熱力学モデルには合目的性という項目はない。
生命は合理的に設計されたものではない。
むしろ一度もラインを止めないままに変化したものが、
結果オーライで生き残ったものだ。
その動作原理を語る目的には「合目的性」は必ずしも適わないだろう。
──もちろん、ある程度の合目的性がないと淘汰されるだろうし、
実際に「よく出来ている」と感じることは多々あるのだけど。
それが全てではない。
因子の変化をタイプファイすることで、
ある刺激が細胞にとっての何だったのかが
「知的な枠組み」のなかに組み込まれる。
これが熱力学モデルによる、
そこで何が起きていたのかを理解することの到達点だ。
この結果の出し方は、
人間がその結果を理解できるかどうかを前提にしていない。
いわゆる腑に落ちるものかどうかは問題ではない、
真実を抽出できるかどうかがここにおける問題だ。
たぶん人間は、もっと少ない情報で、
もっと単純なものしか腑に落とすことができない。
そのためにストーリーはとても有効な手段で、
その価値基準に「合目的性」を据えておくと話が速い。
ストーリーは不完全な要約であることから逃れ得ず、
見方を限定する働きを持つ(そうでなければ要約とは言えない)。
しかし科学が人間のための行為である以上、
ストーリーテリングの重要性はなくならないだろう。
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