分解速度の決定

mRNAは、一定の時間ごとに半分・半分・半分、、、になるような減少の仕方をすることが古くから知られている。半分になるまでにかかる時間を半減期と称するが、これはmRNAの種類によって著しく異なる。安定なものは数日より長く、短いものは数分のオーダーである(レファレンス)。こうしたmRNAの分解の生化学的なメカニズムは(合成ほど詳細ではないものの)ある程度わかっている。mRNAは5'末端にCAP構造を、そして3'末端にpolyAを付加されてからサイトゾルへ輸送される。これらの特徴的な構造に結合するタンパク質群があり、それぞれがエンド型のRNaseによる分解からmRNAを保護している。ときに特異的な配列を認識するエキソ型のRNaseがあり、またこの酵素に拮抗する保護タンパク質がある。こうした配列を持つmRNAがいくつか見つかっている。以上を総合すると、RNaseはそれら保護タンパク質を「退かさないと」分解が始められない。しかしいったんCAP構造やpolyAが消失すれば、もう保護タンパクによる障壁はなくなる(またエキソ型のRNaseで切断されたmRNAは保護されない、保護タンパクが結合できなから)。

ポリAに結合して守るタンパク質と攻める魚の攻防

以上から、mRNAの分解反応の律速段階は、このエンド型酵素と保護タンパクとの拮抗段階にある。保護タンパク質を退かすためには、保護タンパク質とmRNAの結合で放出された分の自由エネルギー変化ΔEdを補填する必要がある(これはブラウン運動などによって供給されるのだろう)。この関係は、Arrhenius equationで表すことができる。Eq.2に現われた、分解速度を決定する定数であるkd(degradationのk)と、そのEd(degradationのE)の関係は次のとおり。

Eq. 14 kdgene, cell = Ad exp (-Edgene, cell/R/T)
ただしAdはprefactor(頻度定数)でRNAの加水分解に関する定数、Rは気体定数、Tは絶対温度。

mRNAごとに大きく異なる半減期は、ひとつには、polyAの長さで決定されるだろう。また3'末端の構造が、より保護タンパク質を結合させやすくなっていれば、それだけ半減期は長くなるだろう。とはいえ、これらは(ある程度)決定されている事項のように思われる;つまり、途中変更がしにくいのだ。基本的にはmRNAの半減期は、それぞれあまり変化しないのではないか。
とはいえ、細胞内でmRNAに結合するタンパク質の活性濃度は変化しうる。これによってEdは変化するだろう。

Eq. 15 Edgene, cell ≡ ΣΔ Edcis, gene, cell =Σ khcis, gene × Kbcis, gene ×[RNA binding proteincis]cell
mRNA上の構造を「cis因子」と呼ぶのは不適切かもしれませんが...その配列と、そこにつくタンパクを特定するために。 khはそのタンパクの活性定数(hideのk、どれだけRNaseにとってジャマなのか)、Kbは結合の平衡定数。

もし、あるmRNAの濃度を分解で調節する必要があるのなら、おそらく配列特異性をもったエキソ型のRNaseと保護タンパク質に頼ることになるだろう。当然ながらこれにはコストがかかる。ひとつの遺伝子産物をコントロールするために、あと最低でも2つの産物が必要だからだ。こうしたmRNAは、基本的には発現量をごく低く抑制する必要があり、なおかつ必要なときにある程度の量がすぐに用意できるよう作り続けるようなものに限られるだろう。実際、このような調節を受けるmRNAとしてよく知られている例はc-fosやc-mycである。
しかしながら、この認識配列を複数のセットのmRNAがもし持つのなら、この配列特異性をもったエキソ型のRNaseと保護タンパク質のレシピを変えることで、トランスクリプトームの一部をまとめてがらっと(オンオフするように)変えることができる。この仕組みを使えば、細胞の機能を大きく変えることができるだろう。

Eq. 2と14から、分解速度をRNA binding proteinが与える自由エネルギーで表すことができる。

Eq. 16 vdgene, cell =Ad × exp (-Edgene, cell/R/T) × [mRNAgene, cell]