取組の趣旨・目的

平成18年、秋田県立大学生物資源科学部に秋田県立大学短期大学部が統合された。これを機に、従来から実施されていた「くさび型教育」(1・2年次から専門科目が履修できるカリキュラム)の活用と、短大が有していた「農業・農村プロジェクト教育」という教育手法の幅広な適用及び新たな取組の付加によって、入り口から出口までの教育課程(正課及び正課外)を通して、農業・農村の振興に寄与する人材育成を目指す、新たなキャリア養成システムとして本取組を進めている。

 本取組は、1・2年生の段階で農業・農村に関する自然科学的理解と社会科学的認識の素養を養いつつ、2・3年生の段階で在野の専門家や熟練者の知恵にふれる「課外ワークショップ講座」により卒業後の職業に対するイメージの鮮明化を図り、3・4年生の段階で実社会の具体的課題に対して総合的に課題克服に挑戦する「プロジェクト実践」と農業関連の職種を実体験する「弟子入りチャレンジワーク」を通して、学生の実践的な活動を大学と地域・社会・企業が連携して評価するシステムであり、「ふるさとキャリア」の認定をおこなうものである。

 ここに提起する「ふるさとキャリア」とは、地域・社会との濃密な接触を通じて、停滞傾向にある農業・農村及び地方社会の実態を把握でき、その克服に向けた新たな農業関連職種を担う、また農村ビジネスの創造をなし得る知識や技術の修得とふるさとへの献身意欲を要件とする、新たな職業資格である。農業・農村の再生に寄与できるキャリア育成を目標とする本取組、すなわち学際的講義と職業教育の統合、及び社会とふれあう実体験の学生への提供は、生物資源科学部の範囲で平成19年度から実施するものである。

①取組における学生教育の目標や養成する人材像


 今日、危機にたつ農業・農村を鑑みるに、これまで農学がいかなる役割を果たしてきたのかという疑問を呈さずにはおれない。しかし国民の多くが農業・農村の維持発展を希望しており、そこにおける課題を克服しうるような人材育成を求めている。このような課題に対応できる人材に必要な能力を醸成することが本取組のテーマであり、次の5つの能力を育むことを目的としている。


<1> ものを生産する能力及び生産するプロセスを把握する力(Productivity Skill)

<2> 農村地域における様々な人々を組織し運営する力(Organizing Skill)

<3> 人々と協働して課題を整理し具体的に対処する力(Teamwork & Collaboration)

<4> 農産物を供給する者として、生産から消費者の手に届く過程において、社会的

  責務を判断できる力(Social Justice)

<5> 農学に不可欠な農村地域の文化・伝統を守り抜く力(Maintaining Culture)


 これらの諸能力を育み、具体的課題に取り組める人材育成に寄与する。

2年目の取組


 2年目は、1年目の取組(学際的授業工夫、課外ワークショップ講座等)についての評価をおこない、より一層充実させるが、新たに次の二点を整備する。

 第一に、6つの「プロジェクト実践」の具体的な整備である。3年生になると、既存の研究室所属を選ばない学生はいずれかの「プロジェクト実践」に所属し、複数の教員団との間で綿密な実践計画を策定し、農業生産ないし農業・農村の振興に関する実践的取組を展開することになる。この段階で、学生は「ふるさとキャリア」の意義を再度確認しながら、自らの活動を展開する。教員団は連携して学生の希望に添うような活動支援をおこなう。


 第二に、大学と地域・社会との連携強化を目指した「弟子入りチャレンジワーク」の新設である。「弟子入りチャレンジワーク」とは、実社会での職業体験という意味で「インターンシップ」と類似の取組であるが、短期間のため実社会との表層的な関与にとどまる従来のインターンシップの弱点を克服するものである。すなわち、各「プロジェクト実践」に所属する3年生は、夏休みや休日を利用しながら21日間、学生が自主的に選択した、自らの実践課題に関係する職種に従事し、実社会の現場業務を体験する。さらに、学生を受け入れた企業・団体・組織において「学生チャレンジ評価委員会」を設置し、学生の実践活動の評価をおこなうとともに、実社会が求めているニーズを学生に伝える。






 3年目は、1年目・2年目の取組(学際的授業工夫、課題ワークショップ講座、プロジェクト実践、弟子入りチャレンジワーク等)についての再修正をおこない、質の向上を図るが、加えて新たに次の二点を整備する。


 第一に、3重の活動評価の体制の整備である。3年生における計画と実践リハーサル、4年生における本格的実践の活動について、1)学生自身による評価(「実践課題研究発表会」における合評会)、2)指導教員団による評価(「プロジェクト指導評価会」)、3)6つの「プロジェクト実践」に関する評価体制(諸事業体・地方公共団体等による「プロジェクト実践外部評価委員会」)を整え、評価活動をおこなう。


 第二に、「ふるさとキャリア認定」に関する条件整備である。諸指標に基づいた「ふるさとキャリア認定委員会」による学生への「ふるさとキャリア」の認定は、大学と地域・社会の双方が責任ある評価を下すものであり、一定の権威をもって地域・社会への定着に繋がることが期待できる。よって、評価指標の整備、認定委員会メンバーへの関心の惹起、県民への周知が取組内容となる。

取組の実施計画等

②取組が求める成果、効果等


 これまでの大学教育のシステムが「専門的知識の吸収にとどまる」「カリキュラムの連携が実社会の実践的課題に対応できない」ものであったために、大学教育によって得た知識と現実社会とが乖離し、さらには実社会における専門的知識の活用はもとより、その社会的位置づけも明確化できないという課題があった。これに対して、本取組では、実社会での位置づけを確認しながら、学生は専門課程で修得する知識・技術を学ぶことができるとともに、農業・農村社会の克服すべき新たな課題にふれることができる。社会と大学との相互連携的な教育の展開が図れるものであり、従来の大学教育の課題を克服するものである。


 具体的には、「課外ワークショップ講座」による実社会の、いわゆる在野の熟練者・名人との学術的交流や「弟子入りチャレンジワーク」という比較的長期にわたる現場体験を介した農業者・農業関連企業等との直接的ふれあいによって、学生は農業・農村の再建に関係する多様な職業の存在と就業の意義の自覚化する。また、「ふるさとキャリア」の認定システム整備は、学生にとって大学で学んだ知識や技能が広く地域全体から認められるという自負心の惹起を促すとともに、地域・社会サイドは認定した社会的責任を感じることになる。


 教職員プラス在野講師の連携的な職業教育システムは、地域に開かれた地方大学のあるべき姿の一つであり、本取組はその確立に寄与するものである。加えて、実社会の課題に立ち向かう心構え、職業意識を有する学生を送り出すことができる。

1年目の取組


 1年目において、以下の二つの取組を中心に実施する。

 本取組の第一として、学際性を重視した、理科と社会の専門科目の有機的連携の工夫をおこなうことである。1年生の履修科目として、農村への訪問や農業体験による農業実態の体験的理解を目標とする「農業・農村基礎実習」と、農産物の生産から加工までの過程における化学的・生物学的メカニズムの基礎の修得を目指す「化学生物学実験」とが専門科目(学部共通)として配置されている。


 「農業・農村基礎実習」において学生が気づいた諸事象に関連するテーマを「化学生物学実験」で検証するという有機的関係を構築する。また、2年生の学部共通科目である「国際農業開発論」「地域資源経済学」「農村社会学」と「農業生産学総論」「地域工学概論」等において、担当教員間の意思疎通を図り、農業生産に関する自然科学的な知識・技術と農業や農産物への社会的まなざしに関する社会科学的な見方とを身につけ、主体的関与を促す。1セメスター当たり15回の講義数のうち20〜30%は、各科目の有機的な連携を図り、幅広な学際的視野を提供する。


 本取組の第二として、職業教育の深化を図るため、多様な分野の専門家・熟練技術者を県内外から招聘し、農業・農村をめぐる職業教育講座「課外ワークショップ講座」を新たに体系的に整える。これらは2年生及び3年生を対象とし、1講座3時間とし、1時間の座学と2時間のワークショップにより、土曜日曜等を利用し実施する。講義内容については各講師と担当教員の間で詳細な打合せをおこなうが、現在想定している講師からは本趣旨への賛同を得ている。実社会の技術者・専門家・熟練者からなる招聘講師陣の講義と技術指導等は本取組の特徴であり、学生は実社会が求めている課題等について直接ふれることが可能となる。


 なお、次年度以降におこなう「プロジェクト実践」の活動基盤を準備する。農畜産物の生産等に関与するものであることから、本学の「フィールド教育研究センター」における活動基盤(圃場等の基盤整備、各種農畜産物導入、加工・販売の条件整備等)を整える必要がある。

3年目の取組