業体系研究(FSR)から何を学ぶか
30.開発途上国の農業農村開発の方法として発
達してきた農業体系研究はわが国の営農試験研究以来の現地試験研究や最近の地域活性化研究の方法と共通する面が多いが、それを学際的な分野であるが故に意図的な分かりやすい方法として整序しているところに注目される。現場に適合した技術開発普及や農村計画が強く求められている今日、現実の農村の学際的な診断からまず始める実践的な本手法に学ぶ意義は大きい。
家族農業経営と地域的支援
31.今後の日本農業の担い手として家族農業経
営の限界を見る論議が多いが、結論を下す前に地域農業の何を担うべきなのかを論議しておく必要がある。生産機能、地域資源管理そして地域社会関係の三つがそれということになるであろうが、いずれも家族経営以外に主要な担い手を見いだすことはきわめて難しく、コストバールなものとなる可能性が高い。このため、家族農業経営の発展を支える地域的な支援システムがきわめて重要となるが、支援の内容に応じて集落−生産者協議会−地域諸機関の3層にわたって整備する必要がある。
水田経営の今日的課題と経営方策
32.国際化等の環境変化への対応のみが強調さ
れるが、生産技術や地域条件などの知識に長けている農業経営学の観点からは、それだけではなく、たとえば短期的には明白な生産技術的対応の限界内では「ぎりぎり何が可能か」という予測を出し、それが政策的に見て問題があるというならば環境条件=与件変革を求めていくという観点からの経営計画・経営設計が求められていると考える。
業経営における農外就業経験の意義
33.農業経営における農外就業経験の意義は、
自己研鑽・啓発機会、物事を考える力や商売感覚の醸成に加えて経験に裏付けられた農業の魅力の発見などに見ることができる。
担当部分:共同研究につき、本人担当部分の抽出不可能。
著者:角田毅、佐藤了
Methods andPrinciples ofFarmerled Muraokoshi(Rural Revitalization)
34.むらおこしはわが国の農村計画の祖型であ
るが、事例研究に基づいてその基本論理を引き出した。それは個々人のホンネを出発点とするが、まずコミュニケーションに基づく共同行動が先行し、その中から共同目標が形成されてくる。したがって話し合いや助け合いの繰り返しがむらおこしの基礎であり、その繰り返しの中から共同社会益を見いだしていくことがむらおこしに他ならない。また、そのプロセスの進行には、着手までの間、合意形成までの間、行動までの間の三つのタイミングが重要な役割を果たす。
担当部分:227-242頁

著者:S.Hiyama, S.Sato J.S.Caldwell
区画整備に伴う地域営農システム
35.米価下落・耕境後退と担い手の空洞化に伴
い、地権者たちの危機意識・乗用一貫利用の大型機械化体系・WTO下の政策ドライブから基盤整備ニーズに変化が生じたが、広範な農民参加が可能か・負債を残したくないという2つの制約をいかに打破するかが重大な課題である。そのためには徹底した合意形成優先の進め方と政策支援が新地域営農システム形成のキーポイントである。
農業経営構造改革の展望と課題
36.農業経営構造変動を包括的に把握する視点から解析した結果、多様な担い手形態の出現とともに、最も積極的な意義を持つ方向の一つとして田畑輪換農法の創出が措定された。その実現には、生産技術上の有利性の実現、受託型営農集団等の企業形態に加えて、主体的かつ地域的土地利用調整という三つどもえの満たすべき要件がある。
構造変動下における集落営農組織の対応の特質−北東北平坦水田地帯の事例分析−
37.1970年代に発足したA組合では、集落ぐる
みの機械共同利用で農機具費を低減させて稲作所得を増大させてきた。だが、高齢化・兼業化の深化により出役不足や機械オペレータの不公平問題は深刻である。同組合は、大区画整備に省力・高性能機械を組み合わせて従来のままの平等主義を貫くか、それとも共同利用関係から受託・借地関係に組織原理を転換するかが問われている。いずれにせよ、平等をタテマエとする集落営農組織が担い手経営の成長をいかに支援していくかが課題とならざるを得なくなっている。
担当部分:研究室内の共同研究につき指導者としての本人担当部分は分離不能
著者:長谷川啓哉・角田毅・宮武恭一・佐藤
家族協業の内実と若年就農
38.若年の就農を促進するには、休日制や給料
制など労働条件の整備が重要である。労働条件を整備した家族経営で若年就農の発生がたしかに認められる。が、若年就農が発生した経営では、それに先行して主婦などが経営の意思決定にも参画する家族協業、民主的な家族関係が形成されていることに注目する必要がある。そうした家族関係は、対象地の場合、中規模以上の水田面積と分担が可能な程度の複合部門の存在など経営基盤に支えられたものでもある。
担当部分:研究室内の共同研究につき指導者としての本人担当部分は分離不能
著者:角田毅・佐藤了
水田地帯における複合経営の展開と担い手(第33回大会シンポジウム座長総括論文)
39.近年、水田作複合経営は、全体として後退
傾向が著しいが、いま、水田作複合経営が求められるのは、不況下での「米+兼業」構造の崩れ、米価下落で稲作以外に新収益源を求めざるを得ないこと、経営不安定性に対するリスクマネジメントの必要性などに加えて、国民の間に安全な食料供給への多様な期待・要請が高まったことなどからである。そこで、今日重要なことは、消費者のニーズを多チャネルの地域流通などを通じてしっかり捉え、それを地域生産力の向上と結びつけていくことである。
FSRE(農業体系研究)と農業経営研究(日本農業経営学会分科会の小括)
40.FSREは本来現場の問題解決にねらいを
置いたsite-specificな学際的アプローチであるが、その進行プロセスの中で経営研究者は調査分析の基本フレーム策定と問題解決代替案の優先順位決定に農民判断の適切な把握を基に主導的な役割が期待される。一方わが国の試験場サイドの技術開発、普及では、営農現場の問題把握なしに行政ニーズなどで研究課題設計がなされるケースなどがある。今後、現場に直結した技術開発を促進して行くには、高度な知識水準を有するわが国の農業者に可能な限り意思決定権限を委譲する農業者主導型の進め方が有効であると思われる。
担当部分:56頁
著者:佐藤了・松原茂昌
米価暴落下の大規模水田作農業者の新たな模索
41.近年の米価下落で、例えばモデル村秋田県大潟村の農家は96年から97年の1年間に平均可処分所得の1/3を失ったように農家経済への影響は深刻である。こうした収入減への対策としては、消費者との連携を強化していくために環境保全まで踏み込んだ産地戦略の必要性とともに、生産組織化や法人化を通じた経営的な内部点検の徹底が課題となる。そのためには、販売体制の確立、産地戦略の具体策としての地域栽培基準の明確化、経営の多角化ならびに経済的な判断から選択できる何らかの制度的な下支えが必要である。
畑作物経営・土地利用の推移と畑作政策
42.麦・大豆・いも類などの普通畑作物は、戦後徹底した輸入体制を取ってきたため、日本農業の最も弱い環の一つとなったが、国内の畑作物作付の態様には70年代半ばまでの後退期、70年代後半から80年代後半までの回復萌芽期、80年代後半からの動揺期の三つの画期がある。北海道畑作の畑輪作も、萌芽的ではあれ水田における田畑輪換も基本的には回復萌芽期に成立してきた。両者ともそれ以降の動揺期に翻弄されながらも命脈をつないでいるが、それは再生産保証と経営安定施策ならびに基盤整備施策と裏腹な関係にあることを論証し、主張した。
著者:佐藤了
水田基盤整備と地域営農システム
43.水田基盤整備は、水田農業の構造変革の有力な起点の一つとして注目されてきた。だが、現在の大区画水田基盤整備には、整備方式、負担方式や行政的に設定された高い流動化要件をクリアする営農方式など、構造政策の意図が強力に働く。これに対して、地域農業の関係者がどのように取り組んでいけば地域農業を自律的な変革の軌道に乗せ、発展的な意味を持たせていくことができるか、その手がかりを、合意形成問題、費用負担問題、組織化方式などの観点から検討した。その結果、ハードの枠組みを決める前に担い手像や利用集積まで話し合い、それらの大枠が地権者全員によって確認されるなど、徹底したソフト優先の進め方の重要性が明らかとなった。
著者:佐藤了(分科会責任者)
新流通段階における米販売戦略と環境保全型農業―大潟村農業の新局面―
44.1995年の食糧法への移行によりいずれの農家も販売戦略の再構築を迫られている。経営水田規模平均15haの秋田県大潟村では、米販売ルートの多様化、安全性を前面に押し出した販売戦略などに転換してきたが、食糧法下における米価の総下落傾向によって、安全性の販売戦略による有利性だけでは対応できず、その経済的基盤を失いつつある。そこで、これに対して農業者たちは「大潟村環境創造農業宣言」など農業者からの徹底した情報公開、多数グループ間の情報交換など、オープンな地域的連携を強めることによって今後の可能性を切り開こうとしている。
担当部分:農業者を含む数十名の共同研究(一部、文部省科研費地域連携研究)の成果の一部であり、分離できない
著者:北原克宣、谷口吉光、佐藤了
大規模環境保全型稲作の展開−秋田県大潟村を事例として−
45.大潟村の環境保全型稲作の展開を跡づけると、80年頃からの特定者による運動の時代、80年代後半からの食管制度の緩和などを背景とした安全な米を求める消費者運動に呼応して展開した商業化の時代、90年代半ばからの食糧法下の米価下落による競争激化の時代に分けられる。第3期の状況下で環境保全型農業は新たな意味を持ち始めている。@同地域が全国最大の環境保全型稲作産地であることを新たな地域イメージに結びつけようという機運が持ち上がったこと、Aそのためには減反をめぐる対立の超克が不可欠の条件になったことなどであり、これを活かすための環境創造型農業運動がカギとなっている。
担当部分:農業者を含む数十名の共同研究(一部、文部省科研費地域連携研究)の成果の一部であり、分離できない。
著者:谷口吉光、佐藤了、北原克宣
稲作の構造はどう変わる
46.農林水産省が「食糧法」を基幹とする米政策の破綻を認め、「集落程度の広がりをもった地域」を単位とする構造改革など政策転換を提唱している。だが、それが本来の目的に添って機能していくには、@構造政策とは別体系で、その前提をなす農村政策の樹立、A政府がガット・ウルグアイラウンドを受け入れ、食糧法を施行してからの政策の失敗によって発生した債務軽減の論理、Bセーフティ・ネットの内容充実で、具体的には環境・資源保全支払や租税公課免除などの手法、さらにはリスク対応可能な地域・市場密着型の人づくりプログラムなどが前提的条件整備が必要である。


(その他)

峰浜村農業振興計画基本調査報告書
1.秋田県峰浜村の依頼で農業振興10年計画樹立のため、基本調査を実施し、峰浜型立体的複合農業による総合産地を目指す「農業振興に関する提言」ならびに「峰浜村農業の展開過程」「計画づくりの手順」を担当執筆した。この計画策定過程では、計画策定主体と計画実践主体の可能な限りの一致を目指して若手農業者を事務局員として配置して自ら学習し自らの経営を計画するように援助し、要所で250人委員会を開催するなど住民参加型の手法を取って住民の動機付けを重視したが、その成果は同村における複合経営の実践の形で現れている。
担当部分:佐藤は、本調査の研究者側事務局長役を担当し、共著部分は佐藤が下書し、太田原高昭、阿部健一郎と討論して作成。
著者:太田原高昭、阿部健一郎、佐藤了、守友裕一、三浦賢治、照井義宣、鈴木久明、平川満男、佐藤寿三、小沢章、斉藤了、柴田春雄、佐々木正芳、瀬下良行、佐々木正憲、芹田正嗣、笠原一二、米森万寿美、田村憲一、佐々木喜兵衛
地域営農組織化実態調査報告書
2. 地域営農組織化実態について全国分担し、「全町ブロックローテーションと新作目導入によるあたらしいむらづくりの実践ー埼玉県江南町農協」を担当執筆した。水田転作問題を農協ならびに集落組織が攻勢的に受け止め全員参加型の合意形成を図ることによって個々バラバラな対応では得られない成果が得られ、その中から若い担い手の育成の手がかりも得られることを事例分析から論証した。
著者:佐藤了、寺崎光政 全文を佐藤が執筆し、共同調査者の寺崎が部分的加筆。
茨城県北浦村農業振興計画調査報告書
3. 茨城県北浦村の依頼で農業振興計画樹立のため、基本調査を秋田県峰浜村(その他1参照)で開発した住民参加型の手法で実施し、「北浦村における水田利用の展開と組織化の課題」を担当執筆した。同村では、その後この調査報告書を基にして農業振興計画を作り、自ら計画を作り自ら実践するやり方は現在なお継続している。
担当部分:調査企画全般および分担執筆分担執筆者:中村恵一、今井健、福与徳文、山崎亮一、高津戸昭三、中島紀一、小松徹夫、佐藤了、千田雅之、小野智昭、横川洋、黒沢正樹
農業振興方策に関するコンサルタント意見書
4.  秋田県大内町の農業振興方策について「水田農業確立対策のあり方−特に野菜産地の育成を中心として」を担当執筆した。同町は、山間・中間・低地(本荘市近郊)の三部分からなるが、野菜作等農業集約化への取り組みは中山間から重点的に進んでおり、そうした地域的特色を生かした基盤整備をはじめ各種の農業振興方策を取ることが必要である。
執筆者:金沢夏樹、佐藤了、秋山邦裕
高齢者農業ビジョン策定調査報告書「生き活き農業」のむらをめざして
5.秋田県峰浜村の依頼で高齢者農業ビジョン策定のための調査を企画実施し、部分的に担当執筆した。前掲報告書(その他1)では、峰浜型立体的複合経営を実践して「もうかる農業」を実現しようとしたが、それだけでは村に潜在するエネルギーを汲み尽くせない。その観点から、「もうかる農業」の一環でありながら、高齢者の能力開発と経済力向上を目指し、55歳以上の村民全員を対象に調査を実施し、地域の特性に即した多様な物産を地元の市で販売する形態の「生き活き農業」を提唱し、その実現のための方策を提言した。
担当部分:調査企画全般と分担執筆分担執筆者:太田原高昭、阿部健一郎、佐藤了、佐藤百合香、神谷一夫、安中誠司、鈴木久明、佐々木喜兵衛、森川辰夫
峰浜村地域農政推進対策事報告No3「生き活き美人」のむらをめざして
6.  秋田県峰浜村の依頼で農家女性農業ビジョン策定のための調査を企画実施し、担当執筆した。地域農業振興計画の実施に向けてその他1、4を策定してきたが、複合経営等を実施しようとすると、その主な働き手として女性の占めるウエイトが稲単作の場合よりも大きく、しかも高齢化が顕著な中で高齢者介護の主たる担い手が女性であることもあって、村に在住する18歳以上65歳未満の女性1,529名に対して、現状や今後の発展方向と条件などについてのアンケート調査を実施し、改善方向を提言した。
担当部分:調査企画全般と分担執筆分担執筆者:阿部健一郎、佐藤了、佐藤百合
いわて型集落営農を進めよう
7.JA岩手県農協中央会の依頼で研究会委員として参画し、2年間の研究会の成果を踏まえて報告書の編集を担当するとともに「集落営農の進め方」を担当執筆した。集落や地域に農業の担い手が少なくなってきたため、JA等が従来の家単位の営農から集落単位での営農に変えていこうという目標を掲げるようになって十年あまり経つが、なかなか現実には組織化が進まない。このため徹底的に住民参加型の進め方をするための留意点について論じた。
担当部分:報告書編序案と分担執筆分担執筆者:窪谷順次、佐藤了、関野幸二、佐々木正勝、下弘明、村松恵子、杉田盛彦
集落協調型農業への取り組について−考え方と調査事例
8. 上記「その他7」で示した住民参加型集落営農の進め方について、JA青森県農協中央会も採用することとなり、その依頼で青森県の実状等も加味して基調講演した記録を同中央会が収録した。具体的には、集落単位の営農の必然性が現実動向の中に伏在していることや、それを表面化させるためには、忌憚ない将来予測→地域や集落の夢を語る→担い手は誰か期待を多いに語る→彼らの実践に委ね、支えていくという「脅す」「騙す」「煽てる」「我慢する」の4要素を丁寧に実施していくことが重要である。
地域農場システムづくり事例集−農用地利用調整と担い手づくりを現地に見る−
9.東北地域の条件に適合的な一形態として作業受託会社(地域生産組合)を中心とした新複合営農モデルが措定される。その典型例として福島県原町市の高平生産組合を取り上げ、それが大区画基盤整備を契機とした農地流動化するという方向ではなく、広域の受託会社を創設して作業受委託を進めつつ、地域水田農業の主要作業をカバーし、地域農業の中心を担うのは施設園芸と水田作を組み合わせた複合経営という具体像が描かれ、その方向に計画実践するとき、地域の活性度は高まることを実証的に検討した。
担当部分:典型事例調査分析、執筆を担当しつつ、目標としての「地域農場システム」の概念の明確化に提言する。
分担執筆者:佐藤了、渕野雄二郎・池野雅
文、八木宏典・李哉弦・木下幸雄、木南章、岩元泉
農村高齢化時代における担い手確保の課題
10.農村高齢化のテンポは、現在は中四国、近未来に東北とりわけ秋田で高進する予測である。担い手確保の課題の中心は若年就農者の確保にあるが、それにつながる動きは、単に規模が大きいところで発生しているわけではない。そうした経営基盤的条件に加えて、@販売加工への展開、消費者との出会いや連携などによる農業の範囲の拡大、Aそれぞれ個性的な起業家精神が旺盛なだけでなく、仲間とのルールに基づく多様な協同関係の形成、B地域農業の異端ではなく、中核を担いつつあるところで発生している。今後、こうした動きを強化する地域方策が求められる。
ひとを活かし、農を興す豊かなむらをめざしてー次世代に渡せる集落づくり(新農村・集落創造運動)
11. いま、農村では、「このままでは農業を子供に継がせられない」「このままでは地域で作る人がいなくなる」という問題状況が進行しているが、これに対して一集落ないし数集落を範囲として地域の営農と生活の問題解決を求めていく運動は理想ではあるがなかなか進まない。そこで関係者が楽しみながら徹底した対話によって運動の進行を支援する諸方策を、むらづくり組合の結成と運営管理、営農集団づくりと運営管理にわたって具体的に記述した。
担当部分:「新しい農村・集落創造運動」推進方策研究会の総括座長として研究会を総括するとともに編序を担当し、分担執筆した。
分担執筆者:東山寛、佐藤了、北原克宣
次世代に渡せる鳥海流域農業と新農協づくりーJA秋田しんせい地域農業振興計画に係る調査研究報告書―
12.@本報告書は秋田県本荘・由利地区(11市町)を対象とした合併農協秋田しんせい農協における農業振興計画策定のための調査研究報告書である、A11市町に機関・代表農家調査を実施するとともに、農家1,497名、JA・役場等の職員1,027名などに対するアンケートを企画・実施し、計画の基本的方向付けを行った。
担当部分:研究者6名による研究会の座長として調査研究全体の企画・運営を担当し、報告書の編集ならびに総括部分の執筆を担当した(1-31頁)。
分担執筆者:佐藤了、小野雅之、東山寛、北原克宣、角田毅、小沢亙
環境保全型農業に関する産学共同研究の取り組みー秋田県大潟村の「環境保全プロジェクト」の活動ー
13.論文44,45などで言及した秋田県大潟村における昨今の環境保全型農業の動向、うねりは、秋田県立大学および同短期大学部と大潟村農家の産学共同研究の取り組みを基盤として生まれているものであることを、事実関係の経過を紹介することで示した。
担当部分:谷口吉光・佐藤了の共著であるが、谷口が書き下ろし、佐藤がそれをチェックした
(文部省科学研究費報告書)
『限界閉鎖系水圏環境における環境保全型農法の高度化と測定評価に関する研究』(課題番号11793011
14. 近年、急速な経済発展が地球的規模で環境問題を顕在化させ、改めて環境と開発の両立が問われている。近代日本最大の干拓事業であった八郎潟干拓は、干拓地を閉鎖系水圏環境に置くことになったため、干拓地の営農展開の如何が八郎潟残存湖の水質に直接影響を与えることとなった。このため本研究は、水質汚濁構造の確定、環境保全型農法の高度化と技術的・経済的・環境的評価、同農法の普及定着の社会的な諸契機と手法を解明して同農法の実用と普及に寄与することをねらいとする。担当部分:「本研究のねらいと課題」(1-4頁)、研究代表者佐藤敦教授を補佐し、本研究の企画・推進の役割を担当した。
分担執筆者:佐藤了、佐藤敦、近藤正、佐藤照男、千葉和夫、天羽弘一、角田毅、鈴木直健、中村勝則、稲元民夫、神宮字寛、北原克宣、谷口吉光(以下同様)
同上報告書
14.担当部分:@「不耕起稲栽培の経済性評価」(佐藤了・中村勝則、67-76頁)著書16とほぼ同内容である。A「ヨーロッパ視察・研究交流報告:はじめに−視察および研究交流のねらい−」(佐藤敦・佐藤了、93-94頁)「視察・研究交流の主要成果と今後の課題」(佐藤了・谷口吉光、95-100頁)
2000年9月に、本研究グループのヨーロッパ環境保全型農業の視察・研修を実施し、14名が参加し、オランダ(ドロンテン大学、ワーゲニンゲン大学など)、ドイツ(バーデンヴユルテムベルク州ホーエンハイム大学など)を訪問し、環境保全型農業の実態を視察するとともに、研究交流を図った。その結果、本研究グループの目標づけ、内容に加えて組織や実施体制まで、私たちの研究推進に大きく裨益するところがあった。とりわけオランダは干拓地の閉鎖性水域という共通条件に置かれているため、持続的農法の高度化と評価・普及・定着にかける研究者同士の深い交流ができた。B「農業技術普及における対話型手法の意義(N.ROLING教授の報告から)」(角田毅・佐藤了、159-164頁)
 研究・普及等の関係機関と農業者が対話することによって農業技術の普及を促進するという新しいアプローチの方法は、これからの農業技術の開発普及を進めていく上で有効であるばかりか、農業者の自信涵養や相互の信頼関係形成などの波及効果も認められる。C「An Overview of Sustainable Agriculture in Japan」(佐藤了・谷口吉光、185-188頁)
 日本における持続的農業あるいは有機農業の実践は「近代化農業」へのアンチテーゼとして1970年代に開始された。それは、産消提携と呼ばれる「消費者に支えられた農業(CSA)の形態をとって発達してきた。60年代から近代化農業の創出に力を入れてきた日本政府が持続的農業に着目するようになったのは、輸入農産物との厳しい競争や食の安全性と環境の質に対する人々の関心を背景にようやく90年代後半になってからのことである。しかし、日本はモンスーン気候にあるため、病虫害問題などで重大な制約を抱えており、われわれの研究グループはこの問題に一つのブレーク・スルーをもたらすために多数分野と農業者で協力しあって研究を進めている。
同上報告書
15.@「環境保全型農業をめぐる経営動向」(佐藤了・中村勝則・角田毅・鈴木直建、佐藤了執筆箇所:127-133頁、139頁、141頁)
 こだわり米への対応には、大別して@慣行栽培、A化学物質低投入化、B不耕起など汚濁軽減化の方向の三つがあるが、その選択を規定する要因は経営要素レベルで見いだすことは困難であり、単純な分水嶺があるというよりも経営総体としての異なった要因、経営判断が働いている。また、環境にやさしい生産技術の選択や生活技術の実施は廃プラから緑化まで高い環境保全意識が認められるが、その半面、自分が実施していないことに関しては知識が欠落しているばかりか、新技術への評価も農業者の間で一種の分裂状態を示す。これは、地域的に真に環境創造型農業を創り出そうとするならば、大きな制約条件・問題点となるという認識が必要である。
 A「地域連携研究の到達水準と残された課題―社会科学的視点から−」(佐藤了、195-212頁)
 本研究などの成果に立って大潟村農業は「環境創造型農業宣言」(
2001年6月)など地域農業の徹底した情報公開をテコとした新たな段階を作り上げる段階に到達したことが本研究の大きな成果の一つである。だが、その環境保全型農法技術の社会化プロセスには、誰が(生産者、消費者、財政=納税者)どのように費用を負担するかという費用負担問題、新技術導入に農業者だけでなく、消費者や関係者がどんな価値を認めるのか、何を望み、どんな意味を見いだすのかというミッション形成問題、「技術革新の舞台(platform of Innovations)」をだれがどのように作り上げるのかという実践的な社会的過程の促進(facilitate)問題が今後の課題として残された。