今後の研究の方向を考える

推定でもあり、願望でもあり、決意表明でも、お誘いでもある

いくつかの方法があると思う。

in vitroの実験系を利用

試験官内に転写を再現し、因子の量を人為的に変えて、転写量がどう変わるかを測定する方法。 かなり手間がかかるだろうけれど、正確に測定ができるだろう。ひとつの遺伝子に関して成功すれば次は簡単かもしれない。クロマチン構造などをどこまで再現するかによって困難さは変わるだろう。

一分子測定系を利用

2008年12月の生物物理学会に参加して、もっとも感銘を受けたことの一つが、この測定技術の進歩だった。もしRNApolymeraseと、できれば複数のタンパク因子を蛍光検出でき、さらに遺伝子を特定してイメージングできれば、その映像を解析することで、その時点での因子の濃度、転写速度、因子のKとk、そしてゲノムDNAの活性濃度など、知りたいこと全てがわかるのではないだろうか。これは分解についても同様である。ある特定のトランスクリプトを検出できれば半減期がわかる。また保護タンパクをイメージングできれば、半減期の調節機構についての新しい知見が得られるだろう。基本的にはこの作業を遺伝子の数だけ繰り返せば、その細胞のゲノム情報は解読できることになる(おそらく全部を測定する必要はないだろう)。この分野の技術がさらに進めばこれは可能だと思う。ゲノム配列だって読めたのだ。

数理的な方法

一見してわかるとおり、式 は連立方程式である。ただ方程式の数が数万あるために簡単には解けない。測定上のノイズもある。おそらく多くの異なる解が成立する。また多くの矛盾が生じる。しかし、ある程度の数の遺伝子について定数が実測されれば、他の未測定な領域についてを類推できるようになるだろう。

(そのころ、現在と同じ手法を用いているかどうかはわからないが)
マイクロアレイデータと組み合わせることで、ちょうど連立方程式を解く要領で、ある細胞が持つ全ての因子の活性濃度を求めることができる。それがその細胞を特徴付けている、もっとも根源的な要素である。これがわかれば、どうして細胞がうまく機能しているか、そしてしていないかを、物質のレベルで理解できることになる。多くの疾病や老いをdisorder やloss of (gain of) functionとしてとらえるとこができれば、当然、対応策も変わってくるだろう。

トランスクリプトームのシミュレーション

たとえば、このデータを使って、正確で迅速なシミュレーションが可能になる。特定の遺伝子群だけを働かせたり休ませたりしたいときに、どうしたらいいだろう? 相乗効果を思い出してほしいのだけど、多くの因子を小さく動かすことで、その効果をひとつに集めることができるはずだ。1種類の薬剤を使うのならかなり多くの副作用が現れるだろう。しかし複数種類を使って因子群を少しずつ変えれば、その焦点における相乗効果は大きいものになる。これは、実際の患者や実験動物を相手にしている際には不可能なストラテジーだ。しかし、種々の薬剤の効果についてマイクロアレイをかけておけば、PC上でシミュレーションするのは簡単だ。納得ゆくまでシミュレーションをしてから動物で試せばいいのだ。これは全く新しい、副作用を抑えた投薬の方法になるだろう。