クロマチンの高次構造と発現について

高等生物では細胞は特有の機能・形態を持つように分化する。いったん分化した細胞はその状態を保ち、増殖しても分化は維持される。特に脊椎動物では、分化した細胞が元のような全能性をもった状態に戻ることは基本的にはないとされている(だからそれができるとニュースになる)。高等植物ではより可塑性があるとされているが、もちろん全ての植物細胞が全能性を有するわけではない。それができるのは限られた種の限られた品種の、限られた組織だけで、しかも常識外の濃度の植物ホルモンを与えられたときに、脱分化→再分化して新しい個体をつくることができる。この過程で染色体異常がおきたり、トランスポゾンが活性化されてコピー数が増大することもしばしば観察される。

細胞分化にはまだ未知のことも多いのだけど、ひとつ知られている要因にゲノムDNAのパッケージングがある。ゲノムDNAはヒストンにまきついた状態で、さらに高次な構造へとパッケージングされる。ヒストンとDNAは電荷によって会合する。ヒストンにある塩基性のアミノ酸がアセチル化されたりメチル化されたりすれば、ヒストンの正電荷が減る。リン酸化されればさらに電荷は減少するだろう。こうした変化は、ゲノムDNAのその周辺の高次構造を変え、よりRNAポリメラーゼとコンタクトしやすい状況をつくる(その逆も真)。

少なくともヒストンのアセチル化の状況に関しては、ゲノムの複製に際して保存されることがわかっている。これはDNAの塩基のメチル化によって指示される現象で、そしてDNAのメチル化の状況は複製に際して保たれるのだ。 不活性なゲノムの部位はよりヒストンへの強い巻きつきがあり、そうした部分のゲノムは強くパッケージされて、いわゆるヘテロクロマチンを形成する(その最たるものがBarr小体であろう)。こうした部位ではDNAとRNAポリメラーゼは会合することが困難だろう。

ひとつはヒストンを調節因子の一つとしてとらえることだろう(これには心理的な抵抗があるだろうけれど)。ヘテロクロマチンの部分にある、強くDNAをまきつけたヒストンは、たいへんKが小さく、かつ他の因子やRNAポリメラーゼを排除する、もっとも手強い負の因子である。その性質の変化は、化学修飾によってkが変わることで説明される。こう考えればモデルのシンプルさを保つことができる。

より実際的であろうのは、DNA濃度にかかる”活性”を考えることだろう。分化することによってDNAの活性濃度は不均一になると考える。これも測定可能な要素である。

というわけで、ここではこの活性を使っている。aで表わし、0 ≤ a ≤ 1 である。凝集したクロマチンでは0に近く、逆にオープンになっていれば1に近い。

この研究上のトピックスは近年とても盛んに研究されているので、あるいは新しい大きな発見があるかもしれない。