既存の知識体系の不完全さ

残念ながら、分子生物学は定量性をもった体系を用意してこなかった。
しかも、これまでに調べられてきた知識は、
興味のある遺伝子に限られた調査に基づいている。

これまでの知識は(極言するなら)不完全で、不正確なものだ。
マイクロアレイのデータを組み込むための体系としては貧弱である。
そこで、新たな体系を用意するべき、である。

しかし、ちょうど不完全で不正確な似顔絵がよく特徴をつかむように、
旧い知識にもある現象の特徴をよく捉えているケースがある。
よく研究されている現象は、もっとも極端な変化をみせる場面で、
よく変動する遺伝子とともに測定されていることが多い。
また、こうした現象や付随するキーワードは、研究者に浸透している。
それは知見の共有という面において、なるべく有効に使うべきだ。

知識体系をつくればいいのなら、つくっていこう。

幸いにも、多くの良く研究された生命現象が、
マイクロアレイの普及にともなって、追試されている。
そうしたケースで、データが公開されているものがある。
こうしたデータを用いて(または自分で追試して)体系を用意することができる。

いつの日にかその体系は、
熱力学モデルの論文に書いたあのスプレッドシートのカタチで現われるだろう。
しかし当面はあれは無理で、それまでに例の定数を明らかにせねばならない。

当面できることはなにか? 
最も手っ取り早いのは、代表的な生命現象をレシオベースで測定した
データのリストを作ることだ。そのデータを、既存の知識として利用するのだ。
熱力学モデルによると、遺伝子発現のレシオは、
たとえばチップ間でも共通に比較することができる。
そこで、ある現象にともなう遺伝子発現の変化について、
そのレシオを指標に比較することが可能である。


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