[秋田県立大学] トップページ > ちょっといい科学の話 > “近赤外分光法”をよみがえらせたのは、意外にも“数学”だった

ちょっといい科学の話

印刷する

“近赤外分光法”をよみがえらせたのは、意外にも“数学”だった

生物資源科学部応用生物科学科
助教授  陳 介余

近赤外分光法は食品科学分野をはじめ、農業・医薬・環境などきわめて広範囲な研究分野で用いられています。近赤外光とは、700nmから2500nmにわたる波長領域の電磁波です。近赤外光は1800年、イギリスの音楽家(Herschel)によって発見されました。近赤外分光法は物質が放出したり吸収したりする近赤外光を測定して、その物質の性質を分析する方法です。しかし、近赤外光は赤外光と較べて物質をほとんど透過してしまう(物質の透過性が高い)こと、また種々の物質からの近赤外光シグナルがたくさん入り混じってしまうことにより、測定結果を解釈することが非常に困難でした。1960年代の後半まで、近赤外分光法は赤外分光法に較べて利点はほとんどなく、利用しにくいという評価をされてしまい、長く眠っていました。近赤外分光法が “Sleeping Giant(眠れる巨人)”と呼ばれていたのはこのためです。

この眠れる巨人をベッドからたたき起こしたのが、今日、“近赤外分光法の父”と呼ばれているアメリカ農務省のK.Norrisです。K.Norrisは分光学者ではなかったので、これまでの伝統的な分光法にとらわれませんでした。彼は、重回帰分析法とよばれる数学(統計的解析法)を近赤外分光法の測定結果分析に応用することを考えつき、見事に解釈したのです。このことにより、近赤外分光法のもつ短所は一転して長所に変わりました。例えば、物質の透過性が高い点を活かし、非破壊・無侵襲分析法として農産物などの食品をすりつぶすことなく、含有される成分を分析することができるようになりました。また、種々の物質からの近赤外光シグナルがたくさん入り混じってしまう点は、多くの成分の同時分析を可能としました。現在、近赤外分光法はもっとも脚光を浴びる分光法として活用されています。

近赤外分析法の歴史は、固定概念にとらわれることなく独創的な発想をすることの重要性を私たちに教えてくれています。

※このコラムは、平成17年10月16日付け秋田魁新報朝刊に掲載されたものです。

 

ページの先頭へ