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ちょっといい科学の話

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「あれ」の効用

総合科学教育研究センター
教授 桧山 晋

 「ほら、あれだよ、あれ」名前が出てこなくて、自分にうんざりしたり、相手がイライラしたり―そんな経験はありませんか。評判の悪そうな「あれ」ですが、そんなに悪者なのでしょうか。この言葉の効用を考えてみましょう。
 これだけ名前が氾濫している世の中はこれまでにありませんでした。とりわけ日本語は仮名・漢字・アルファベットと多様な表記法を持つ言語ですから、次々と新語が生まれます。「あれ」は、こうした世の中で生きるための処世術と考えてはいかがでしょうか。
 名前が出てこない時は、「あれはおいしかったね」などと述語まで言うとよいでしょう。「おいしい」と聞いて、「先週食べた寿司のこと?」と相手が反応してくれるかもしれません。このような「あれ」と「寿司」の対応を言語学では照応(しょうおう)と呼びます。「寿司」の話がでてから「あれ」等の代名詞が使われること(前方照応)が普通ですが、逆の順番(後方照応)を使って「あれはおいしいね。××の寿司は」とも言えますし、少し感情がこもった感じさえします。
 とはいえ、「あれ」の多用は控えましょう。一回に一度にするのが無難です。英語の“That's it”に「おしまい」の意味があるように、「あれはあれだ」では会話も終わってしまいかねませんから―。

※このコラムは、平成21年3月22日付け秋田魁新報朝刊に掲載されたものです。