合成と分解のバランスがmRNAの量を決める

ここに迅速平衡を仮定する

最初の仮定は、あらゆるmRNAは合成と分解の間のバランスで量が保たれている である。

バケツに穴が開いている。そのバケツに水が注がれている。バケツの水位は、穴の大きさと流入速度とによって決定される。

これは穴の開いたバケツの絵で、穴から出てくる水は分解を、バケツに注いでいる水は合成を例えている。
バケツの水位は流出速度と流入速度によって決まる。
流出速度は水位に依存する。水位が下がれば速度は下がるし、上がれば速度も上がる。
そこで、流入速度とバケツの穴の大きさが決まれば、水位は一義的に決まる。
その状態では流入速度と流出速度は等しくなり、水は入れ替わりながら水位は固定され、平衡状態になる。
穴が拡大すれば水位はどこか一定のところまで下がり、次の平衡状態になる。流入速度が上がれば水位は一定のところまで上がり次の平衡状態になる。

もし細胞が必要なだけの追従性能を持つのなら、一つの平衡状態から次の平衡状態までの変化は(必要なだけ)迅速におきる (これはどれだけのコストを使って水を入れ替えているのかによる; より迅速な追従のためにはより頻繁な入れ替えが必要だ。 とはいえ、必要なだけの追従性能を持たなければその細胞は生き残れないだろうから、
いま生きている細胞はそのコストを支払っているのだろう)。
そのとき、ひとつの平衡状態から次の平衡状態まで遷移する間、流入と流出とのあいだの均衡は大きく崩れることはない。
そこで流入速度vsと流出速度vsが常に(逆向き向きで絶対値が)等しいと考えることができる。

Eq. 1 vsgene, cell = -vdgene, cell

合成と分解の均衡を実現する十分な条件は、分解速度か合成速度のいずれか一方が、mRNAの濃度によるフィードバックを受けることだ。合成なら負の、分解なら正のフィードバックである。逆だと定常状態が期待できない。

分解に関しての知見はかなり古くから得られている。すなわち、mRNAの分解速度はその濃度に比例するということで、これはパルス・チェイス実験などから明らかになっている。つまり、分解速度vdは(ちょうどバケツからの流出速度のように)mRNAの量に依存するのだ。この関係を数式で表すとこのようになる。

Eq. 2 vdgene, cell = kdgene, cell[mRNAgene, cell]
kdは遺伝子geneとその細胞cellに固有な定数。