本学教員らの共同研究チームの成果が国際学術誌「Nature Communications」に掲載されました

 このたび、本学生物資源科学部生物生産科学科の原 光二郎 准教授([専門]:分子生物学、植物工学)らの共同研究チームの研究成果が、英国のオンライン科学誌「Nature Communications」に掲載されました。

発表のポイント

・植物や藻類は一般的に、太陽光にふくまれる光の中でも可視光しか光合成に利用することができない。南極に繁殖するある藻類は赤外線を光合成に利用することができるが、その仕組みはわかっていなかった。
・その藻類が赤外線で光合成をするために使われるタンパク質の構造を、クライオ電子顕微鏡と呼ばれる装置で明らかにした。
・太陽系外で見つかっている惑星の多くは、太陽より温度が低く主に赤外線を出す恒星の周りにあり、赤外線を光合成に利用する生命の可能性が示唆されている。今回の成果は、そうした生命の可能性を探る手掛かりかもしれない。

研究概要

アストロバイオロジーセンターの小杉 真貴子 特任研究員(現、基礎生物学研究所 特任助教、および中央大学共同研究員)、高エネルギー加速器研究機構(KEK) 物質構造科学研究所の川崎 政人 准教授、安達 成彦 特任准教授、守屋 俊夫 特任准教授、千田 俊哉 教授、東北大学の柴田 穣 准教授、秋田県立大学の原 光二郎 准教授、東京農業大学の高市 真一 元教授、基礎生物学研究所の亀井 保博 RMC教授、兵庫県立大学の菓子野 康浩 准教授、国立極地研究所の工藤 栄 教授、中央大学の小池 裕幸 教授の研究チームは、赤外線の一部である遠赤色光(700~800 nm)で酸素発生型の光合成を行うことが知られている緑藻ナンキョクカワノリにおいて、遠赤色光を吸収するための光捕集アンテナタンパク質(Pc-frLHC)を同定し、KEKにあるクライオ電子顕微鏡による単粒子解析によりその分子の立体構造を明らかにしました。Pc-frLHCは11個の同じタンパク質がリング状に結合した大きな複合体を作っていました。1つのタンパク質にそれぞれ11個のクロロフィルが結合しており、このうちの5つのクロロフィルが遠赤色光の吸収に関わる特別なクロロフィルであると示唆されました。分光学的な解析から、この特別なクロロフィルに吸収された遠赤色光のエネルギーの一部がPc-frLHC内で可視光と同等のエネルギーに変換されて光合成利用されていることを示しました。この結果は、英国の科学誌『Nature Communications』に2023年2月15日付で掲載されました(Kosugi et al., 2023, “Uphill energy transfer mechanism for photosynthesis in an Antarctic alga”)。

原准教授のコメント

極寒の南極大陸では、土壌が氷に覆われ、冷たく乾燥した強風が吹き、夏の間は大量の紫外線も降り注ぐなど、生物の生存にとって厳しい環境です。しかし、そんな南極にも、藻類やコケ類、地衣類などが極限環境に適応して生育しています。今回、遠赤色光を使って光合成するナンキョクカワノリという緑藻を研究対象として、その独特な光合成システムを構成するタンパク質(Pc-frLHC)の同定に関わりました。今後、このような遠赤色光を利用する独特な光合成システムがどのように生物界で進化してきたのか、理解が進むと考えられます。また、同じように極限環境に生育する地衣類の光合成システムはどうなっているのか、ゲノム情報や培養技術を活用して研究を進めていきたいと思っています。

掲載論文

〇著者: Makiko Kosugi, Masato Kawasaki, Yutaka Shibata, Kojiro Hara, Shinichi Takaichi, Toshio Moriya, Naruhiko Adachi, Yasuhiro Kamei, Yasuhiro Kashino, Sakae Kudoh, Hiroyuki Koike & Toshiya Senda
〇表題:Uphill energy transfer mechanism for photosynthesis in an Antarctic alga
〇雑誌:Nature Communications
〇DOI: 10.1038/s41467-023-36245-1
〇Publication date: 15 February 2023